2024年7月19日 (金)

梅雨明けなど

 石破 茂 です。
 関東地方の梅雨も明け、都心も酷暑の日々となりました。
 昭和40年代の小学生の頃、一学期の期末試験が終わり、ほとんど梅雨明けと同時に浦富海岸(鳥取県岩美町・山陰海岸国立公園)で二泊三日で行われた臨海学校は、本当に楽しい思い出です。「梅雨明け十日」と言いましたが、安定した天候で、波もほとんどなく、海はこの上なく透き通っており、淡水プールで100メートル以上泳げる「一級」の児童は約1.5キロメートルの遠泳に参加することを義務付けられたのですが、泳ぎ終わって飲んだ「飴湯」が冷えた体にこの上なく美味しく感じられたことを、今も鮮明に覚えています。
 この30年で、全国の海水浴場は二割減少、海水浴客はなんと八割も減少しているとのことです。日光を過度に浴びると紫外線の影響によって皮膚ガンを発症しやすいとの理由によるものなのかもしれませんが、「島国から海洋国家へ」とは言いながら、海に対する親近感が加速度的に希薄になっていくことに、危機感にも似た思いがしてなりません。

 

 度重なる自衛隊、中でも海上自衛隊の問題が噴出していることには、デジャヴの感を禁じ得ません。福田内閣で防衛大臣を拝命していた時、イージス艦衝突事案、航泊日誌破棄事案等々、多くの不祥事や事故が起こり、総理の命により防衛省改革会議が設置され、あらゆる論点を議論して改善の方向を提示したのですが、時間の経過とともに風化してしまったようで残念でなりません。潜水手当不正受給など、あってよいはずがありませんが、いつの間にここまでモラルが低下してしまったのか。護衛艦(潜水艦救難艦含む)は国家を体現しているのであり、その規律は、平素、陸(おか)を離れる機会が多いからこそ、より自律的に厳しいものであるべきなのに、「見えなければ、わからなければいい」ということにどうしてなってしまったのでしょうか。
 自衛隊は「国における最強の実力組織であるが故に、最高の規律が求められ、それに相応しい最高の栄誉が与えられる」という「軍隊」の本質から目を逸らせてきたことが今日の事態を招いたのだと私は確信しています。「自衛隊には必要最小限の装備と権限しか与えられていないので、憲法第9条第2項にいう『戦力』、つまり『陸海空軍その他の戦力』ではない」などという摩訶不思議な説明をし続け、「憲法第9条第2項はそのままにして、新たに第3項を新設して自衛隊を明記する」という改正案を唱えてきたことが、このような結果を招来したと言わざるを得ません。政治、特にもちろん私を含めた自民党が強く反省すべきは、まさしくこの点にこそあります。
 随分と以前にも書いたことですが、森喜朗内閣で防衛総括政務次官(今の副大臣)を拝命した時、かねてより畏敬してやまなかった吉原恒雄先生(当時拓殖大学教授・故人)を政務次官室にお招きした時、「石破さん、あなたは自衛隊を好きですか」と意外な質問をされ、「もちろん好きです」とお答えしたところ、「そうですか。あなたは総括政務次官を辞めるとき、きっと自衛隊を嫌いになっているでしょう」と仰いました。「あなたは自衛隊を好きだからこそ、良かれと思ってこれからいろいろな意見を述べるでしょう。そうすればするほどに疎まれる。残念ながらここはそういう組織なのです」と悲しそうに述べられた時のことを時折思い出しますし、その後、長官や大臣を務めながら、その言葉を強く実感したことでした。幸いにして多くの心ある防衛官僚や自衛官との出会いによって、私は自衛隊を嫌いになることはありませんでしたが、政治家が自衛隊に媚びるようになったり、意見を言わなくなったりすれば、文民統制など成り立つはずはありませんし、やがては国を亡ぼすことにもなりかねません。

 不祥事から国民の信頼を失い、大きな反省のもとに改革の方向性を打ち出したにもかかわらず、更なる不祥事が発覚した、というのは、自民党も同様です。もう一度気持ちを新たにして取り組まねばならないと思ったことでした。

 

 自民党総裁選挙について様々な報道があった週でした。「総裁選の号砲が鳴った」だの「立候補の決意を周囲に語った」だの、報道は選挙と人事にしか関心がないのか、言ってもいないことを書き立てますし、政策の内容に至っては全くと言ってよいほどに取り上げません。もしかすると政策について書く能力がないのかと疑いたくなるほどです。「正論を言っているばかりでは支持は広がらない」とのご指摘は有り難く承りますが、正論を敬遠する風潮を是認していてはいけないのではないでしょうか。政治ジャーナリストと称する方々の中にも、直接会ったことも話をしたこともないのにさも事情通のように論評される方々がおられ、これで世の中が良くなるはずはないと痛感させられます。

 

 トランプ前大統領の狙撃後の対応は、覚悟を決めた見事な政治家のそれでした。究極の時に人間の真価は出るものですし、「サスペンスとディールの大統領」の再登場の可能性を我々はよく認識して備えなくてはなりません。

 

 今週末、出来れば「プーチン重要論説集」(2023年・星海社刊)を読んでみたいと思っています。ロシア正教の熱心な信者とされているプーチン大統領は、その演説や論説の中で聖書をしばしば引用しますが、それがどのような文脈の中で、どのような論理構成で用いられているのか、これを知ることは大統領の思考を推し量る一つの大きな手掛かりとなるのではないか、対ロシア外交を語る上で重要なのではないか、と考えています。
 
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

| | コメント (0)

2024年7月18日 (木)

イシバチャンネル第百四十七弾「新紙幣について」

イシバチャンネル第百四十七弾「新紙幣について」をアップいたしました。

是非ご覧ください

| | コメント (1)

2024年7月12日 (金)

最近のおすすめ書籍など

 石破 茂 です。久しぶりに、最近読んで感銘を受けた本のご紹介です。

 

 「なぜ日本人はかくも幼稚になったのか」(福田和也著・1996年・角川春樹事務所)
 最近はあまりお見掛けいたしませんが、平成時代の初期、保守の若手論客として活躍した福田和也氏の論考です。「まず政治家が国民に『イヤなこと』を強いなければならない」「民主主義は万能の特効薬ではない」「『侵略戦争』か『聖戦』かという枠組みで戦争の意味を考えるのは間違いだ」等々、賛否は別として、物事の本質を正面から見極めて論じた論考には改めて深く考えさせられます。

 

 「矛盾だらけの日本の安全保障 『専守防衛』で日本は守れない」(冨沢暉元陸上幕僚長と田原総一朗の対談集・2016年・海竜社)
 正に題名通り、安全保障の本質を論じた対談集で、陸上自衛隊のトップを務められた冨沢氏の見解は地に足の着いた説得力に富むものですし、田原氏の質問も極めて巧みです。自分の雑駁な知識を整理するのにとても役立ち、改めて多くの貴重な示唆を受けました。

 

 「21世紀未来図 日本再生の構想 全体知識と時代認識」(寺島実郎著・2024年・岩波書店)
 経済、国際関係、安全保障等々、各般にわたって深い知識と鋭い洞察力を持って論じた素晴らしい一冊。今の米国を論じるにあたってのキーワードは「クリスチャン・シオニズム」であるとの指摘には、深く頷かされました。混迷する今の時代にあって、あるべき保守の思想とはこのようなものではないかと思います。
 寺島氏の著書以外は既に絶版かと思われますが、ネットでは入手可能です。是非ともご一読くださいませ。

 

 東京都知事選挙は大方の予想通りの結果となりました。石丸氏が二位に入ったことを意外とする向きもありますが、「基本的には保守系」「自民党ではない」「若くて見栄えが良い」「はっきりとモノを言う」という、今の時代の要請に当てはまった候補者であり、メディアが大きく取り上げたので、ある意味当然の結果であったのかもしれません。
 ご本人と一度も会ったことが無いので、単なるメディアを通じての印象となり恐縮ですが、開票日の同氏のインタビューの受け答え振りやその内容には少なからず違和感を覚えました。メディアからどれほど自分の意に沿わない質問をされても、インタビュアーの向こうにいる視聴者や読者に向かって出来るだけ丁寧な受け答えをしなければならない、というのは自戒を込めて思っていることですが、皮肉と冷笑を交えたような回答ぶりには残念な思いがいたしました。また、今後について問われた際、国政への意欲を披瀝し、「岸田総理の広島一区も選択肢」と述べた時にはやや興醒めした思いでした。四年前に安芸高田市長に立候補した時、そして今回都知事選挙に立候補した時、それぞれに語った政策に共感して投票した人の思いについては、どのように考えているのでしょうか。いつかご本人と話をする機会もあるかもしれませんので、あくまで現時点における私の感想です。

 

 小池知事はやはり二期八年間の実績に基づく安定感が評価されたのでしょうし、公約に掲げられた地下鉄駅のシェルター化や富士山噴火対策などを着実に実施し、全国のモデルとしていただきたいものです。
 蓮舫氏の敗因として、都知事選挙に国政の争点を持ち込んだことや、共産党との共闘を挙げる向きもありますが、詳細な分析はこれからなされることと思います。かつて社会党と共産党が推した美濃部亮吉知事の選挙の際、当時不人気な長期政権であった佐藤栄作政権を意識して「ストップ・ザ・サトウ」というキャッチフレーズが大きな効果を発揮した故事もあり、一概には言い切れないようにも思います。
 同時に行われた都議会議員補欠選挙が自民党の2勝6敗という結果に終わったことこそ、総括と反省が必要です。来年は都議会議員の本選挙、参院選などが控えており、「地方選の結果に一喜一憂しない」などと言っている場合ではありません。
 私が応援演説に行ったうち、府中市、板橋区では自民党候補が勝利できました。候補者も、応援体制も立派だったと思いますが、なによりも有権者の皆様に心よりお礼申し上げます。どちらの候補者も、自民党の数々の不祥事について率直にお詫びするとともに、それぞれの地域の課題と解決策を誠実に熱意を持って語っていたことが印象的でした。

 

 昨11日は、3月に急逝された元防衛大学校長 元神戸大学教授 元防衛省改革会議座長の五百籏頭真先生を送る会に参列して参りました。様々な事故や不祥事が続いた防衛省・自衛隊を改革する際、福田康夫内閣の防衛大臣として言葉に尽くせないご指導を賜りましたことに、心より感謝しております。「送る会」では蒲島郁夫氏、北岡伸一氏、御厨貴氏のお三方の弔辞が実に素晴らしいものでしたし、ご子息の五百籏頭薫・東大教授の謝辞も感銘深く拝聴いたしました。真のリベラリストであり、教育者であり、深く学問を究められた五百簱頭真先生の、御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。

 

 今週の都心は異様に暑い日々が続きました。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。
 

| | コメント (9)

«イシバチャンネル第百四十六弾「出生率」