2024年6月14日 (金)

各党間の信頼関係など

 石破 茂 です。
 今国会会期末まであと一週間となりましたが、緊張感もないままに日々が過ぎていくように思います。
 調査研究広報滞在費(旧・文書交通費)の使途の公開と残金の返納を義務付ける立法措置を講ずることで、5月31日に自民党・岸田総裁と維新の会・馬場代表との間で合意を見たはずなのですが、この立法措置を講ずる期限が合意文書には書かれていなかったため、自民党が「今国会中の立法は時間的に困難」(浜田国対委員長)としたのに対して、維新の会が「信用してほしいと言ったから合意文書に期限を入れなかったのに、騙された思い。嘘つき内閣だ」(馬場代表)と猛反発、総理は「早期に結論を得たいとの思いは変わらない。今後も誠心誠意対応していく」と述べられて事態の鎮静化を図ろうとしており、仮に維新の賛成が得られなくても、会期の延長のないままに政治資金規正法改正案を成立させることになるのでしょう。内容はともかくとして、せめてこの法案を成立させなければこの国会の意義そのものが問われることになります。今後維新との関係がどのようになるのか、現時点では全くわかりませんが「言った」「言わない」「誠心誠意」「嘘つき」などという、まるで子供の喧嘩のようなやり取りの光景が展開されていること自体に、国民は相当に嫌気がさしているように思われます。

 今国会では見送りとなることがほぼ確実となっている「緊急事態における衆議院議員の任期延長についての憲法改正の条文化」もそうなのですが、課題解決に向けた丁寧で充実した議論を可能とする、各党間の信頼関係が最近随分と希薄になっているように思えてなりません。与党、野党と立場は異なっても、共に国家の将来を思って国会議員になっているのですから、互いの立場を尊重して、理解と信頼を深めることは十分に可能なはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。違いを殊更に強調し、侮蔑的な言辞を弄してひたすら憎悪を煽るような政治的な手法は厳に慎まなければなりません。断定はできませんが、もしこれが小選挙区制の特性なのだとすれば、制度そのものをもう一度見直さなければならないのかもしれません。

 会期末が迫り、内閣不信任案の提出、解散の有無などが取り沙汰されていますが、いつも申し上げているとおり、衆議院の解散は内閣不信任案の可決や信任案の否決など、内閣と衆議院の立場の相違が明確となった場合に限り、内閣が主権者である国民の意思を問うために行われるべきものであって(憲法第69条「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」)、単に天皇の国事行為を定めたに過ぎない第7条を根拠として「今解散すれば勝てる」とばかりに衆議院を解散することは、国会を「国権の最高機関」とする憲法第41条の趣旨にも反することになるのではないでしょうか(私は政治的美称説には立っておりません)。
 すべての衆議院議員の身分を瞬時に失わせる解散権の行使は総理の権力の源泉とも言えますが、選挙に不安を抱える衆議院議員がこれに恐れおののく、という姿が、国権の最高機関の構成員の姿として正しいとは思えません。二院制を採る我が国においては参議院議員も三年に一度改選されるため、概ね二年に一度の頻度で国政選挙が行われているのが実情ですが、これでは国政が安定するのは困難でしょう。このテーマは憲法の議論の中でももっとクローズアップされるべきであり、私もより深く考えてみたいと思っております。
 かつて保利茂・衆議院議長は、衆議院の恣意的な解散を厳しく戒めた「解散権について」と題するメモを認められ、これは没後の昭和54年に公表されています。小泉総理の郵政解散の際に議論されたものの、最近はほとんど聞くことがありません。偉大な先輩の知恵を学ぶことの重要性を強く思う昨今です。

 16日日曜日は、自民党衆議院高知県第1選挙区支部の総会で南国市、17日月曜日は、自衛隊援護協力会の講演会で新潟市へ参ります。
 高知龍馬空港のある地には、かつて航空要員の養成を任務とする帝国海軍高知航空隊が所在し、戦争末期には練習機「白菊」も特攻機として用いられました。時速180キロの低速で、武装もほとんど搭載されていない同機は、護衛機も随伴しないままに沖縄特攻作戦に参加、夜間の特攻で戦果を挙げたものの、搭乗員の多くが還らぬ人となりました。
 先週末に地元鳥取市で出版祝賀会が行われた小河守氏の「平和への祈り-出征兵士と家族の記録」を読んだ時も思ったことですが、戦争は人の理性を失わせる狂気の所業であること、そして日本において数々の人命軽視の政策が遂行されたことを、我々は今一度認識し、その背景や理由を深く検証しなければなりません。

 先週より読み始めているのですが「エヴァンジェリカルズ アメリカ外交を動かすキリスト教福音主義」(マーク・R・アムスタッツ著・加藤万里子訳・橋爪大三郎解説・太田出版・2014年)は訳文もかなり難しくて、悪戦苦闘しております。大統領選挙を控えたアメリカのこれからを少しでも理解するために、何とか読了し、理解しようと思います。
 東京は梅雨入りも間近のようです。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2024年6月 7日 (金)

大学ゼミ講義など

 6日木曜日、政治資金規正法改正案が衆議院で可決されて参議院に送付され、今国会中の成立が確実となりました。「抜け穴だらけの欠陥法案」と世の中の評価は散々ですが、一歩前進ではあると思います。ただ、これで事成れりなのでは決してなく、事務所数やスタッフ数の制限など「よりカネのかからない政治活動」のあり方、政治資金パーティの開催頻度や非常識な利益率の制限などの「資金集めの適正化と透明化」、政党の公的な存在を明確にし、ガバナンスを律する「政党法の制定」、主権者の意思をより尊重する「選挙制度の改革」等が議論され、結論を得なくてはなりません。
 今回の政治改革が国民の関心も共感も呼ばなかったのは、最初から最後まで「政治家の論理」でしか議論されず、国民には「どうせカネに執着する薄汚い政治家たちが自分たちに都合の良い制度しか作ろうとしていない」としか映らなかったからでしょう。
 パーティ券の公開基準の引き下げに自民党が最後まで消極的だった理由は、「公開基準を現行の20万円から5万円にまで引き下げてしまえば、名前が表に出ることを嫌う企業や個人がパーティ券を買わなくなり、集金力の弱くなった議員がますます党に頼るようになって、その自立性が失われる」というそれなりに理屈の通ったものだったのですが、これはプロの政治家や関係者には理解されても、国民にはほとんど共感されないものだったように思います。

 

 これは憲法改正も同様で、憲法改正の機運が国民に全く盛り上がらないのも、テーマを「衆議院が解散された際に、有事や大規模災害が発生して、衆議院議員選挙の実施が困難になった場合、特例的にその任期を延長する」という、重要ではあっても極めてテクニカルな、かつ現行憲法に定めのある「参議院の緊急集会」との整合性が問われるものに絞ったため、国民には一体何のことだか全くわからない内容になったことによるものだと考えています。
 国民ウケを狙えばよいというものではないのはもちろんですが、主権者の共感を呼ばない「改革」は決して成功しない、ということをもう一度再認識する必要があると痛感しております。
 憲法改正については、衆議院の自民・公明・維新・国民で条文化の作業を行い、百人以上の賛成を得て改正原案を発議すべきとの議論もあるようですが、発議した後の展望が全く開けないまま、ただ痕跡を残すとのことであれば、あまり賛成は出来ません。くどいようで誠に恐縮ですが、「衆・参いずれかの四分の一の賛成で要求された際の臨時国会の召集期限を20日とする」という憲法改正であれば、すべての党の賛成が得られ、次回の総選挙においても直ちに国民投票が可能となるのではないでしょうか。「憲法改正は実際に出来るのだ」という体験を国民に共有して頂くことがまず第一だと思っています。併せて、憲法改正の発議は国会のみならず内閣も出来る、という点を再確認することも重要で、これは「憲法改正は専ら国会が決めること」との政府の傍観者的な姿勢を正すことにも繋がります。

 

 最近、大学のゼミ生を対象とした講演に呼ばれる機会が多く、昨6日は明治大学・政治経済学部の西川伸一教授の国会での「郊外ゼミ」でお話をして参りました。同教授の著書「城山三郎『官僚たちの夏』の政治学」(2015年・ロゴス刊)、「最高裁裁判官国民審査の実証的研究 『もうひとつの参政権』の復権をめざして」(2012年・五月書房刊)、「覚せい剤取締法の政治学」等を、この機会に大変興味深く、とても面白く読みました。自分の知らないことのいかに多いことか、今週もまた思い知らされたことでした。

 

 ゼミといえば、さる1日、大学時代のゼミナールの指導教授であった新田敏・慶大名誉教授(民法)の卒寿(90歳)のお祝いの同窓会に出席して参りました。1期生から30期生まで、参加者が200人を超える盛況で、昔と全く変わらぬ頭脳明晰ぶりの先生のお元気な姿に接してとても嬉しく思ったことでした。
 新田ゼミは指導の厳しいことで有名で、毎週1回、A4の用紙に出題される課題についてのレポート提出が義務付けられていたのですが、これが大変な難作業で、毎週ゼミの前夜は艱難辛苦、地獄の苦しみであったように記憶しています。当時はワープロもパソコンもなく、質の不足を量で補おうとばかりに鉛筆で小さな文字を書き連ねて提出していたのですが、先生はあの出来の良くないレポートを丁寧に添削してくださり、「ここは論理が飛躍している」「この部分の記述は説得力がある」等々のコメントを付して、A゜(エーマル)、A、A⁻(エーマイナス)からⅭ⁻(シーマイナス)まで評価を付けて翌週返却してくださいました(Ⅾ評価はなく、何も書かないで返却された場合は「評価に値せず」という意味だったそうです)。我々学生も大変でしたが、あれを毎週十数枚、丹念に読まれて評価される先生の方が何倍も大変なことだったろうと思います。多少なりとも論理的に物事を考えられるようになったのは、先生のご指導の賜物と心より感謝しております。卒業後45年が経ちましたが、学生時代に戻ったような久々に楽しいひとときでした。白寿(99歳)、百寿に至るまで、先生がご健勝であられますことを心より祈っております。

 

 本日は午後8時より、BSフジ「プライムニュース」で先崎彰容・日大教授と派閥の意義について討論します。先崎教授は見識の高い若手の論客で毎回学ばされることが多く、議論を楽しみにしております。
 明8日は鳥取市で、かねてより敬愛してやまない地元八頭町の自動車整備・販売会社の経営者である小河守氏の「平和への祈り 出征兵士と家族の記録」の出版記念会に参加する予定です。平和への願いと戦争の悲惨さが切々と綴られたこの小冊子が、広く鳥取県民の皆様に読まれることを願っております。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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2024年5月31日 (金)

「モンテロッソ」など

 石破 茂 です。
 昨30日木曜日、沖縄県議会議員選挙(6月7日告示・16日投票)に向けた、新垣新(しんがきあらた)県議の後援会集会に出席のため、久しぶりに沖縄県糸満市に行って参りました。
 昭和20年3月末から6月末にかけて沖縄では日本唯一の地上戦が行われました。その末期、海軍地上部隊の指揮官(沖縄方面根拠地隊司令官)であった大田実少将は、海軍次官に宛てた6月6日の電報で、沖縄県民が沖縄防衛のためにどれほど献身的に尽くしたかを綴ったうえで、「沖縄県民斯(か)ク戦ヘリ。県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」と結びました。県民の4人に1人が命を落とした沖縄戦の実際をきちんと学ばなければ、戦争や平和について語る資格はないと今更ながらに痛切に思います。魂魄(こんぱく)の塔、ひめゆり平和祈念資料館、平和の礎(いしじ)など、沖縄戦を今日に伝える場所は、今を生きる日本人すべてが訪れるべきです。昭和32年生まれの私自身、小学校から大学まで沖縄戦について学んだことはほとんどなく、上記の地を訪れたのも国会議員になってからでしたが、その時に受けた衝撃は実に大きなものでした。「かく戦へり」を今一度学ぶとともに、「特別の高配」がなされているのか、その検証の必要性を改めて感じたことでした。

 

 昨30日午前、岡山市で開催された全日本建築板金業者の全国大会に振興議員連盟の会長として出席して参りました。本年4月から建設業の就業者に対しても時間外労働の上限規制が適用になりましたが、元受が短い工期を設定するとどうしても建設板金業や左官業、鳶職などの下請けの現場にしわ寄せが行くこととなり、この規制に抵触するような事態が起こりかねません。建設業に従事する就労者は480万人で全就業者の約7%を占めますが、この方々の残業収入の減少にもよく留意する必要があります。「働き方改革」自体は評価すべきものですが、現場の実情と乖離が起こらないように制度を調整しなければなりません。振興議連として、適切な工期と価格の設定がなされることを今後とも政府に対して要望して参ります。

 

 東京渋谷・道玄坂にイタリアンレストラン「モンテロッソ」が開店し、先日プレオープンセレモニーと試食会に参加して参りました。
 同店は建設現場の足場などのリースを本業とする日建リース工業が直営するのですが、提供される魚は同社が開発した、全国各地の港から魚を生きたまま低コストで輸送できる「活魚ボックス」で送られてきたもので、これは実に画期的なシステムです。以前、自民党水産総合調査会のスマート漁業に関する勉強会でのプレゼンの際にもとても面白く思ったのですが、私の地元の「モサエビ」が鮮度を保ったまま美味しく提供されたのを試食して、心から感嘆したことでした。このエビは鮮度の落ちが速いため、美味なのにほとんど全国に流通しないのですが、このような低利用魚に付加価値を付けて販売し、漁業者や漁村の雇用と所得を増大させるのはとても素晴らしい取組で、民間の創意工夫の素晴らしさを実感したことでした。お近くにお出かけの際はぜひお立ち寄りくださいませ。

 

 来週6月5日午後9時より、TBS系列で「もしも今富士山が噴火したら?超緊急事態シミュレーション」と題する番組が放映予定で、私も解説者のような立場で少しだけ出演致します。
 昨年も同様の企画があり、テーマは「もし東京に巨大隕石が落下したら」というものでした。巨大隕石の落下は直近では2013年2月15日にロシア・チェリャビンスク州で実際に発生しており、その際に放出されたエネルギーは広島型原爆の20倍であったそうです。そして火山学者によれば、記録に残っているだけでだいたい過去70年に1回の頻度で噴火を起こしている富士山が、1707年(元禄時代)の宝永の大噴火以来300年以上も沈黙していること自体が不気味なことだとされています。元禄時代の学者・新井白石が残した記録によれば、江戸市中には2週間にわたって火山灰が降り続けたのだそうで、仮に今同じことが起これば、飛行機も電車もクルマも全面的にストップするのみならず、火山灰の細かな粒子が入り込んだコンピューターはすべて機能障害を起こし、電波障害でスマホも使えなくなり、停電や断水などによって社会活動は完全に停止し、目や呼吸器などに疾患を起こした人々が医療機関に殺到して医療体制も崩壊、光合成が出来なくなった作物も枯死し、家畜も全滅して食料の提供も途絶する事態が予想されます。徒に脅かすつもりはありませんが、ドイツの保険会社が、災害の蓋然性が高い上にヒトとモノが極度に集中している東京を「世界一危険な都市」と算定していることの意味は、こういうところにあるのかもしれません。
 この期に及んでもなお、国民の保護体制を一元的かつ継続的に企画立案する政府組織の必要性が認識されないのは、政治の不作為以外の何物でもありません。戦争であれ災害であれ、政治が安易な楽観論に流された時、その報いを受けるのは一般の国民なのです。

 

 明日から6月に入ります。6月といえば、1993(平成5)年6月18日、宮沢内閣不信任案が可決されて衆議院が解散となり、自民党が分裂、下野した時のことが強烈な記憶として思い出されます。あの時、宮沢総理は「(衆議院の選挙制度改革を柱とする)政治改革は必ずやる。私は嘘をついたことがない」とテレビ番組で発言されたのですが、自民党内の意見をまとめることが出来ず、衆議院選挙制度改革法案は次期国会へと先送りになりました。これに反発した野党から内閣不信任案が提出され、自民党竹下派の羽田・小沢グループが同調して、同案は可決されました。
 小選挙区比例代表並立制への移行は、自民党として正式に党議決定され、その後の衆・参国政選挙でも自民党の公約として掲げたものでしたが、これを総務会の決定で覆すという手法には私もどうしても納得ができず、当時拝命していた農林水産政務次官の辞表を提出した上で不信任案に賛成したのでした。
 あれから30年の歳月が流れ、自民党は再び政治不信の渦中にありますが、党・内閣の人事や解散の有無が盛んにメディアで取り沙汰はされても、あの時のような熱気や高揚感は全く感じられません。我々政治に関わる者が己の利害を捨てて、国家の在り方を国民に正面から問うとの気概が失われてしまったことがその大きな原因であるように思われます。30年前の伊東正義・政治改革本部長や後藤田正晴・本部長代理などの大先輩のような存在に、到底なり得なかった自分の不徳と至らなさを反省するばかりです。

 

 今週、半藤一利氏の遺稿となった「戦争というもの」(PHP研究所・2021年)を読み返して、感慨新たなものがありました。「昭和史」三部作(平凡社・2009年)も、もう一度読み直してみたいと思います。

 

 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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