2022年12月 2日 (金)

三文書改定など

 石破 茂 です。
 「安全保障三文書(国家安全保障戦略・防衛大綱・中期防衛力整備計画)」の改定に併せて、防衛政策の見直しが議論され、「有識者会議」の報告書も公表されました。総理大臣はこれについて「内容・予算規模・財源を一体的に示す」との「三点セット論」を述べておられたはずなのですが、先月28日に財務相と防衛相に対して「補完する経費も含めて安全保障関連費を2027年度に対GDP比2%とするように指示した」とのことで、これらをどう整合的に理解すればよいのか、悩ましいところです。
 必要なものを精緻に積み上げた結果が対GDP比2%を超えたとすればそれはそれで構わないのですが、内容も財源も示さないまま、まずは金額ありきだという指示だとすればこれは明らかにおかしい。「補完する経費」とは一体何なのか、今の時点では全くわからない。「海の警察組織」である海上保安庁の経費を含めるなら、警察の経費も含めなければ理屈としては合いませんし、国土交通省所管の空港や港湾の整備はたしかに防衛に寄与するところも大きいのですが、これを「安全保障関連費」として位置付けるのもいささか無理のある議論です。
 財源論も、「国債か、増税か」との二極論に分かれてしまっていますが、本来は基幹三税で賄うべきものです。スウェーデンは酒税・煙草税・銀行税を財源とするようですが、このやり方には負担の公平性の議論が残るのではないでしょうか。
 基幹三税のうち、消費税はその使途が社会保障目的に限定されており、逆進性も強く持つことから除外するとすると、残りは所得税か法人税ということになります。安全保障は国家の根幹であり、これを安易に国債で賄うことは、国民の安全保障に対する意識を弛緩させることにつながりかねません。ドイツも増額分は国債で賄っている、と言いますが、財政事情は日本よりはるかに健全で、基金を造成するとの手法も安易な国債論とは異なります。
 大切なものは決してタダではない、フリーランチなどは存在しない、というあまりにも当たり前のことを、政治は語らねばなりません。人口の激減が現実となっている我が国において、安易な国債発行は、次の世代からの搾取を意味します。赤字国債発行の原則禁止を定めた財政法第4条が、戦時国債を乱発し国民に塗炭の苦しみを強いた先の大戦の反省から生まれたことも、今一度想起すべきです。
 このような議論が積極財政論者から大変な反論を浴びることは必定ですが(「正論」2023年1月号「財務省とメディアの罪」収録の諸論考等)、経済の成長は財政政策に偏重して語られるべきものでは当然ありません。この点、「緊縮財政で景気がダメになったのではなく、景気がダメなので積極財政を行ったにもかかわらず、効果がなかったというのが実態」であり「財政出動をしても効果がないほど低成長体質が深刻であることを意味している」と説く加谷珪一氏の論はなかなかに示唆に富むものです。同氏の論は「国民の底意地の悪さが日本経済低迷の現況」(2022年・幻冬舎新書)に述べられておりますが、新たな気付きを多く得た好著でした。

 議論が偏った装備品に集中しがちですが、予備役(予備自衛官)の確保、医療・衛生の体制整備、掩体(シェルター)の具備等々、継戦能力を保持するための施策も、この際きちんと整備充実すべきです。「反撃能力が不要だとは言わないが、その前にやるべきことがある」とする香田洋二・元自衛艦隊司令官の主張(「正論」2023年1月号)に、我々は真摯に耳を傾けなくてはなりません。日米同盟が効果的に機能するためには、常設の日米統合司令部の創設も必要不可欠です。この創設は極めて大きな抑止力となるものであり、米国の態度を忖度するのではなく、日本側から提起しなくてはならないと考えております。年末に向けて、まだまだ詰めなくてはならない論点は山積しています。

 寄付不当勧誘防止法など、統一教会の被害者救済に向けた諸法案が来週から審議入りする予定です。実際に被害者救済にどれほどの効果があるのか、考えうる具体的事例にあてはめながら、よく理解せねばならないと思っております。

 とうとうカレンダーも残りあと一枚となりました。慌ただしさが加速度的に増してまいります。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2022年11月25日 (金)

鳥取市議会議員選挙など

 石破 茂 です。
 経済再生担当相、法相、総務相と閣僚の辞任が続いていますが、ここは何とか乗り切らねばなりません。問題点が指摘された閣僚は、論点を逸らしたり、その場しのぎの不誠実な言い逃れをすることなく、真実を明らかにしたうえで詫びるべきは真摯かつ率直に詫び、国民の納得が得られるように努めなくてはなりませんし、大臣を支える官僚達もたとえ大臣の機嫌を損ねることがあっても率直に諫言すべきです。私もかつて閣僚在任中、部下の率直かつ適切な諫言で救われたことが多々ありました。
 夕刊紙や週刊誌では後継内閣に向けての党内の動きが面白おかしく報ぜられていますが、頻繁に内閣を代えてよいわけがありません。昨年9月に、党員投票や報道機関の世論調査では下位にあった岸田氏を、自民党国会議員の多数で総裁に選び、衆参本会議で内閣総理大臣に指名したのですから、その責任は国民に対してきちんと負わなくてはなりません。内閣に足らざるところがあればそれを指摘し、補うのが与党の責務なのであって、批判もせず、意見も言わず、阿諛追従ばかりしているような態度があるとすれば、それはかえって内閣の足を引っ張ることになるのです。

 

 前回の本欄で、日本政府の言う「北朝鮮のミサイル発射に対し、北京の外交ルートを使って強く非難し厳重に抗議した」とは、誰が誰に抗議し、どのような反応があったのか」と外交部会で指摘したことを紹介しましたが、今週の同部会で外務省から「北京には日本も北朝鮮も大使館を置いており、日本大使館のその任にある者が東京の政府の命に従い、その意を受けて先方の担当者に伝えたということであって、外務省から直接中国政府に伝えたということではない」との回答がありました。そうならそうと前回言うべきだったと思うのですが、「誤解を招いたのなら訂正します」との慇懃な説明をいただきました。

 

 「ナショナリズムに訴えれば、当然、『北朝鮮は悪い』という認識を限りなく増幅させることになる。『実際、北朝鮮は悪いではないか』という反論があるかもしれない。拉致問題に関する限り、確かにそうであろう。しかし、だからといって『北朝鮮は悪い』という認識だけにしがみついて国内で集会をしてシュプレヒコールを挙げているだけで、二国間の問題が全自動洗濯機のように勝手に解決されるわけではないのである」「このことは、日本の戦争責任を問いたい中国の人々が、いくら『日本は悪い』というナショナリズムの心情を高揚させて中国でデモをしたりしても、そのことによって日中間の問題が自動的に解決するわけでは決してないことを考えれば、小学生でも簡単に理解できることだろう」「拉致問題を本当に解決したいのだったら、北朝鮮との間に持続的かつ緊密な関係を作らなくてはならない。これは核問題やミサイル問題に関しても同じである。このような関係の構築を通してのみ、二国間の関係を解決できるのである。でなければ戦争をするしかない。戦争が出来ないのであれば、緊密な関係を構築する以外に選択肢はただの一つもないのである」
 長い引用をしてしまい恐縮ですが、小倉紀蔵・京都大学教授はその著書「北朝鮮とは何か 思想的考察」(2015年・藤原書店)でこのように論じておられます。
 相手のある外交ですから、言えないことが多くあることはよく承知していますし、これは安全保障でも同じことです。しかし、単に「あれも言えない、これも秘密だ」ばかりでは、国会における議論や国民に対する真摯な説明や説得にはなりません。日本人の外交感覚や安全保障感覚が、単なる感情的なナショナリズムに堕することなく、正しく醸成されていくためには、我々政治の任にある者がより深く学び、考えなければならないことを痛感します。

 

 さる20日日曜日に鳥取市議会議員選挙が投開票されました。自民党公認・推薦の現職、保守系会派所属の現職、公明党公認候補の方々の街頭演説などのお手伝いは致しましたし、それなりの成果は得られたものの、投票率は史上最低を更新して40%を切るという結果になりました。
 鳥取は地方創生において多くの優良事例を積み重ねてきていますが、これだけの低投票率となると、一抹の危惧を感ぜざるを得ません。コロナのせいばかりではないでしょう。有権者に対する語りかけを、自分としてもさらに高めていかなければと反省しております。
 加えて、当選した自民党籍を持つ議員が傷害の疑いで逮捕されるという事態となりました。自民党鳥取県連として、事実が明らかになった時には当然適切に対応しなければなりません。県連会長として、市民・県民・党員に心よりお詫び申し上げます。

 

 クリスマスのイルミネーションで街は彩られつつあり、早くも来週は師走となります。今秋の都心は寒暖差、気圧差の大きい日々でした。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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2022年11月18日 (金)

与党議員の責任など

 石破 茂 です。
 北朝鮮のミサイル発射が依然として続いています。飛翔距離の延伸と、着弾の正確性は着々と実現されつつあると見なければなりません。
 我々の反撃能力も一朝一夕にして得られるものではなく、法的な整理と装備品の開発・取得は、今までのやり方を根本から改め、少しでも早い能力の具備に努めねばなりません。反撃を日本単独で行うことはあり得ず、どのようなときにどのような部分を米国や韓国に委ねるのか、運用面の詰めも早急に行う必要があります。
 「専守防衛」のもとにあって、「先制攻撃」との批判を回避するためには、第一撃が行われることを所与のものとするのか。イージス艦搭載のSM-3も、SM-3で墜とせなかった場合に備える地上配備のパトリオットも、迎撃が100%確実ということはあり得ず、だからこそ国民保護の確実性を高めるためにシェルターなどの避難施設や民間防衛組織の整備、避難訓練の充実が急務となります。
 韓国では全国の地下鉄駅や地下街などが民間防衛避難所に指定され、その数はソウル市内だけでも3000ヵ所にのぼり、核大国の旧ソ連・現ロシアと長大な国境を接するフィンランドでは一定規模の床面積を有する施設にはシェルターの設置が法的に義務付けられ、首都ヘルシンキの大深度地下鉄駅など約5500ヵ所に90万人を収容できるシェルターがあり、スウェーデンも全国各地のシェルターに全国民の7割が収容可能とのことです(古谷知之・慶大教授の論説による)。
 世界各国のシェルターがどれほどあり、いかなる機能を有し、法的にどのように位置づけられ、整備に要した費用と期間がどれほどなのか、政府に調査を要請したのはもう数年も前のことですが、まだ整備費用と期間については揃っていません。ソ連が強大な核大国であった冷戦時代に、フィンランドやスウェーデンがNATOにも加盟せず、核武装もせずに独立を保持できたのは、このような営々たる努力があったからに違いありません。他方、ロシア・中国・北朝鮮という核保有国に囲まれた日本は、ひたすら米国の核抑止力に頼り、その実効性の検証も行わず、国民保護の体制もほとんど進まないままに今日を迎えてしまいました。政治の責任は、もちろん私も含めて極めて重大です。
 本日も北朝鮮はICBM級と思われるミサイルを発射し、我が国の排他的経済水域内の日本海に落下したものと推定されています。弾頭重量によっては15000キロメートルが射程距離となり、米国全土を含むとされています。
 日本政府は「断じて容認できず、我が国として北朝鮮に対し、北京の外交ルートを通じて厳重に抗議し、強く非難した」としていますが、日本政府の誰が、北京の誰にこれを伝え、それが北朝鮮の誰に伝わり、誰からどのような返答があったのか。「北京の外交ルート」とは一体何を指しているのか、中国政府ではないのか。これを本夕急遽開催された自民党国防部会・安全保障調査会合同会議で政府に質したのですが、「手の内を明らかにすることになるので答えられない」とのことでした。
 これは最近の政府がよく使うフレーズですが、実は何もしていなくてもわからない。昨日、総理大臣はバンコクで中国の習主席と会談され、その翌日にこのような事態となりました。中国は北朝鮮の後ろ盾であり、ミサイル発射を容認しているのはほぼ確実ですが、その中国を通じて何をどう伝えたのか。政府にはきちんと答える義務があるのではないでしょうか。
 その他にも、落下予想地点にいる航空機や船舶に情報を伝達したと言うが、伝えた後にどのような行動をとるべきかについて事前に指示をしていたのか、今回の軌道はおそらくミサイルからの電波をキャッチできるのが北朝鮮国内に限られるからなのであり、実際にはどこに落下したのか、それはどの国がどのように把握するのか、画像情報をとる周回衛星の機数を増やせば、発射の兆候を把握できるようになるのか…等々の私の問いに、誰も明確に答えませんでした。
 これは一体どういうことなのでしょうか。北朝鮮側の相手が「手の内を明らかにする」ので言えないというなら、せめて日本側の誰が発信したのかくらいは報告できるはずです。これほどにミサイルを発射されて、今までと同様の対応で良いはずはありません。これは政府が与党をも軽視している、ということなのでしょうか。官僚は国民を見くびっているのか、それともモノを言えば、自分の立場が危うくなるので発言をしないで黙っているのでしょうか。
 野党ではなく、自民党こそがもっときちんと監視をしなくては、この傾向は変わらないように思います。相手が政府であろうと、言うべきことを言わないのは、与党議員としての責任を放棄することだと私は思っております。

 加えて、政府に設けられた「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の内容とされるものが某紙に掲載されていましたが、その内容自体はともかく、なぜ与党への説明や与党との協議がなされる前にこのような記事が出るのでしょう。情報管理の甘さを非難すべきか、意図的に流したと考えるべきか、いずれにしても政府と与党との信頼関係、政府と言論の緊張関係に大きなヒビが入ってしまいます。危機感を持つのは私だけなのでしょうか。

 内閣府が発表した7~9月期の国内総生産の速報値は年率換算で1.2%の減少とのことでした。これは主に個人消費の伸び悩みによるものですが、ではなぜ個人消費が伸び悩むのか。結局、「大胆な金融緩和を行い、物価が上昇すれば個人消費は上向く」のではなかった、ということではないでしょうか。原因はやはり、将来不安を払拭できないことにあるのではないでしょうか。
 社会保障に裨益することの少ない非正規労働者は、多少の賃金上昇があっても貯蓄に回し、消費に向かわない。これは実は正規労働者も同じなのではないか。多くの企業が最高益を得、賃金として「分配」しても、社会保障制度を改革しない限り、個人消費は上向かないように思います。

 11月も後半となります。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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