2020年11月20日 (金)

グレアム・アリソン氏著書など

 石破 茂 です。
 アメリカの次期大統領はバイデン氏で確定と考えて良いようですが、トランプ大統領が敗北を認めていないため、政権移行手続きが順調に進んでいないことは気掛かりです。トランプ支持者はバイデン政権発足後も、なんらかの活動を活発化させるのかもしれませんし、バイデン氏がそれに配慮すれば民主党支持者が収まらないかもしれない。そう考えると、バイデン政権の前途はしばらくは多難と言わざるを得ません。
 アメリカは1861年の南北戦争に見られるように、大陸から信仰の自由を求めて入植した清教徒やクエーカー教徒などの多い北部と、土地が肥沃で、英国王の承認のもとに入植した貴族やその関係者の多い南部とは、州(STATE。日本の都道府県よりも、むしろ「国」に近い概念)の成り立ちや文化・風土がまったく異なっており、もともと多様な価値観を包含しなければ成り立ちえない国だと思います。

 ここ数日、必要があってグレアム・アリソン(ハーバード大学ケネディ行政大学院初代院長)の「米中開戦前夜」(ダイヤモンド社刊・2017年)を読み返しているのですが、その中で紹介されているシンガポール初代リー・クアンユー首相の中国評は実に印象的です。
 「中国のとどまるところを知らない野心は、過去の栄光を取り戻すという断固たる決意に突き動かされている」「彼らがアジアで、世界でナンバーワンを目指さないわけがない」「ここ数世紀の西洋の台頭は、長い歴史の中で、中国の軍事的・技術的な遅れにより一時的に生じた例外に過ぎないと彼らは考えている」
 最も優れたチャイナ・ウオッチャーの一人で、習近平氏をもよく知る同首相の言葉には強い説得力があります。
 アリソンはこの本の中で、過去500年、台頭する新興国と覇権国との16件の対立のうち、戦争を避けられたのは僅か4件だけであったと指摘しており、米中がその例外である確証はないと論じています。
 朝鮮半島情勢や台湾海峡情勢を一つの契機として、米中が全面戦争あるいは局地紛争に突入しないために、日本は何を為すべきなのか。
 かつて日清戦争後、清から割譲を受けた台湾も、日露戦争後に併合した朝鮮半島も、日本はその今日に大きな責任を負っているはずであり、安全保障が他律的であってよいはずがありません。尖閣海域におけるグレーゾーン事態に対応する法制の整備や、日朝間に正式な交渉ルートを開設することなど、喫緊に為すべきことは多くあるはずです。

 19日木曜日に衆議院憲法審査会が開かれ、自由討議における発言の機会を得ましたので、大意次のようなことを申し述べました。
 「既に論点が出尽くした国民投票法の改正案は早急に成立させるべきであるが、コマーシャル規制について、資金量の多寡によって差が生じないようにする措置や、情緒的に偏ったり本質を看過したりといったコマーシャルに対する規制は行われるべきである」
 「改正すべき条文は、多くの党の賛成が得られ、衆参の総議員の三分の二の賛成が得られやすいものを優先すべきである。例えば、『一定の議員の要求があった場合の臨時国会の開催を20日以内とする』といったことに反対の党があるとは思われない」
 「この憲法審査会は週一回、数時間かけて開催されるべきであり、出来れば地方においても開催されることが望ましい」
 特に二点目については、憲法改正自体とどう向き合うかを考える上でも有益な提案ではないかと思っております。

 週末は三連休となりますが、安全保障関係の日韓Web会議、ラジオ番組出演、秋田での自民党の諸会合への出席などを予定しております。
 今週の都心は暖かな日が続きました。皆様、新型コロナウイルスの感染拡大にお気をつけて、ご健勝にてお過ごしください。

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2020年11月13日 (金)

中村慶一郎氏ご逝去など

 石破 茂 です。
 アメリカ合衆国第46代大統領にジョー・バイデン前副大統領が就任することはまず確実と言われております。
 私自身は、幹事長在任中にホワイトハウスで一時間程度、お会いする機会があっただけなので、人物や政策について予見めいたことを記すことは差し控えますし、国務長官や国防長官などの顔ぶれを見なければ方向性はわかりませんが、「サスペンスとディール」を真骨頂とするトランプ現大統領のように「その時々によって発言が変わる」「大統領と閣僚の言うことが違う」「スタッフが頻繁に交代する」などということはなく、老練かつ周到な政策を展開するものと思われ、日本にとってはむしろトランプ大統領よりも手強い相手となる面もあるように思います。

 

 大統領選挙について、それぞれの州で一票でも多く取れば、割り当てられた選挙人を総取りするという方式(メーン州とネブラスカ州を除く)を以前から不思議に思っていたのですが、これはやはり各州が強い独立性を持った『国』のような存在(United States)であるアメリカの国の形によるもののようです。「それぞれの『国』の意思は一つでなくてはならず、複数あってはならない」と言われれば、成程そんなものか、とそれなりに納得致しました。
 最近でも、全米の得票数ではアル・ゴア氏やヒラリー・クリントン女史の方が多数であったのに、獲得した選挙人の数が多数であったブッシュ氏やトランプ氏が勝利した際、何か妙な気がしたものですし、アメリカ国内でも議論はあるようなのですが、民主主義にも様々な形があるものだと改めて思います。

 

 今国会で審議中の種苗法改正については反対意見がかなり見受けられますが、誤解に基づくものも多くあるのではないでしょうか。
 種苗法の主たる目的は「品種育成者の権利保護」であり、それが十分になされていない現状を改正しようとするものです。
 新品種の育成には多大の労力・時間(だいたい5~10年)・費用が掛かり、これが容易に海外に持ち出されるようなことがあってはなりません。今回原則として禁止される自家採種も、農家が自家消費用に使うものは問題がないのに加えて、もともと禁じられていない一般品種が国内栽培の9割を占めており、国内生産に与える影響はさほど大きくないように思われます。今回の改正で自家採種に育成者の許諾が必要な対象となるのは「ゆめぴりか」「つや姫」(コメ)、「あまおう」(苺)、「シャインマスカット」(葡萄)、「紅はるか」(サツマイモ)などの登録品種であり、これらの自家採種はそもそも難しいともされています。生産費のうち種苗費の占める割合も3%程度であり、消費者が大きな不利益を被ることもありません。
 一方で、中国では日本から持ち出された種苗を使って多くの新品種が堂々と売られています。このようなことが罷り通れば日本で新品種を開発する意欲は失せ、今後日本産の農産品が世界に進出することも困難になることが危惧されます。
 政府としても、提起されている多くの問題点に誠実・的確に答える努力をしていただき、本法案が良い形で成立することを願います。

 

 昨12日木曜日の国防部会では、武居智久・元海上幕僚長を講師に迎えて、今後の海上防衛力の在り方についての議論が交わされました。
 たしかに防衛省側に多くのミスがあったとはいえ、イージス・アショア(陸上イージス)の導入の本来の趣旨が捨て去られていいものだとは思いません。もともと陸上イージスは、①本来は幅広い任務を担当できるイージス艦をミサイル・ディフェンス対応専門艦よろしく日本海において24時間365日任務に当たらせることがあまりに非合理であること(イージス艦は中国の活動が活発化している南西海域に進出させるべきこと)、そして②乗組員の負担があまりに大きいこと、の二点を解決するために考えられたものです。
 この二点の問題点は引き続き解決を求められるものであり、ブースターが地上に落下する危険については別途解決の方策を考えるべきと思います。
 艦船勤務の海上自衛官の数は今でも足りていません。加えて、今後30年で適齢期人口は29%も減るのであって、「大型のイージス艦を更に建造するべきだ」との一部の論には全く賛成しかねますし、限りなく本来の地上イージスの趣旨に戻るべきものと考えています。
 なお、仮に敵基地攻撃能力を保有するとしても、この能力がミサイル防衛システムの能力を代替できるわけではありません。

 

 現在俳優座で公演されている、高橋是清を描いた「火の殉難」(作・古川健、演出・川口啓史)を観たのですが、これは実に感動的なものでした。高橋是清、原敬、井上準之助、犬養毅…命を懸けて国家国民のためにその身を捧げた政治家たちの姿の描き方には強い感銘を受けましたし、金解禁の是非と財政政策を巡って高橋と井上が激しく論争する場面は特に印象的でした。コロナウイルス感染防止のため、場所は六本木の俳優座ビル5階の稽古場、観客数もごく限定されたものとなっていますが、22日日曜日まで上演されていますので、ご関心のある方はどうぞ足をお運びください。

 

 さる10月30日、政治評論家の中村慶一郎氏が逝去されました。享年86。読売新聞の政治記者を退職後、三木武夫総理の政務秘書官を務め、その後政治評論家に転身、日本テレビ系の報道番組で解説者やコメンテーターとしても活躍しておられました。ポジショントーク的な発言に終始したり、権力に迎合したりといった振舞いが増えた中で、常に権力に対して公正な立場から是々非々で評論を加える数少ない硬骨のジャーナリストであったと思います。30年以上前から存じ上げてはいたのですが、近年特にご厚誼を賜り、お亡くなりになる直前にも病を押して事務所をお訪ねくださり、叱咤激励を頂きました。ご指導にお応えできないままにお別れすることになったことが残念でなりません。御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。

 

 今週末も自民党鳥取県連総務会、県連大会、地域での懇談会等の用務で選挙区へ帰ります。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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2020年11月 6日 (金)

アメリカ合衆国大統領選挙など

 石破 茂 です。
 アメリカ合衆国大統領選挙は、投票から3日を過ぎた時点においてもまだ結果が判明しません。
 民主党のバイデン候補が選挙人の過半数に迫っており、有利な状況が続いているようですが、仮にバイデン氏が僅差で勝利してもトランプ大統領は「投票に不正があった」などとして法廷闘争に持ち込む構えのようで、いつになったら正常な形で政権が発足するのか、全く見通しが立ちません。
 バイデン氏が「すべての票を開票せよ」と言うのは至極当然のことで、自分が有利であった時点では一方的に勝利宣言を行い、郵便投票の開票が進んでバイデン氏がやや優勢になると「バイデンが勝利したとされる州では投票に不正があった、集計をやめろ」と訴えるトランプ氏の姿は誠に異様な感じが致します。何故このような人物が大統領になり、何故支持する人が大勢いるのか、私にはよく理解が出来ません。
 選挙の仕組みが異なるので、本当のところはよくわからないのですが、不正が行われないことを確認する投・開票所における立会人はアメリカ大統領選挙において両陣営から出ていないのでしょうか。ご存知の方があれば是非ご教示ください。

 

 郵便投票を巡っても様々な議論があるようですが、我が国でも過疎地の投票所が激減し、車も運転できず、期日前投票も困難な高齢者の投票の権利が阻害されていることは看過すべきではありません。民主主義の基礎である投票機会の確保はあらゆるものに優先すべきなのであって、移動投票車の活用などももっと行われなくてはなりません。
 どちらが勝利するにせよ、合衆国内の対立と分断を煽る統治の手法よりも、融和と協調を重んじる手法の方がより望ましいと私は思っております。
 この混乱に乗じて何かを仕掛けてくる国が存在することも念頭に置いておかねばなりません。朝鮮半島・台湾などにおいて生起が予想されるあらゆる事態を想定したシミュレーションを常に怠ってはなりません。私も、先週ご紹介したトシ・ヨシハラ氏と岩田清文氏の著作を十分に理解・咀嚼したいと思っております。

 

 今週開かれた衆議院予算委員会において、議論があまり噛み合わないままだったのは残念なことでした。学術会議の6人の任命拒否について、政府側が「国民・国会に責任が負えない場合は任命が拒否できる」と答弁しました。それは「公務員は全体の奉仕者」との憲法第15条の趣旨とも整合するので、ではどのような場合に責任が負えなくなるのか、個々人についてではなくても具体的な説明が続くのかと思っていたら「個別の人事についての答弁は差し控える」との従来の答弁に戻ってしまい、何だかわからないままに議論が終わってしまいました。スタートしたばかりの政権にとってプラスになるように、官邸をはじめとする官僚の皆様も、前向きな議論につなげる答弁を用意していただきたいと思います。
 非論理的かつ教条主義的に自説に固執するような学者を任命すべきとは思いませんし、過去の中曽根総理答弁との変更を明確に説明すれば、それは理解が得られないものではないでしょう。
 学生時代に「私はかつての考えを改めた」と改訂版の著書の中で述べ、その理由を明らかにした学者のことを読んで、立派な方がおられるものだなと思いました。確か我妻栄博士の「民法案内」の中にそのような記述があったように記憶しているのですが、流石に権威・大家と言われる人は違うなと感心したものです。学術会議においてもそのような方を多く登用して頂きたいと思います。
 学術会議の在り方を見直すことは当然あってしかるべきであり、今回の件もそういった在り方の議論と整合させて国民の前に説明することこそが政府・与党の責任だと思います。

 

 週末は、自民党関係などの講演で大阪・岐阜・倉吉・鳥取を回ります。
 急に寒さを感じるようになりました。皆様お身体にお気をつけて、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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