2023年9月15日 (金)

ジャニー喜多川氏性加害問題など

 石破 茂 です。
 今回の内閣・党役員人事について、世間の評価は概ねかなり厳しいようですが、支持率の向上が政治の自己目的ではありませんし、スタートしたばかりであれこれ言ってみても始まりません。派閥のバランスを重視したとしても、年功序列だとしても、「この政策を実現するためにこの人を選んだ」ということがやがて明らかになればそれでよいのです。
 「派手さに乏しいこの内閣で解散は出来ないが、今回の人事は大派閥の意向を汲んで総裁再選を確実にするためのものであり、本格的な人事と解散総選挙は来年9月の総裁選以降になるのではないか」とか、「支持率は上がらないが、野党の態勢が整わないうちに早期解散があるのではないか」等々、永田町界隈では様々な観測が飛び交っています。真意を知る由もありませんが、すべからく政治家たる者、主権者である国民に対する畏れ(怖れ)の念だけは失ってはなりません。
 まもなく衆議院議員の任期も半ばを過ぎますので、いつ解散総選挙があってもよいように備えねばなりませんが、国民の判断を仰ぎ、信を問うのであれば、防衛費増額と異次元の少子化対策の財源だけは示さねばなりません。2017年の「国難突破解散」のように、スローガンを掲げて感情に訴える形で解散・総選挙を行うことは、与党の矜持として避けるべきものと思っております。

 ジャニー喜多川氏の性加害問題は、国際的にも極めて重大です。今年7月に来日した国連人権理事会ワーキンググループは記者会見において「エンターテイメント業界をはじめとする日本の全企業に対し、積極的に人権デューデリジェンス(強制労働などの防止に向けた取り組みの実効性や対処法についての説明と情報開示)を実施し、虐待に対処するよう強く促す」と述べています。欧米ではこのような人権侵害は重大な犯罪として加害者のみならず関係企業などの責任も厳しく追及され、加害者に口座を提供したり、融資を行った銀行が訴訟において日本円で百億円単位の和解金を支払うことに合意したケースもあり、日本とは意識が全く異なると言わざるを得ません。

 藤島ジュリー景子社長の辞任に一定の評価もあるようですが、「社長」は法的に位置付けられた存在ではなく、同氏が代表取締役に留まり、全株式を保有し続けるのであればこれは単なる偽装と言われても仕方ありません。被害者に対する金銭的支払いの額はどのように算定されるのか、行為の重大性に鑑みて時効はいかなる法理論によってどこまで延長されるべきか、ジャニーズ事務所の存続の可否、タレントの移籍に対する法的な措置等々、政治としても対処すべきと思われる課題は数多くあります。
 所属タレントであった故・北公次氏が1988年に出版した著書においてジャニー喜多川氏の性加害行為を告発した際も、文藝春秋との名誉棄損裁判で同氏の性加害行為が公に認定された際も、ジャニーズ事務所に対する忖度からなのか、大手メディアはほとんどこれを黙殺しました。これらの時点で仮に大きく報道されて社会問題化し、喜多川氏が制裁を受けるようなことになっていれば、少なくともそれ以降の被害は防げたはずですが、同事務所所属のタレントを使い続けたメディアやスポンサーの責任はどのように問われるのでしょうか。
 権力が暴走し、組織内のチェック機能(議会や取締役会など)が自己保身によって働かず、メディアがそれに対する批判を控えれば、やがて組織は決定的に崩壊し、人々が塗炭の苦しみに陥ることになります。ジャニーズ事務所やビッグモーターの問題は単なる一企業の問題ではなく、日本社会に突き付けられた問題なのだと思っておりますし、われわれ自民党も決してそうならないよう、批判や誹謗中傷にくじけることなく、内部からのさらなる改革の努力を続けていかなければなりません。

 日本食糧新聞社の業務用加工食品ヒット賞等の表彰式、ラーメン産業展、肥料商年次大会等、今週は多くの食糧関係の会合に出席致し、スピーチをして参りましたが、改めて食糧安全保障について考える機会となりました。
 自給率を計算する際の分母は、国民が餓死することのないカロリー水準におくべきものであって、大量の食品残渣が発生し、贅沢三昧とも言うべき食生活を基にするのでは指標たる意味を失います。そのような「自給率」を政策目標としている限り、食糧安保の議論自体が歪んだものにならざるを得ません。シェルター整備などの国民保護政策を十分に講じ、それを前提としていない防衛政策も類似の構造であるように思われてなりません。まだまだ果たさねばならない責務の膨大さを思うとき、自分の努力不足と残された時間の短さに、焦りが募るばかりです。

 来週は9月も後半に入ります。一年の四分の三が過ぎようとしていることに愕然とする思いです。
 まだ残暑が続いております。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2023年9月 8日 (金)

イシバチャンネル第百三十七弾

イシバチャンネル第百三十七弾「処理水について」をアップしました

ぜひご覧ください

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海業(うみぎょう)見学など

 石破 茂 です。
 先週末から今週末にかけては、埼玉県ときがわ町→広島県安芸太田町→広島市安芸区→大阪市天王寺区→神奈川県三浦市→茨城県牛久市→鳥取県倉吉市・大山町・鳥取市、というかなり慌ただしい日程となりました。コロナ禍も一定の落ち着きを見せた国会休会中であり、お呼びがかかること自体はとても有り難いことなのですが、講演やスピーチの内容がいつも以上に希薄になることを恐れております。
 広島から大阪までの間、少し時間的余裕がありましたので、2019年のリニューアル後、初めて平和祈念資料館を時間をかけて見学致しました。音響効果などを用いることのない淡々とした展示は、そうであるだけにより一層の訴求力を持って原爆被害の悲惨さと戦争の残酷さを伝えるものでした。欧米人の来館者も多く見られましたが、その多くが展示を見終わった後、呆然とした様子であったことが極めて印象的でした。

 「核なき世界」の実現は究極の目標ですが、当面は「核戦争なき世界」の実現を目指していくべきものと思います。広島・長崎の惨禍は核兵器が「使えない兵器」であることを人類に学ばせたのであり、その抑止力が相互確証破壊(MAD)をその本質とする「核戦争なき世界」の実現に寄与してきた、という現実を踏まえたうえで、米ソ冷戦の時代と異なり、相互確証破壊が必ずしも存在していない現状をどのように考えるか、「核兵器なき世界」が仮に実現し、通常兵器のみの世界となった時に、それは本当に今よりも平和な世界なのか、むしろ今よりも危険な世界とはならないか、さらに深く考察しなければなりません。
 核の傘による拡大抑止の実効性とミサイル防衛の信頼性の向上、シェルター整備やシビル・ディフェンスの強化などによる国民保護体制の整備は、外交努力の間断なき積み重ねと相俟って、現在考え得る唯一の解決法であるように思われますが、まだまだ己の考察が足りないことをよく自覚しております。この点につき、「正しい核戦略とは何か 冷戦後アメリカの模索」(ブラッド・ロバーツ元米国国防次官補代理著・勁草書房・2022年)を監訳者である村野将先生からご紹介頂いたのですが、まだほとんど理解できておらず、自分の能力不足を恥じるばかりです。

 さる4日、沖縄普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡る沖縄県と国との訴訟で、最高裁第一小法廷が沖縄県の敗訴確定判決を言い渡しました。法治主義の観点からもこれが尊重されるべきものであることとは別に、沖縄県民の理解を得るため、政府・与党として一層の努力が必要です。
 日本で唯一の地上戦が展開され、県民の4分の1が亡くなり、戦後も27年間米国の施政権下にあって、現在も米軍だけが使用する基地の我が国における7割が集中する沖縄は、そうであるだけに「アメリカとは何か」を日本で一番知っている地域であることは間違いありません。「法治主義と民意のはざま」とともに、「本土と沖縄の意識の乖離」を埋める責任は、我々本土こそが負うべきものです。

 さる6日水曜日、自民党水産総合調査会 海業(うみぎょう)勉強会として、「海業」提唱の地であり、勉強会の座長・小泉進次郎議員の選挙区でもある神奈川県三浦市を訪問いたしました。「海辺に立地する産業」を指す「海業」は未だ十分人口に膾炙していない言葉ですが、昭和60年に当時の三浦市長であった久野隆作氏が、漁業、水産加工、観光、飲食、教育などを一体とする概念として打ち出したものです。関係省庁も農水省、国交省、環境省、経産省、文科省等々、実に多岐にわたっており、「海業」とすることによって統合的に施策を推進したいと思っています。
 三浦漁港の各種施設の充実ぶりや、鮪をはじめとする海産物の美味しさには感嘆させられました。首都圏を中心として来客もとても多い印象でしたが、日本海側等の小さな漁港地域においてもこの海業を展開させるにはどうしたらいいか、どのようにして地域の雇用と所得を創出し、都市部の方々の海に対する理解を深めていくのか、課題は数多くあります。

 福島原発からのALPS処理水の排出開始から一週間余りが経過しましたが、中国の輸入禁止や風評被害等による水産関係への影響を最小限に留めるべく、さらに努力を重ねてまいります。政府として考えられる限りの対策を講じてはおりますが、迅速性と簡便性が確保されているか、よく検証していかねばなりませんし、納税者の負担を軽減するためにも、帆立貝など国産海産物の国内消費を増やしていかねばなりません。
 防衛省・自衛隊の部隊食に使えるよう、予算面での工夫もお願いししているところです。帝国海軍以来の伝統で、海上自衛隊艦艇の金曜日の献立はカレーと決まっているのですが、シーマンシップの精神からも、シーフードカレーが登場する日を増やしてもらえれば有り難いと思っています。

 9月は人事の季節、永田町にはこの時期特有の緊張感と期待感が入り混じった雰囲気が漂っており、各種報道にも観測や憶測が満ち溢れ、想像力(創造力?)の逞しさにはただただ感嘆・嘆息させられるばかりです。
 かつて小泉純一郎総理が「一内閣一大臣」を唱えられた時、本来はそうあるべきだと痛切に思ったものでした(結局、ごく一部でしか実現はしませんでしたが)。民間会社の社長が一年で交代するなどということはあり得ず、知事であれ市町村長であれ、地方の首長も一期四年の任期は保証されているのですが、基本的に議員が閣僚となる議院内閣制の宿命もあり、多士済々の人材に活躍の機会を与えねばならない閣僚人事はなかなかそうはなりません。
 国政の各分野にはそれぞれ決して先送りの許されない課題が山積しています。その解決のために、そして政権や自民党のためではなく現在と将来の国民のために、人事がなされるものと思います。今を生きる我々に、次の時代の国民の選択権を狭めたり奪ったりする権利はないのです。

 台風の接近により、都心も風雨が強くなってきました。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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