石破 茂 です。
不信任案否決から一週間が経ちましたが、何一つ物事が進展しない状況が続いています。
菅総理の辞任はもはや所与のものであるかのように受け取られていますが、私はこれを全く信用しておりません。総理になること自体が目的であった人が、ようやく手に入れたその地位をそう簡単に手放すはずがない。事実、総理自身からいまだに一言も「辞任する」という発言は発せられていませんし、今国会を閉じない限り、不信任カードはもはや使えないのですから(不信任案は一国会に一度しか提出できません)、その気になれば会期を大幅延長してずるずると居座ることは可能なのです。
そうなると参議院で問責決議案が出てくることになりますが、「参議院の問責決議案には何ら法的拘束力がない」と開き直ることすらやりかねないのが菅直人という人なのではないでしょうか。
どのみちいずれ行き詰ることにはなりますが、その日は意外と遠いのかもしれません。それまで続く無為の日々を思うと、何ともやりきれない思いが致します。
不信任案採決の時にも記したことですが、菅総理の思いは「とにかく一日でも長く総理を続けたい」、民主党議員の思いは「とにかく解散だけは回避して、一日でも長く議員でいたい」ということなのであり、この両者の思惑が見事に一致しているからこそ、このような状態となるのです。だからこそ鳩山某の意味不明の言葉に皆が引っ掛かってしまった。いや、引っ掛かった、というよりむしろその場に居た皆がそれを認識しながら出来レース的にわざと引っ掛かったフリをしたのではないか。
あの場で「菅総理は今の鳩山前総理の質問に答えていない。復興基本法が成立し、二次補正予算の編成を終えたら辞める、と明言せよ」と誰一人問い質さなかったのがその証左と言う他はありません。
かかるいい加減極まる内閣を倒すためには、自壊させる他はありません。
己の職を賭して総理に辞任を迫り、聞き入れられなければ辞職する、そのような気概を持った閣僚が数人出れば内閣は自壊せざるを得ないのです。
菅総理のことですから、辞職した閣僚を全て自分で兼任するなどということもしかねないのですが、いくらなんでもそれは世間が許さないでしょう。
一昨年夏の麻生内閣末期、当時農水大臣であった私は与謝野財務大臣と共に麻生総理に自発的退陣をお願いしました。
当然辞表は提出しましたが受け入れられることはなく、自民党は万歳突撃的総選挙に突入し、大敗しました。
あれは私の二十五年に及ぶ政治生活の中で、宮沢内閣不信任案に賛成した時と並んで最も辛かった決断のひとつでした。
ポスト福田の総裁選を共に戦いながら閣僚に登用して下さり、思うように仕事をさせて頂いた麻生総理には大変な恩義を感じていましたし、総理の持っておられる兄貴分的気質も大好きです。しかし直前に行なわれた東京都議選に自民党は惨敗、世論調査では総選挙での自民党の獲得議席は120議席と予想され、このまま突入すれば解党的大敗は必至の情勢でした。下野することはやむを得ないとしても、せめて150~180議席を確保し、出鱈目な政権運営をすることが確実な民主党政権に対する強力な批判勢力として自民党が残り、次期総選挙に一日でも早く追い込む体制を確保するためにはこれしか方法はないと思ったのです。
あの時、与謝野大臣が私に言われた言葉は、今もはっきりと覚えています。
「石破さん、貴方も私も長く議員を勤め、閣僚を何度もやったのだから政治家としては本望というものだろう。しかしこのまま選挙に突っ込んだら、若手や次に内閣で働きたい者の多くが落選し、自民党は解党的大敗となるだろう。こんな時、閣僚が職を賭して総理に辞任をお願いする以外に自民党の敗北を少しでも食い止める方法は無いと私は考える。貴方に一緒にやってくれとは言わない。自分で判断して貰いたい」
この決断によって失ったものも多くありましたし、その後の与謝野氏の行動は私とは大きく異なることとなりました。しかし後悔はありません。
とにかく議員でいたい、閣僚でいたい、総理でいたい、そのような理由に基づく行動だけは決してしてはならないと思うだけです。今の菅内閣にそのような志を持った人がいないものでしょうか。
大連立話はほとんど消えつつあります。一体あれは何だったのか、今もって私にはよくわかりません。
「とにかく解散だけは避けたい民主党」との連立など国民の理解が得られるはずもなく、そのような政権は早晩瓦解するでしょう。
自民党の中に「とにかく権力に戻りたい」というような考えを持つ者も、私の知る限り一人も居りません。大連立より理念ある再編を目指すべきであり、その中核に自民党があるべきだ、という私の思いは変わりません。
復興基本法が、本日の衆院本会議でほとんど自民党案の通りに修正、可決され、来週中には成立の見込みです。
最初から自民・民主・公明の三党で協議しておけば、成立は一か月早かったでしょう。
二か月近く前、自民・民主・公明三党政調会長会談の折、復興基本法は三党でそれぞれ案を作り、協議・修正の上、共同提案の形でどうかと私が提案したところ、たちどころに朝日新聞に「石破政調会長の独断で、クーデターだとの意見が自民党から出ている」と書かれ、この動きは頓挫し、政府からは阪神淡路大震災の時と全く同じ内容の極めていい加減な案が出てくる展開となり、法案修正・成立に多大の時間を要することとなってしまいました。
誰が朝日新聞にあのような記事を書かせたのか知る由もありませんし、私ももっと周到に根回しすればよかったかとも思いますが、何とも残念でなりません。
大連立など組まなくても、責任ある対応はできるはずなのです。今後は原発被害者の方々に対する賠償スキームが議論の焦点となります。党の面子や思惑で徒に時間を費やす愚だけは避けなくてはなりません。
週末は土曜日一日かけて福島県の被災地を回り、自治体首長をはじめとする関係者の皆さんと意見交換をいたします。
日曜日は1200~テレビ朝日「サンデースクランブル」に出演予定です。
皆様、季節の変わり目、何卒ご自愛くださいませ。