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2011年8月26日 (金)

民主党代表選など

 石破 茂 です。

 民主党代表選挙は日々情勢が変わり、全く予断を許しません。あと一週間以内に新総理が決まり、新政権がスタートするということが何だか信じられないような気がしています。

 それにしても、野田財務相を除くほとんどすべての候補者が小沢元代表に詣でているのは実に面妖な光景です。
 これはまさしく今から丁度二十年前、経政会(竹下派)会長代行であった小沢一郎氏が海部総裁の後継を決めるにあたって総裁候補であった宮沢喜一、渡辺美智雄、三塚博の三氏を小沢氏の個人事務所で面接した光景を彷彿とさせ、デジャブそのものとしか言いようがありません。
 小沢氏的には「呼びつけたのではなく、候補者たちが向こうから来たのだ」ということなのでしょうが、それなら行く方が尚更悪いのではないか。「政治とカネ」のけじめは一体どうなったのか、数さえ揃えばそれでいい、というのなら、民主党が悪しざまに非難し否定したかつての自民党の論理そのものではないのか。政治手法も、政策も異なるにもかかわらず、ただ小沢氏の配下にある票が欲しいというのは、国民の論理や感情からは大きくかけ離れています。
 今回の代表選挙は日程の関係から一般の民主党員やサポーターによる投票は行われず、国会議員のみによる投票で決まるからこうなるのでしょうが、そうであるならなぜ一般党員も参加する選挙の実施を誰も主張しないのか、なぜ昨秋に続いて二回も国会議員だけの投票で済ませようとするのか、何故全国の民主党員が黙っているのか、不思議でなりません。
 なにぶん他党のことなのでよくわかりませんし、おそらく今回のような場合には国会議員だけによる代表選出が認められているのでしょうが、いやしくも実質的に一国の総理を決める選挙が、政策についても、政治手法についても十分な議論もないままに行なわれようとしていることに強い違和感を覚えます。
 これが決して国民政党ではない民主党の本質であって、ポスト安倍、ポスト福田の際の自民党においては、似たような状況であってもこのようなことはありませんでした。

 今日の報道によれば、小沢氏は前原氏を支持しない方針を決めた由。前原氏の言う「挙党一致」と「挙党体制」は違う、前原氏では日本は終わってしまう、と語ったと伝えられますが、要は前原氏では自分の息のかかった者を幹事長にして、選挙と資金を一手に仕切ることは難しいと小沢氏は判断したのでしょう。その意味では、前原氏の小沢氏訪問は極めて残念でしたが、小沢氏の判断自体は実にわかりやすい。
 
 こうなると後は、細かい点を一切捨象して言えば、前原氏を中心とする「マニフェスト修正、日米同盟重視の世代交代派」と小沢・鳩山氏を中心とする「マニフェスト堅持、東アジア共同体重視の旧体制維持派」との戦いになるのでしょう。
 昨秋の代表選とほとんど同じ構図ですが、自民党の全衆院議員よりも多い民主党の当選一回生たちが、昨年と異なりどんなに長くても総選挙まであと二年となった今、最優先の判断基準である自分の当落を念頭にどう動くのか、ここが読めません。
 どちらが勝つにせよ、民主党として一体で首班指名に臨んでもその政権は極めて弱体となることは確実です。政策も政治手法も異なる者たちが一つの政党を維持していること自体にそもそも無理があるのですが、これが日本にとって極めて不幸であることに気付かなくてはなりません。いや、気づいている者は多くいるのでしょうが、民主党はその役割を終えたのであり、解党することによって理念に基づく政界再編の幕を開くのだと具体的な行動に移さなくてはなりません。

 代表選出とそれに続く首班指名においてどのような選択をするべきか、我が自民党も同時に問われます。
 マニフェスト堅持派が勝てば恐らく三党合意もすべてご破算になるのでしょうし、全面対決となります。修正派が勝てば、今までの経緯から見ても当然政策協議を行うことになるのでしょうが、いずれにしても敗れた側がそのまま党に留まるかどうかも含めて、全く予測がつきません。
 小沢氏か否か、という不毛の争いにはもうここで決着をつけなくてはなりません。政策も、政治手法も全く異なる小沢氏、鳩山氏、そしてその流れをくむ勢力とはとは何があっても一緒にやることは無い、そのスタンスを自民党は絶対に堅持しなくてはならないのです。

 初めてお読みになる方のために改めて書いておきますが、私は小沢氏の「自衛隊のイラク派遣やインド洋派遣は憲法違反である」「在日米軍は第七艦隊さえあればよい」「自衛隊を国連に御親兵として差し出すことによって、憲法九条の『国際紛争を解決する手段』との条項はクリアできる」などという世界観・憲法観・国連観には全く賛同できません。また、同氏が主導した「子ども手当は中学生まで一人一律二万六千円、高速は全国無料化、高校は無償化、農家には戸別所得補償」という一連の社会主義的政策にも全く賛同しません。
 一昨年の中国副主席の来日の際に、「天皇陛下の行動は内閣の助言と承認に基づくものであり、内閣に従うのが当然だ」などと言った彼の言動は許し難いものだと今でも思っております。
 鳩山氏の政策に至っては論評する気すらありません。母堂から受け取った資金の使途について国会で説明すると明言したにもかかわらず無視を決め込み、総理を辞めたら国会議員も辞めると言った前言をあっさりと翻すような人物に、代表選における協力を要請するような人を、私は政治家として全く評価致しません。

 二十一、二十二日と第七回北京・東京フォーラムに出席のため訪中して参りました。
 安保分野や全体会議で基調スピーチをし、討論もしてきましたが、中国側の反応は概して言えば「冷戦が終わったのになぜ日米同盟重視なのか、何故中国を仮想敵国とするのか、何故中国が航空母艦を保有することを非難するのか」といったもので、やや呆れてしまったというのが実感です。

 今も昔も、このような会議では中国側の人は我々日本側に向けて話すというより、同席している他の中国の出席者に対して「自分は共産党の政策にいかに忠実か」ということを示すために演説しているので致し方ない面もあるのですが、それにしても今回は少し酷かったように思いました。
 国際環境が多様化、複雑化したのが冷戦後の世界なのであって、信頼できる同盟の重要性が増すのは至極当然であり、テロの時代となったことにより、確実な情報を入手する緊要性が格段に高まっていることに鑑みれば尚更のことです。
 日本国として中国を仮想敵国と言ったことはありませんが、脅威が「侵攻する能力と意図の積」である以上、国土防衛を越えて十分に対外侵攻能力を持ち、国家意思決定過程が我が国とは異なって不明の点が多い中国を意識すべきことは、能力ベースアプローチの観点からこれまた至極当然です。
 経済相互依存が高まっていることは紛争の危険を軽減するものですし、十四の国・地域と接している中国が紛争を起こす蓋然性も、それによって得られる利益も低いことは十分に承知の上ですが、紛争は常に思わぬきっかけによって生起するものであることを決して忘れてはなりません。

 航空母艦の保有は中国人民解放軍の多年にわたる念願であり、既に1985年にオーストラリアからスクラップとして買い取った「メルボルン」を徹底的に研究したことからもそれは明らかです(しかし航空母艦の保有は中国の最新版国防白書には何の記載もなされておりません。私がこの不透明性を指摘しても、中国側は誰も何も答えませんでした)。
 1982年のフォークランド紛争において、英国の「インビンシブル」型が大きな役割を果たしたことに学び、対台湾戦略をまず念頭に置いた配備であるように思われます。
 軽視も侮りもしませんが、空母機動部隊としての具体的な運用実績を持たない旧ソ連海軍を手本としていることに加え、「ワリャーグ」型はかなり大型ではあっても、スチームカタパルトを持たない以上、その能力には限界があります。
 今後の動向には十分注意が必要であることは勿論ですが、これを直ちに重大な脅威として認識することには誤りがあるものと思われます。

 二十七日土曜日は、関西鳥取県ファンの集い(午前十一時半・リーガロイヤルホテル)。
 二十八日日曜日は地元で恒例の撰果場廻りと、勝手連である「どんどろけの会」の会合出席のため地元に帰ります。

 今日の東京は午後から大変な雷雨となりました。
 そういえば小泉内閣、福田内閣、麻生内閣、いずれの内閣も組閣の日は大嵐だったように記憶しています。政治が動くときは天も荒れるのかもしれません。
 皆様お元気で週末をお過ごしくださいませ。

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2011年8月19日 (金)

油断は禁物

 石破 茂 です。

 民主党代表選挙が八月中に行なわれることはもはや既定路線化しているようですが、本当にそうなるかどうか、私はまだ完全に信用してはおりません。あの民主党のことですから、これから何が起こるやら、まだまだ油断は禁物です。

 一昨日以来、民主党が大量に印刷した「誤解しないでください、子ども手当は存続します」との出鱈目ビラが問題になっていますが、三党合意に正面から反するようなビラを平気で制作するような政党はもはや内部統治能力を失っており、全く信用するに値しないと断じる他はありません。岡田幹事長は「内部説明用の資料だった。これ以上印刷はしないし、配布もしない」と弁明したそうですが、民主党員はいつの間に35万人にもなったのか、内部になら出鱈目を説明してもよいのか、全く弁明になっていません。

 このビラには「子ども手当は存続するのですか?」「はい、そうです。三党合意により恒久的な制度になりました」などというQ&Aが記載されていますが、よくもこのようなことが言えたものです。彼らは従来、子ども手当と児童手当の決定的な相違は「児童手当は『子どもは家庭が育てる』との理念に基づき所得制限を設けていたのに対し、子ども手当は『子どもは社会が育てる』との理念に基づくものなので、所得制限は設けず、一律二万六千円を支給する」と主張していたはずです。今回の三党合意により、所得制限が設けられ、一律支給が改められたことで間違いなく彼らの従来の主張は否定されたのであり、三党合意では、法形式としても児童手当法の改正を基本とすることが明記されています。
 先の総選挙で「民主党政権になれば子ども手当が一人当たり二万六千円貰えますよ、おカネは無駄遣いを辞めればいくらでも出てくるのです」と言って国民を欺いたことを認めるのが嫌なばかりに、嘘に嘘を重ねる民主党には、誠意も恥も外聞も無くなってしまったのでしょう。もはや論評にも値せず、ただ呆れ果て、おぞましさと哀れを感じるのみであり、このような民主党の代表選挙にはほとんど関心を持つことが出来ません。このような過ちを正面から認める勇気を持たない限り、誰が代表になっても同じであり、連立などあり得ず、三党協議で充分に事は足ります。

 自民党政権の打倒のみを目的とし、目指すべき国家像を持たず、いまだに党綱領すら定めない選挙互助会的な民主党はその役割を終えています。民主党に綱領が存在しないのは、それを定めないのではなく、定めようとした途端に党が分裂してしまうので、定めることが出来ないからです。これを正面から認める人物が出馬した場合に限り、代表選挙は意義を持つことになるのであって、そのような人物が現れず、あと二年間なんとしても解散だけは回避して任期を全うし、民主党の分裂を回避することだけを目的とする人が何人立候補しても何の意味もありません。

 お盆中に発行された週刊誌では、何故か私が「大連立賛成派」になっており、吃驚仰天。自民党関係者や担当記者の話として、私が「財務大臣を一度経験しておきたい」「外務大臣ポストを希望している」などと言ったことになっていますが、世の中には随分と想像力や創作力に長けた人がいるものです。私は根っからの「理念に基づく政界再編派」ですが、「大連立派」であったことは一度もありません。「理念に基づく政界再編」が行われることに反対する勢力がそれだけ多くいるということなのでしょうが、与野党を問わず、このような勢力に勝利しない限り日本に未来はありません。

 お盆は二日ほどお休みをいただきましたが、お墓参りと初盆廻りの他は、疲れがどっと出てしまい、ただただ寝ているばかりでした。いつか映画を見たり、音楽会や美術展に行ったり、温泉にゆっくり浸かることが出来る日が来ることを夢見ているのですが、なかなかそうはなりません。被災地のことを考えたらそんなことは言えるはずがないだろう!とのお叱りは十分に知りつつも、政治家として本来持つべき人間的な豊かさや感性をほとんど忘れたままに日々が過ぎていくことに対する怖れを感じている昨今です。

 二十日土曜日は山口市で開催される文化大学での講演(午後二時半・山口市民会館・山口市中央二丁目)、二十一日日曜日と翌二十二日月曜日は第七回北京・東京フォーラムでのキースピーチとその後の討論・質疑のため北京出張という日程になっております。

 今日の東京は風雨が強い一日でした。酷暑も峠を越え、秋の到来は間近です。前々回も書きましたが、夏が過ぎ去っていくことに対する何とも言えない焦りや哀しみを今年は特に強く感じています。荒井由実の「晩夏」や太田裕美の「九月の雨」、全く流行りませんでしたが久保田早紀の「九月の色」などを無性に聴いてみたくなる心境です。
 皆様、お元気で週末をお過ごしくださいませ。

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2011年8月12日 (金)

お盆前

 石破 茂 です。
 
 先週の子ども手当の見直しに続き、今週は特例公債法案と再生エネルギー買取法案について自民・民主・公明三党の合意が成立し、近々成立の運びとなりました。

 私たちは、菅総理が「第二次補正予算、特例公債法案、再生エネルギー買取法案の三つが成立しない限り辞めない」と言ったのでこの成立を急いだわけではありません。あの菅総理のことですから「私は『成立しない限り辞めない』と言ったのであって『成立すれば辞める』などとは一回も言っていない」などと言い出しかねないし、予算や法案は国家国民のためになるのなら野党として必要な修正を加えたうえで成立させるべきものですし、そうでないのならいかなる理由があろうとも成立させてはなりません。「俺の顔が見たくなければ早く通せ」などというのは「この子の命が惜しければカネを出せ」と言っている誘拐犯の手口にも似て言語道断と言う他は無く、内容はどうでもいいから通してしまおう、などという気は全くありませんでした。

 子ども手当は従来から我々が主張していた児童手当の復活、拡充で決着したものの、まだ残りの高速道路無料化、高校無償化、農家戸別補償については具体的な修正がなされていないのでこのまま特例公債法案を通さない、再生エネルギー買取法案も、そもそもエネルギー基本計画が改定されていない段階で通すことは認められない、という選択も確かにありましたし、党内にそのような意見が多くあったことも事実です。
 しかし、そうなれば一体どのような展開となるのか。菅総理は大喜びで「第二次補正予算を除く残る二法案が通っていないのだから俺は辞めない!」と言い出すに決まっています。菅総理は民主党の役員や閣僚たちが揃って辞表を出しても「君たちの代わりはいくらでもいるのだ!」と言って北沢俊美幹事長、細野豪志官房長官などという仰天人事を平気でやりかねませんし、次の選挙でどのみち落選必至といわれる民主党一年生議員の本音が「とにかく解散だけは避けてあと二年は国会議員でいさせてくれ」であることを見透かして「あまり俺を追い詰めると解散するぞ」と恫喝しながらひたすら延命を図るのではないか。
 確かに菅総理の手で解散・総選挙を断行させることが自民党にとっては望ましいことですが、それでは一体日本はどうなってしまうのか。国際金融情勢の緊迫化もあって、まず菅総理を確実に退陣させることにより、政治の歯車を回す決断に至った次第です。

 公債特例法案も、再生エネルギー買取法案もまだまだ課題は山積しています。しかし限られた時間の中で自民党の主張を取り入れるべく、最大限の努力を行い、成果は相当に得られたものと確信しています。
 再生エネルギーについては、山本一太参院議員を長とする特命委員会のメンバーに不眠不休でよい仕事をしていただきました。計19回の会議を開催し、巷間懸念されている「どんなに非効率かつ不合理な価格であってもすべて買い取らねばならないのか、その価格は経産大臣が再エネ業者で恣意的に決めるのか」等々の論点についてはすべて網羅されたものと考えております。党として本日発しましたメッセージを掲載しますのでご高覧下さい。

 昨日の衆議院本会議で公債特例法案の「賛成」討論に立ちました。本来関係委員会の理事の方が立つべきものではないかと思うのですが、指名された以上仕方がありません。原稿を掲載しましたので併せてご高覧下さい。

 懸案にある程度目途が立ちましたので、週末はお盆のお墓参りや初盆廻りで鳥取に帰ります。
 十五日は武道館での陛下ご臨席の戦没者慰霊式典、十七日から平常業務に戻ります。
 猛暑にお気をつけてお盆休みをお過ごしください。

「message230812.docx」をダウンロード

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「平成23年度における公債の発行の特例に関する法律」 賛成討論

 自由民主党・無所属の会を代表して、政府の「平成23年度における公債の発行の特例に関する法律案」に対して賛成の立場で討論を行うものである。

 予算は政府の姿勢そのものであり、それを裏付ける財源もまた同様である。しかるに、平成23年度においては、予算は成立しているにもかかわらず、その執行を可能とする37兆円の公債特例法案がいまだに成立していないという異常な事態が8月11日の今日まで続いている。これは菅内閣自体が極めて異様な政権であったことを証明するものに他ならない。

 国民にとって誠実な政府とは何か。それは、選挙を常に強く意識し、国家・国民の利益よりも、政党の利益を優先させるような姿勢を決してとることなく、ポピュリズムに堕することのない政府である、と私は確信する。

 二年前の丁度今頃を議員各位は今一度想起していただきたい。あの酷暑の中で行われた総選挙において、民主党公認候補者は有権者に対して一体何を訴えたのか。
「子ども手当は一律2万6千円支給する、高速道路は全国無料化する、高校は無償化する、農家には売れた金額と生産に掛かったコストの差を戸別補償する」と訴えたはずだ。そして「マニフェスト実現に必要な予算は2010年度で7.1兆円、2011年度で12.6兆円、2012年度で13.2兆円、2013年度で16.8兆円である。この財源など無駄を省けばいくらでも出てくる。消費税率アップなど議論する必要もない」と豪語し、政権を獲得した。
 あれから2年、その実現はどのように図られたのか。その総括も、反省も、国民に対する明確な謝罪もいまだに行なわれていない。

 昨年の参議院選挙において、民主党のマニフェストには国民から大きな疑問が投げかけられ、参議院の与野党の議席数は逆転した。
この国民の審判を謙虚に踏まえれば、平成23年度当初予算編成においてマニフェストを大幅に見直すことにより、野党の理解が得られる内容とし、特例公債の発行額も縮減されるのが当然であったはずなのに、菅内閣は一顧だにしなかったのみならず、3月11日に未曽有の大震災・大津波が発生してもなお、我が党が要求した予算の組み替えに応ずることはなかった。そして、「マニフェストは相当程度達成されている。いまだに衆議院四年の任期の半ばであり、あと二年待って欲しい。公債特例法案の成立が遅れているのはこれを政争の具としている野党の責任である」などと虚言を弄し、強弁を繰り返してきたのではなかったか。

 菅内閣の本質は、「面倒なことは先送り、悪いことはすべて他人の所為」という姿勢に尽きる。それが最も明らかな形で現れたのがこの公債特例法案成立の遅れであり、発災から丁度五か月となる今日においてなお、復興はおろか、復旧すら遅々として進まない被災地の現状であり、抑止力について深く考え、よく学びもしないままに軽はずみな言辞を弄して沖縄の信頼を失い、解決の目途が全く立たない普天間基地の移設問題である。

 我々は一貫して「ばら撒き政策」、即ちそれぞれの人々や地域の特性を一切捨象するが故に政策効果に乏しく、財政危機の今日にも拘らず巨額の予算を必要とし、その財源の当ても全くない、マニフェスト主要政策の修正・撤回を求めてきた。

今回我々が公債特例法案に賛成する決断に至ったのは、一連の自民・公明・民主三党の協議の結果、子ども手当は撤回され、来年度からは児童手当の復活、拡充が実現すること、高速道路無料化の社会実験は平成二十四年度予算に計上されないこと、高校無償化と農家戸別所得補償については、制度のあり方につき政策効果の検証を基に必要な見直しが検討されることについて合意を見るとともに、歳出の見直しについては、「今年度における歳出の削減を前提に、今年度第三次補正予算ならびに来年度予算の編成プロセスなどにあたって、誠実に対処すること」が確認されたからである。

 もちろんこれで決して充分ではなく、今後さらに詰めていかなくてはならない課題は数多く存在する。自民党は、既に行っている民主党の主要政策の政策効果の検証を更に精緻に行い、必要な見直しの実現に向けて最大限の努力を行うものである。
高速道路料金は受益者負担の原則を貫くことが当然である。
一律支援を行うことにより、美名のもとに格差解消の本質を見失った高校無償化は見直すべきである。
農家戸別所得補償は、重点化の視点をさらに充実させるとともに、条件不利地域に対する日本型の直接支払の実現を図るべきであり、基盤整備費を所得補償の財源に充てるなどというブレーキとアクセルを同時に踏むがごとき支離滅裂な政策は見直さなくてならないのもまた当然のことと考える。

 最後にこれだけは申し上げておく。民主党は「マニフェストは国民との契約である」と高らかに宣言したはずだ。それを大きく見直すのであれば、一方の契約の当事者であり、主権者たる国民・有権者に対して、何故これを見直すに至ったのか、明確かつ真摯な説明と謝罪が必要なはずであり、本来なら今一度国民の信を問うべきものである。
三党協議の際、このことを再三にわたり指摘してきたにもかかわらず、幹事長が通り一遍のお詫びをしただけで済まそうとする姿勢は、極めて不誠実であると断ぜざるを得ない。七月中に行なわれるはずであった民主党のマニフェスト検証作業も、いまだその方向性が示されていないことも極めて問題である。

 菅総理がようやく退陣を明言し、今国会中に民主党代表選挙が行われ、新内閣が発足する運びとなっている。
民主党の小沢元代表は昨日の講演で、「公約の実現が難しくて出来ないというのなら『もう辞めなさい』となってしまう。何としても国民との契約を実現しなくてはいけない」と述べたと伝えられる。「難しくてできない」のではなく「そもそも出来もしないことを約束した」ことが問題であるとの認識が決定的に欠如している。
来たる民主党代表選挙においては、復興財源のあり方とともに、このマニフェストの見直しと、今後の野党との関係が大きな争点となるのであろう。本来選挙で国民に信を問うべき事態であるにもかかわらず、被災地の現状、予断を許さない国際経済情勢をも勘案して、なぜ我々が賛成するに至ったかを、代表選の結果がこれからの日本国の命運を決定づけることになることを認識して、民主党の諸君は深く考えるべきである。

 勿論我々は、マニフェストだけで選挙に敗れ、下野するに至ったとは考えていない。自民党は永く政権の座にあったことにより、いつしか国民に対する怖れと感謝の念を失ったと国民は感じ、自民党に対する拒絶感が横溢していたことは間違いない事実であり、私は政権内部に居た者としてその責任を痛感している。

前回総選挙の結果は「自民党が駄目だから民主党」という国民の選択でもあった。来たる総選挙では「民主党が駄目だから自民党」という選択を国民に求めるようなことがあってはならない。そのような「駄目比べ」を繰り返していたのでは本当に日本国が終わってしまう。
 自民党は、謙虚に、真摯に政策を練磨し、心ある諸君と共に日本の再興を実現するために、政権を再び託して頂ける日が一日も早く到来するべく、全力で邁進をしてまいる所存である。

 なお、最後に申し上げておくが、近く総理大臣が替わると言われている。民主党政権になって、はや三人目の総理である。総理が替わるならば解散して信を問え、そう言ってきたのは諸君ではなかったか。言ったことを実現されたい。そのことを最後に申し上げて、私の賛成討論とする。 以上

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2011年8月 5日 (金)

子ども手当廃止

 石破 茂 です。

 昨日の自民・民主・公明三党の幹事長・政調会長会談で、来年度からの子ども手当廃止・児童手当拡充が決定しました。

 二年前の総選挙における民主党マニフェストの中核であり、民主党政権の看板政策であった子ども手当が事実上廃止されることには、大きな意味があるものと確信いたします。
 児童手当の復活により所得制限が設けられることは、「社会が子供を育てる」という民主党の理念の撤回を意味します。
 子どもは第一義的に家庭が育てるものであり、その足らざるところを社会が補う、というのが自民党の従来からの考え方です。これはイデオロギー、といって差し支えがあるのなら考え方の相違とも言うべきものですが、民主党がいかに「子ども手当の理念は堅持された」と強弁しようと、それは無理というものです。
 そもそも子供一人当たり2万6千円とした根拠も全く示されず、富裕層も生活困窮層も何故同じ金額なのかと問えば「子どもは社会で育てるものだ」としか答えず、財源の目途も全くないままに「無駄を省けばいくらでも金は出てくる!」などといい加減なことを言った先の総選挙の時からこの政策は破綻していたのです。「有権者に難しいことを言ってもどうせわからない。それならドンと金を撒こう。後のことは権力さえ取ればどうにでもなる」との国民を愚弄しきった考えが私にはどうしても許せない。当時は自民党に対する嫌悪感が横溢しており(今もそれが残っていることはよく承知しております)、これと民主党の政策は劇的な相乗効果を発揮して政権交代に至ったのです。
 野党だったので国の財政事情が分からなかった、などというのは単なる言い訳です。政府の情報は開示されていたのだから、単なる勉強不足以外の何物でもありません。

 残された会期の焦点は特例公債法案に移ります。この法案はどうしても通さなければ予算の執行が出来なくなるのですから、早期に成立させなくてはならないのは当然です。
 しかし残る3K、即ち高速道路無料化、高校無償化、(農家)戸別所得補償の予算を執行するための予算でもあるのですから、このまま認めたのではそれらを是認したことになってしまい、到底容認できるものではありません。
 「早く通さなければ菅総理の退陣の条件を整わない」というのは論理が倒錯していますし、通したからといって菅総理が辞める保障など、どこにもありません。
 残りの会期は僅かですが、ギリギリ詰めた濃密な議論を、密室ではなく国民に明確に見える形で行い、少しでもいい結論を得るように努めてまいります。

 今年はこのような国会情勢に加えて、曜日の配列が悪いため、「お盆休み」は全く無さそうです。仕方ないなあ、とは思いつつも、人間何か一つでも先の楽しみがないと働くインセンティブがありません。
 このところ実務に関係した本や論文しか読んでいないため、自分の知識の底の浅さが際立ってきているようで恐ろしくてなりません。せめて何か一冊でも、と思いヒトラー台頭の背景を分析したマイネッケの「ドイツの悲劇」(中公文庫)を買ったのですが、せめてこれだけでも読みたいな…。

 防衛庁長官退任後に書いた「国防」(新潮社刊)がこの度文庫化され、お陰様でまずまず売れているようです。七年前に書いたものですが、当時と今と比較して国防の危機は変わっていないどころか更に高まりつつあります。高校生でも読めるように比較的平易に書いたものですので、ご関心があればご一読の上ご高評下さいませ。

 週末は本日金曜日が神奈川自民党市町村議員協議会で講演(午後五時・ロイヤルホールヨコハマ・横浜市中区山下町)。
 土曜・日曜は地元の夏祭りやお初盆回りに費やす予定です。
 このような役職に就いていると、本当にお世話になった方がお亡くなりになってもお通夜にもご葬儀にも行けないことが多く、本当に申し訳なく思っています。せめてお初盆はお参りに行きたいのですが、果たして何軒叶うのか…。

 テレビ出演は東京MXテレビでの猪瀬直樹東京都副知事との対談(収録)が放映される予定です(八月六日午後九時)。

 早いものでもう立秋です。夏の終わりはいつも哀しく寂しいものです。皆様お元気でお過ごしくださいませ。

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