石破 茂 です。
10月31日に開催いたしましたセミナーには、当欄をお読みいただいている皆様をはじめとする多くの方々にご参加を頂き誠に有り難うございました。心よりお礼申し上げます。
質疑応答の時間が足りなくなってしまい、ご迷惑をおかけしてしまいました。次回からは1時間のお話と30分の質疑応答、という今の時間設定を少し見直したいと思っています。
大学の講義がそうであるように、やはり一通りのお話をしようとすればワン・テーマで1時間半は必要です。それに1時間の質疑応答を加えて2時間半、これだと党本部の使用時間の関係で午後5時から開始しなくてはならず、お仕事をお持ちの方、遠くから来られる方にご迷惑がかかりますし、さてどうしたものか。いっそのこと休日に充分時間をとって開催することも一案なのかもしれませんが、ぜひご意見・ご提案をお寄せくださいませ。
TPPについて、もう自分の考えを示す時ではないか、とのご指摘を頂きます。自民党の会議で少しでも参加に前向きな意見を述べる議員があると、「賛成なのか、反対なのか、はっきりしろ!」という野次が飛ぶ有様です。東谷暁氏や関岡英之氏の「平成の開国が日本を滅ぼす」的な所論を読んでいると、TPP交渉参加肯定論者は国賊以外の何物でもないように思えてきますが、これはそう簡単な問題ではありません。
多くの関係分野がありますが、農業だけに限って申し上げれば、この二十数年、総生産額も、農業者の所得も、農地面積も、農業者数も減少の一途です。農業者数は減少のみならず高齢者の比率が拡大の一途であり、産業としての持続可能性そのものが危うくなっています。政策が正しければこのようなことになるはずはないのであって、これはどこかが決定的に誤っていたと考える他はありません。
よく「TPPに参加しようがしまいが、農政改革は急務だ」という意見を聞きますが、それにかかる年数は交渉次第としても、原則すべての関税を撤廃するTPPは、「関税による消費者負担型の農業保護」から「納税者負担型の農業保護」への転換を意味するものであり、この点は決定的に重要です。
アメリカでも、EUでもどの国も農業は手厚く保護をしているのであって、その負担をだれが負うのか、という問題です。
人口減少と高齢化でコメの国内需要が減少するのは確実で、今後は海外市場にも販路を求めていく他に、多面的機能を果たし、国土を守る水田を確保する道はありません。
多面的機能は重要だ、と主張する一方で、水田面積の減少を伴う生産調整を続けることは、矛盾しているとしか考えられません。
しかし、生産調整を一気にやめてしまえば最も影響を受けるのは大規模稲作農家であって二種兼業農家ではないのですから、これは段階的に行わなくてはなりません。米価下落による影響補填は直接支払の方法により大規模農家を中心として集中的になされるべきであり、すべてにバラマキ的に行ってはなりません。
水分を多く含んだ日本の短粒種は海外需要がない、というのは誤りで、日本人が美味しいと思うものは海外の米食国民にも美味しいのです。何人かのアジア人から「日本のコメは麻薬のようなものだ。一度食べたらもう今まで食べていたコメを食べる気がしない」との声を聞きました。勿論すべてがそうではないとしても、アジアの所得の向上に伴い、美味しいコメの需要は増えると考えるのが自然でしょう。
価格の点で競争力が無い、というのも同様で、品質の全く異なる中国米と比較すること自体おかしなことですし、中国産米のコストは今後、賃金の上昇に伴い増高するでしょう。
反収向上や分散圃場解消の努力もせずにコスト高を喧伝することにも問題があります。
日本の農産物が食味や安全性、外観で世界トップクラスであるのは多くの人が認めているところですが、いくらコスト削減をしてみても相手国の関税が高ければ輸出阻害要因になります。コスト削減と相手国の関税撤廃は農業界こそ率先して行うべき主張です。
コスト削減や積極的な海外マーケッティングなどの努力をしなくてもコメが何とかなっていたのは高関税を張り、輸入を阻止し、高くても買ってくれる豊かな消費者に支えられて国内だけで何とかなっていたからです。
しかしその結果として日本のコメ事情は惨憺たることになりました。後継者はなく、耕作放棄地は増大の一途です。この事実をもっと直視すべきだと私は思います。
自給率、という概念にほとんど積極的な意味はありません。安全保障を中核概念とするなら今のような飽食を前提として自給率を論ずること自体滑稽なことです。普通に働いて食べていけるカロリーを摂取できればそれでいいのですが、農地や農業者がなくなってしまってはそれ自体が不可能になります。大切なのは「自給率」ではなく「農地」「農業者」「農業技術」「農業生産基盤」を要素とする「自給力」なのです。
現職議員のほとんどにはその経験がありませんが、ガット・ウルグアイラウンド交渉の際「コメは一粒たりとも入れない」と強硬に主張した結果、要りもしないミニマム・アクセス米を輸入させられる結果となり、後に関税化に切り替えたものの、その量は増える一方でした。
農林水産大臣当時、WTOドーハ・ラウンド交渉で例外品目を出来るだけ多く確保したいという政府・自民党の従来通りの方針に沿った主張を行いましたが、表には出なかったもののその代償措置は相当に過大なものとなることは必至でした。
「関税化を阻止した!」「高関税を設定した!」「例外品目を多く獲得する!」という大本営発表的な宣伝とは裏腹に、多くの負担を農業者や国民に強いてきたことは「実を捨てて名をとる」ものであったように私には思われます。
私自身はこの交渉方針には相当に懐疑的でしたが、自民党農政の抜本的な転換はそう容易なものではなく、生産調整政策の転換を主眼とした農政改革に取り組んだ私に浴びせられた批判は「あのような最低の農水大臣は即刻辞任させよ、農水大臣が何人代わろうと自民党農林族は永遠なのだ」というものでした。
麻生総理には、敢えて自民党農林族の主流から外れた私を農水大臣に起用し、農政改革を断行させようという意図がありました。そのご期待に応えることが出来なかったことを今でも申し訳なく思っています。
農協のビジネスモデルも転換が必要です。農業自体の持続可能性が危ぶまれる中にあって、農協だけが生き残るはずがありません。農協が土地改良区とともに、地域の維持と再生を目的として活動することを可能とする「地域マネジメント法人法」が必要です。
農水大臣在任中にこの法律の策定に着手したのですが、国交省や総務省など多くの省庁に跨る大法案だけに,未完のまま終わってしまいました。しかし、農協の基本理念である「一人は万人のために、万人は一人のために」という精神はまさしく地域再生の担い手として生かされるべきものだと私は思います。
TPPの問題は、どこか普天間基地移設問題と通底しているような気がします。
日本に海兵隊も創設せず、海外邦人救出や離島防衛の法的根拠や能力も持たずにこれをアメリカに依存し、集団的自衛権行使を容認しないため、極東の平和と安定に積極的な役割も果たせないままに沖縄に海外軍の膨大な駐留(沖縄に限りませんが)を押し付けて平然としている様は、まず自国で為すべき努力もしないままに「バーンとアメリカに言ってやった」という点で似通っているように思えてなりません。
勿論これらを放置してきた最大の責任は我々自民党が負うべきものですし、農政や安全保障などの分野に長く携わってきた自分自身が最も重く負うべきものであることは十分承知しております。
だからこそ、言うべきことは言わねばならないと思うのです。
外交交渉についての見識や能力を持たない民主党政権による交渉入りには、まさしくその理由により否定的にならざるを得ませんが、私は交渉自体を否定する立場には立ちません。
そう遠くない将来において実現せねばならない政権再交代後、我々はいやおうなくこの問題に直面せざるを得ないのであり、自民党としての方針を早期に示さなくてはなりません。
昨日は札幌市において開催された「日本と北海道の今を語る」セミナーに講師・パネラーとして出席してきました。堰八北銀頭取、横山アークス社長、大谷アインファーマシーズ社長、星野札幌観光協会長などのパネラーの皆様、コーディネーターの中村美彦氏など、生き生きとした皆様と討論ができ、とても楽しい時間でした。
5日土曜日は早稲田祭で講演(午前10時15分・早稲田大学14号館101教室)、鳥取県立鳥取西高校同窓会である鳥城会で講演(正午・アルカディア市ケ谷)、三原朝彦前衆議院議員後援会で講演(午後6時・福原学園自由が丘会館・北九州市八幡区自由が丘)。
6日日曜日は朝6時に「時事放談」(東京・TBSテレビ、本日収録)、岡山よりフジテレビ系「新報道2001」に中継出演(岡田克也議員との討論・午前7時半)、その後帰鳥し、いくつかの地元行事に出席して東京に戻ります。
皆様お元気で週末をお過ごしくださいませ。