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2019年1月25日 (金)

上北沢ホーム訪問など

 石破 茂 です。 
 韓国における「元徴用工」問題は、韓国の大法院(最高裁)前長官が、上告審の進行を遅らせたとの容疑で逮捕されるという事態に至りました。事態が鎮静化し、冷静な解決を期待していたのですが、韓国国内においても大問題に拡大しそうな様相を呈しています。
 今回新日鐵住金に損害賠償を命ずる判決を下した現長官は、韓国の革新系法曹人で構成される「わが法研究会」の会長を務め、一昨年九月に地方裁判所長から異例の大抜擢を受けて就任した人物で、文在寅大統領の強い意向が反映されていると考えざるを得ません。
 この問題の底流には、そもそも日韓併合につき「当時の国際法に照らし合法であった」とする我が国と、「武力を背景に不法に締結されたものだ」とする韓国との間に大きな隔たりがあることがあります。
 日露戦争の講和を巡るポーツマス講和会議において、小村寿太郎を全権とする日本側が最重要項目としたのが「韓国を安定化させるために韓国を日本の自由裁量に任すべし」とすることであり、ロシアはこれを受諾、桂・タフト協定によりアメリカも承認、イギリスなど諸外国もこれを認め、保護国化後の併合も大きな支障なく国際社会に承認されたのですが、現代の韓国人にとってこれは大変に屈辱的なものであろうことも間違いありません。
 日韓協定交渉時、韓国国内には「日本は不法な占領に対する賠償金を支払うべき」とする世論があり、日本としてはそれに応ずることは出来ず、当時の椎名外務大臣は「(韓国に対する)経済協力は純然たる経済協力ではなく賠償の意味を持っているという解釈はとらない」旨を国会答弁で述べています。
 経済協力の性格がそうであっても、その積算の根拠に徴用工への補償も含まれているというのが日韓両国の共通理解であり(当時、日本側は個人に対する賠償の意思があることを表明したのに対し、韓国側がこれは韓国政府が行うとして拒否した経緯が議事録に記されています)、韓国司法もいままでその立場に立っていたのですが、これを覆したのが今回の判決です。
 一旦締結した条約の内容を一方の国の司法が覆すことが認められるならば、そもそも国際条約など結べないことになってしまいます。主張が全く異なり、日本として妥協の余地がない以上、請求権協定第3条にある「紛争が生じ、外交的解決が出来なかった場合の仲裁委員会の設置」に持ち込む他はありません。韓国は時間稼ぎをすることなくこれに応じなくてはなりません。
 韓国駆逐艦による火器管制レーダー照射事案や今回の事案は、日本には理解困難なものですが、韓国が国際宣伝戦に出ている以上、日本もその主張が広く国際社会の理解を得られるべく、最大限の努力をしなければなりません。

 日清戦争、三国干渉、日露戦争、ポーツマス条約、桂・タフト協定、日韓併合など、遥か昔に習った歴史をもう一度学び直しているのですが、日本における歴史教育は近現代史中心に改めねばならないことを痛感します。
 戦後、価値観が交錯していた中にあっては、明治維新当たりで終わってしまう歴史教育もそれなりにやむを得なかった面があるのかもしれませんが、今となっては弊害の方が遥かに大きいと断ぜざるを得ません。この点、少し古くなりましたが、渡辺利夫・元拓大総長の著書「新脱亜論」(文春新書)はお勧めです。

 さる12日、札幌弁護士会主催による「『憲法改正問題』を真剣に考える国会議員徹底討論」と題する会があり、立憲民主党の山尾衆院議員、共産党の仁比参院議員とともに参加して参りました。
 山尾議員とは論理的構成はかなり共通するも結論が全く異なり(山尾氏は個別的自衛権のみが認められる旨を憲法に明示すべきとの立場)、仁比議員とは論理構成も結論もすべて異なるのですが、全く感情的になることのない議論はそれなりに中身の濃いものとなり、有意義な時間でしたし、憲法改正反対派の方が多い会合で話をさせて頂くという貴重な体験となりました。
 翌日の報道に「自分は9条改正には反対の立場だが、石破の話を聞いて憲法改正により日本を守ることも必要かと思った」との聴衆のコメントが載っており、少しだけ嬉しくなりました。
 自分の意見に賛成する人ばかりを集めて持論を述べ、互いに自己満足と陶酔感に浸ってしまうことは、議論を進捗させ、有益な果実を得ることには繋がりません。そのような言論空間からは一刻も早く脱するべきであり、与野党に加えて、そのような場を提供すべきメディアや諸団体の責任もそれなりに重いと考えます。

 今週火曜日に、世田谷区の上北沢ホームにおいて「平穏死」を提唱しておられる石飛幸三先生(世田谷区立特別養護老人ホーム・芦花ホーム常勤医)と特養管理者・スタッフの方々のお話を伺う機会を得、教えられること、考えさせられること大でした。
 日本の医療・介護は国民的な議論と理解の下、一人一人の生と死の在り方を直視して根本から構築し直していく必要があり、それなくして医療保険・介護保険制度を維持することは出来ません。消費税議論の本質はここにこそあるべきなのに、昨今の議論はいささか視点がずれているように思います。
 先生の著書「平穏死という生きかた」(幻冬舎)「穏やかな死のために」(さくら舎)は平易な文章で綴られながらも内容の深い本であり、ご一読をお勧めいたします。

 本日夕刻は徳島市で開催される第五回全国ジビエサミット情報交換会にジビエ議連会長として参加します。
 26日土曜日は地元で県連会長としての用務をこなし、27日日曜日は富山県内数カ所で開催される講演会・懇親会に出席の予定です。
 来週月曜日より通常国会が開催されます。

 寒さ厳しい折、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。


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上北沢ホームの皆様と。

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2019年1月11日 (金)

年末年始など

 石破 茂 です。
 明けましておめでとうございます。旧年中は何かとお世話様になり、誠に有り難うございました。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
 平成の御代も最後の年となります。よく心してあらゆる事柄に臨んでまいります。

 年末年始は大晦日早朝の民放番組生出演から始まり、地元での番記者有志との忘年会、元旦午前零時から「どんどろけの会」メンバーとの新春事務所前挨拶、午前5時から実践倫理宏正会元朝式、午前8時から宇部神社初詣、自民党国府町支部新年祝賀会と例年通りのスケジュールをこなしました。

 熊本を中心とする震災で被害を受けられた方々に心からお見舞い申し上げます。
 最近のニュース番組において「・・・であることが関係者への取材によりわかりました」との報道が多いことに違和感を覚えているのは私だけなのでしょうか。このほとんどは「関係者」によるリークに基づくものなのでしょうが、取材源は秘匿しなければならない、という大原則に守られた「関係者」は何ら責任を負うことなく一方的に情報を流し、もう一方の当事者の立場や主張は同列には扱われない。もし仮に「関係者」が国家権力に近い側でありせば、それとメディアが一緒になって世論や心証が形成されていくのはかなり危険なことのように思われます。

 日産の一連の問題についても、基本的なところで疑問が多々あります。
 金融証券取引法の有価証券報告書虚偽記載に関する罪は「重要な事項につき虚偽の記載をし、それを提出すること」が構成要件として定められており、これは投資家保護が主な保護法益であると承知しています。では何が重要な事項であり、政府や取引所に対して提出すべき者は誰なのか、これによって侵害された法益は何なのか、日産はどのような損害を蒙ったのか。
 そして圧倒的な国家権力と対峙せねばならないが、確定判決が出るまでは推定無罪とされるはずの被疑者の人権はどうなるのか等々、基本的なことについて見解は多岐に分かれており、いまなお十分に納得できる解説に接しておりません。自分なりに努力して渉猟し理解する必要性を痛感しております。
 ルノーの連結子会社である日産の持つ技術、フランス政府が筆頭株主としてルノーに対して持つ影響力、フランスと中国との関係、アメリカの有する安全保障上の懸念、それらすべてが絡み合う複雑な構図であるようにも思われ、「強欲ゴーンの暴走」あるいは「日産社内のクーデター」的な、ある種分かりやすい絵解きや勧善懲悪的な見方は本質を見誤るものではないのでしょうか。細心な注意が必要だと感じます。

 昭和40年代から50年代にかけて、日産はトヨタと業界を二分する存在で、私が小学校から高校生くらいの頃、新聞や雑誌、テレビに大々的に打たれるコマーシャルにはその都度ワクワクしたものでした。
 日産の作品にはなかなか優れたものがあって、中でも「箱スカ(箱形のスカイライン)」「ケンメリ(ケンとメリー)スカイライン」の一連の広告はとても美しく印象的で大好きでした。
 当時から川又社長、塩路労組委員長を軸とする日産の企業体質は問題視されていましたが、いいクルマと素敵な広告があった頃の日産を懐かしく思い出します。牧歌的で夢のあった昭和のいい時代だったのかもしれません。

 韓国駆逐艦による海自哨戒機に対する射撃管制レーダー照射事案については、そもそもあの駆逐艦はあの海域で一体どのようなオペレーションを行っていたのかが事の本質であると考えております。
 韓国駆逐艦の行動は国際ルールに明白に反するものですが、「遭難した」とされる北朝鮮の「漁船」の正体は何なのか。そして、何故救難信号を韓国だけがキャッチしたとされているのか。
 かつての中国艦による同種の事案の際も、民主主義国とは異なる中国において文民統制はどのように機能しているのかが問題となりましたが、今回の一連の不可解極まる韓国側の対応についても、その視点を持って見ていかなくてはなりません。

 尾崎行雄記念財団が、2018年「咢堂ブックオブザイヤー」の中の一冊に拙著「政策至上主義」(新潮新書)を選んでくださいました。有り難いことです。
 著書や論文は未来永劫にわたって厳しい評価に晒されますので、書くことにはいささかの躊躇いもあるのですが、文章にして自分の考え方を世に明らかにするのも政治に携わる者の責務ではないかと考えております。

 週末は札幌、倉吉、米子、薩摩川内、鹿児島での講演、座談会、選挙応援日程が入り、来週17日にはシンガポールにおいて開催される日経フォーラム「イノベーティブ・アジア」でパネルディスカッションに参加した後、講演する予定です。
 大寒に向かって寒さが厳しくなる折、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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