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2019年6月28日 (金)

トランプ大統領の日米同盟関連発言報道など

 石破 茂 です。
 一昨日淡々と通常国会は閉幕し、参院選モードに入ります。
 予算成立後は衆参の予算委員会も開催されず、党首討論も短時間、御代代わりの一連のフィーバー、米国大統領来日や災害、悲惨な事件などが立て続けに起こり、世の中の耳目が政治に集まらなかったという印象です。人口減少と急速な高齢化、年金に限らず介護・医療などの社会保障制度の持続可能性、政府に対する信頼の回復、日米同盟の今後の在り方、日米貿易交渉の行方など、国会で議論すべき課題はなお多くあったはずですが、議論よりも対立と分断が際立った国会でした。

 先般「テラスプレス」なるサイトの記事をもとにした「フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識」と題する小冊子が自民党所属議員宛に配布され、党本部はこれを政治活動の参考に、との意向のようです。
 選挙なのですから、他党への批判や攻撃を強めるのは当然のことですが、内容自体はともかくとして、どこの誰が書いたのか判らず「自民党とは直接関係がありません」という責任の所在を明確にしない姿勢が私には理解できません。このようなやり方は決してフェアではありませんし、冊子に描かれた枝野氏、玉木氏、志位氏と思われる人物のイラストは悪意に満ちた、人の嫌悪感や憎悪感を煽るもので、品位が感じられません。いかに立場や主張を異にしようとも、いやしくも「全国民の代表者」である国会議員や政党の党首に敬意を払わず侮蔑・嘲笑するかのごとき態度は、本来、日本人の感性からは遠いものではないでしょうか。
 日本を担う責任政党である自民党は、公正で品位のある政党であるべきであり、参考資料も正々堂々と自民党の責任において作成すべきものでしょう。対立と分断を是とするような姿勢では、広範な国民の共感は得られません。

 トランプ大統領が26日、FOXビジネスのインタビューで日米同盟について「我々が攻撃されても日本は我々を助ける必要はない。彼らが出来るのは攻撃をソニーのテレビで見ることだ」と述べ、条約は不平等だと主張したと報じられました。ブルームバーグは同大統領が側近に対して同趣旨の発言をしたと報じており、この二つは連動しているとみるべきでしょう。要は「集団的自衛権の行使を全面的に容認せよ」「それが嫌なら米軍駐留経費を大幅に増額せよ」と言いたいのでしょう。これは日米同盟の本質そのものに関わる発言であり、極めて重大なことなのですが、日本国内での扱いはとても小さいのは何故なのでしょうか。
 昭和30(1955)年、「日本は集団的自衛権を行使し、グァムまで米国を守るので在日米軍は撤退せられたい」と申し入れた鳩山一郎内閣の重光葵外相に対して、これを拒否したジョン・フォスター・ダレス米国国務長官は「日本がフィリピンのようなことを言い出しているが、日米安全保障体制によって米国が得る利益は日本に米国を守らせることではなく、米国が望む場所に、望む期間、望むだけの兵力を駐留させる権利を持つことである」と述べたと言われています(「これは、我々が兵力と基地を日本に維持する権利⦅権利の原文部分はイタリック⦆を捨てねばならなくなることを意味するであろう。そしてそういう特権は日本政府の同意に依存することになるであろう」)。
 ダレスによれば、日本が「米国防衛の義務」を負わない代わりに負担すべき義務は「米国が望む期間、望む場所に、望むだけの兵力を駐留させる」というものであり、実際に日米安全保障条約は「防衛義務」と「基地提供義務」という、互いに負う義務が異なる「非対称的双務条約」と呼ばれるものとなっています。
 私は日米同盟の重要性も、米軍駐留の必要性も理解しますが、ダレスが「特権」として「権利」を強調し、「日本政府の同意に依存しない」と述べていることに米国の強い意志を感じます。その後64年が経過しても未だに基本的構造は何も変わっていません。
 日米安保体制は日本だけが一方的に裨益しているのではなく、日本の持つ地政学的位置、高い工業力、良好な治安に支えられて米国の世界戦略は初めて成り立つものです。そして、国家主権の主要な要素である「領土」を他国に提供する「義務」を負っている条約の例は他にありません。これを独立主権国家と呼べるのか。日米安保の本質を国民に正確に理解して頂く努力をしないままの防衛論議は、危険極まりないものだとの確信の下、今後とも地道に努力を重ねて参ります。

 集団的自衛権の行使の可否はあくまで政策判断であるべきであって、これを憲法判断にすり替えたところに根本的な問題があり、憲法上集団的自衛権は全面的に行使しうるとした上で、行使の要件は新たに制定する安全保障基本法によって厳格に定める、としたのが政権奪還選挙における自民党の公約でした。
 今日のG20での日米首脳会談でこの点が議論になったかどうかはわかりませんが、来年の在日米軍駐留負担の見直しでこれが大きな論点になることを見越して、米国大統領がディールを仕掛けてきたように思えてなりませんし、これにはUSTRの別の意味での意向が関与しているのかもしれません。
 この発言をむしろ好機として「大統領の『日米安保体制の非対称的双務性は解消されるべきである』との見解に同意する。当然のこととして、日本側としても、現在米国が有する基地使用の権利についての見直しを提起する」と言えるようにするためにも、党内の憲法議論および安全保障の議論は丁寧に、しかし徹底的に行われるべきであると考えます。

 週末は、29日土曜日が木村義雄参議院議員総決起大会で講演(午後2時・ホテル日航福岡・福岡市博多駅前)。
 30日日曜日が道の駅「西いなば気楽里(きらり)」開業記念式典(午前10時・鳥取市鹿野町)、社会福祉法人敬仁会・敬友会例会で講演と懇談会(午後6時・松江市内)、という日程です。

 木村義雄参議院議員は昭和61年衆議院当選同期で、平成25年から参議院比例区に転出されました。46人いた当選同期で今も国会に議席を有しているのは、衆議院では逢沢一郎氏(岡山1区)、村上誠一郎氏(愛媛2区)、渡海紀三朗氏(兵庫10区)、三原朝彦氏(福岡9区)と私、そして参議院に転じた木村氏の6人だけとなってしまいました。派閥や専門分野は違っても、年齢的に近く、昭和・平成・令和の激動の時代を共に政治の世界で過ごしてきた仲間には同志的意識を感じています。
 全国比例区の当選は、候補者名記載票の多い順から決まるので、投票は「自民党」の党名ではなく、候補者名を書いて頂かなければ当選には直接結びつきません(「党名を書いても候補者名を書いてもよいが、候補者名を書くことで党の得票にも候補者の順位を決めることにもなる」という比例区の仕組みがなかなか理解されず、党名を書かれる方がいつも7~8割おられます)。
 私も昨年の総裁選挙でお世話になった議員や職域団体の候補者、国政選挙でご支援いただいている公明党など、きめ細かく活動しなくてはなりませんが、木村議員に対するご支援の輪も広がるよう努めて参ります。

 今週の都心は不安定な天候が続きました。私の選挙区である鳥取県を含む中国四国、近畿、九州北部は統計開始以来最も遅い26日に梅雨入りとなり、農作物に対する影響を懸念しています。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2019年6月21日 (金)

イシバチャンネル第九十五弾

事務局です。イシバチャンネル第九十五弾をアップロードしました。北方領土問題や選挙制度についてです。

PART1「丸山穂高議員と選挙区制度」

PART2「中選挙区制あれこれ」

PART3「議員の資質など」

是非ご覧ください。

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党首討論など

 石破 茂 です。
 19日水曜日に行なわれた党首討論では、いつものことながら野党の拙劣な質問振りが目立つ展開となりました。
 枝野氏、玉木氏、志位氏は解散に言及することもなく、「解散されて議席を減らすのが怖い」「本気で政権を獲る気がない」という野党の思惑が国民に見透かされてしまう結果となった1時間でした。
 この短い時間で何を国民に印象付けるか、という戦略設定が全くないままに的を絞らないで総理に質問して、持論を述べてもほとんど意味はありません。短い質疑時間に具体的な政策論に踏み込んではならないのです。
 党首討論のみならず、過去の予算委員会などのやり取りを精緻に検証し、相手の答弁手法を徹底的に研究して周到に準備した上で討論に臨んでいるとは到底思えず、秀才である(と思われる)野党党首の皆様が学習能力を磨かれることを望みます。
 野党の能力が低ければ政府・与党にも驕りや緩みが生じ、国会の形骸化と政治の劣化が進んでしまうことを強く危惧します。政治が劣化するのは政治家や政党の自業自得ですが、それに国家国民が巻き添えになるようなことがあってはなりません。

 国会質疑や記者会見の場は、政府が国民に政策や方針を説明し、理解を得る格好の機会ですし、本来最大限に活用すべきものです。
 かつて自衛隊をイラクに派遣した際は、防衛庁(当時)内で記者会見の模擬演習を何度か行ったものでした。日頃、記者諸兄姉からの厳しい質問に対応している若手の官僚たちが質問する側に回って、長官の私に厳しい質問を浴びせかけるという誠にスリリングな設定でしたが、これがその後の国会答弁や記者会見にとても役立ちました。
 政府やこれを構成する総理、閣僚、政府職員はあくまで国民全ての「公共財」なのであり、その特性として非排除性を有しています。「相対多数の人に支持されればそれでよい」「とにかくその場を凌げばよい」ということにはなりません。かつて先輩から教わった「予算案や対決法案で野党に賛成してもらうことは出来なくとも、政府・与党の考えを理解・納得はしてもらえるよう努力せよ」との自民党の心得を、今更ながら思い出します。

 今週のコメント欄にお寄せいただいた「今回の金融ワーキンググループの報告書を受け取らない、無かったことにするとの政府・自民党の対応は、昭和16年夏に総力戦研究所が作成したレポートを握り潰した当時の帝国政府を想起させる」とのご指摘にはハッとさせられました。
昭和15年2月に「反軍演説」を行った斉藤隆夫衆院議員の衆議院除名、同年の官民挙げての皇紀2600年奉祝ムード、そして総力研究所の報告書握り潰しが、今とどこか重なって見える思いをしておられる方が居られることをよく認識させられたことでした(斉藤隆夫代議士の「反軍」演説については以前も述べましたが、インターネットで演説の録音を聞くことが出来ます。内容が「反軍」では全くないことがわかりますが、同議員の衆議院除名に反対したのは僅か7名でした。この演説が今なお衆議院速記録から削除されたままなのはどうにも解せません。総力戦研究所についても以前からご紹介してはおりますが、文春文庫の猪瀬直樹著「昭和16年夏の敗戦 日本人はなぜ戦争をしたか」を是非お読みください)。

 本日21日の自民党憲法改正推進本部は「憲法裁判・司法制度の現状と課題」と題する宍戸常寿東大教授の講演と質疑応答でした。私もいくつか質問したのですが、憲法の何処にも明文で規定されていない「統治行為」概念を排すべき、との所論には共感するところ大でしたし、「臨時国会召集は統治行為か」との、現在裁判で争われている論点についても有意義な議論を交わすことが出来ました。
 現在議席を有している自民党議員の多くは平成24年自民党憲法改正草案の作成に関わっていないので、知らない人も多いのでしょうが、同改正草案においては「衆参いずれかの四分の一の議員の要求があったときは内閣は20日以内に臨時国会の召集を決定しなくてはならない」旨を明確に定めています。党利党略に捉われることなく、現行憲法第53条の趣旨を明確にする意味でとても重要な改正案文だと思います。

 かつて「歯と唇の関係」「血盟同盟」とも称された中朝同盟の本質は今も変わらないのか、というテーマをここ数年、中国の関係者と議論する際にはいつも提起してきたのですが、明確な回答が得られたことはありませんでした。その意味で今回の習近平中国国家主席の14年ぶりの北朝鮮訪問には強い関心を持っています。次回以降改めて論じることに致します。

 新潟県村上市を中心とする地震で被災された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。防災省設置の必要性を改めて思います。

 週末は、22日土曜日は岩手県議会議員選挙立候補予定者高橋こうすけ氏の応援集会に出席(盛岡市内各所・高橋氏は岩手一区支部長の高橋ひなこ代議士の御子息で、私の事務所で秘書を務めてくれた人物です)。
 23日日曜日は自民党稲美支部政経セミナーで講演(午後3時半・兵庫県加古郡稲美町文化会館)、自民党播磨町支部懇談会(午後5時・加古川市内)、自民党高砂市支部政経セミナーで講演(午後6時半・高砂市福祉保健センター)という日程です。
 ここのところ不順な天候と長時間の陸路移動が多かったせいか、ベストとは言えない体調が続いています。参議院選挙も間近、体調管理に気を付けなくてはいけませんね。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2019年6月14日 (金)

金融審議会WG報告書など

 石破 茂 です。
 永田町では「解散風」が多少収まったように見えますが、まだまだ予断は出来ません。
 何度か述べている通り「衆議院の解散は、衆議院の意思と内閣の意思が明確に異なる状況が生じ、主権者である国民に判断を仰ぐために行なわれる」というのが憲法第69条の趣旨ですが、このような「憲政の常道」的な概念がほとんど語られることなく、議員もメディアも政局や党利党略がらみで解散を論じているように思われ、不健全さを感じるとともに、本質論を語ることが忌避される風潮に、恐れに近い思いがしてなりません。

 金融庁・金融審議会の市場ワーキンググループの報告書を金融担当相が受け取り拒否した件は、議論の方向が混乱気味でどうにも釈然としません。
 「百年安心」というのはあくまで「制度自体は百年存続出来る」という意味なのであって、「百年年金のみで老後を過ごせる」ということを述べたものではありません。これは歴代政府の一貫した立場であり、日本の年金制度が賦課方式である以上、その維持のためにマクロ経済スライドを導入した時から判っていたことです。それを野党が「『百年老後は安心だ』と言っていたのは嘘だったのか」と追及するのは、ためにする議論としか思えません。
 一方、内容そのものを全否定するのも、国民の目を逸らしてしまう結果となり、適切な姿勢とは思えません。ワーキンググループの委員各位は金融担当相の諮問に応えて答申する立場なのであって、政府の政策的方向性とは関わりなく客観的であるべきものです。「政府の政策スタンスと異なるので受け取らない」意向を示したと報道されていますが、それはどういう取り扱いを示すものなのかとさらに疑問視されてしまいかねません。
 ワーキンググループには単に「平均像」(そのようなものはそもそも存在しません)で論ずるのではなく、さらに細かく精緻に分析して立論して頂きたかったとは思いますが、その労に対する感謝とねぎらいの気持ちを持って答申を受け取り、これを基に今後、国民、特に貯蓄がゼロもしくは極めて少ない世代や世帯の方々に向け、リスクを低減した私的年金市場の方向性や資産運用等を考えて頂くことが出来れば、選挙に向けて本来なすべき議論を喚起する格好の機会となったのに、何とも残念な展開となったものです。

 イージス・アショアの配備について、防衛省が候補地を選定する際に実地調査をすることなくグーグルアース(バーチャル地球儀システム)のみを使ってレーダー波の妨げとなる山の仰角を計算したため、縮尺の異なりで実際より大きな数値となった候補地を排除し、残った秋田市の陸上自衛隊新屋(あらや)演習場のみを「唯一の適地」とした件も、今後の対応を誤れば政府と地元との関係を損なうのみならず、安全保障政策にも多大な影響を与えかねないことを危惧しています。
 多少なりとも防衛庁・防衛省に関わった者であれば、陸上自衛隊にある測量や地理情報収集・作成を任務とする専門部隊である地理情報隊の存在を知っているはずなのですが、何故今回この部隊を全く使うことなく(ましてや、いままで海自が運用してきたイージスシステムを今回陸が運用するのに)グーグルアースを用いた作業のみとしたのか、内部に疎い私には理解が極めて困難です。
 山の仰角では不適とされた男鹿半島の国有地も「石油備蓄基地であるから不適であることに変わりはない」とのことですが、それは一体何故なのか。イージス・アショアが近くにあればかえってミサイルの脅威からの安全度は増すと考えるのが論理的には整合するのではないでしょうか。住宅地、インフラ整備など、他の要件についても更なる精査が必要だと考えます。
 安全保障政策、特に基地関連施策は地域との信頼関係がなければ成り立ちません。本件が明らかに防衛省のミスに起因する以上、誠心誠意地元にお詫びするとともに、たとえ同じ結果になるとしても「まず結論ありき」と受け取られかねない対応は厳に避けるべきです。現地から提起された疑問に一つ一つ丁寧に納得が得られるまでお答えし、その積み重ねによって適地に配備がなされるよう切に望みます。

 安倍総理のイラン訪問には、その努力に敬意を表しますし、今回の訪問とタンカー襲撃事件とを直ちに結び付けて議論すべきものではありません。アメリカはイランの関与を指摘していますが、正確なことはまだわかりません。同時に、イランの核開発について日本独自の情報をどれほど持っているのかも論評するのは困難です。
 かつて米国のイラク攻撃について、日本政府の判断が正しかったのかを検証するとの政府の方針が示されましたが、外務省の短い報告書の作成で終わりました。自衛隊のイラク派遣は、戦闘行為が終了した後に人道復興支援目的に特化して行われたものであり、それ自体は憲法にも国際法にもなんら反するものではありませんでしたが、多国籍軍の一員として実際に戦闘にも参加したイギリスでは、特別の独立委員会を設置し、7年という年月をかけて膨大な報告書を作成して当時の英国政府の判断の誤りを糾しています。
 防衛庁長官在任時、この点について国会で質問を受けたとき、「日本には情報、特に人的情報(ヒューミント)を収集・分析・評価する能力が不足しており、この整備が急務」と答弁したように記憶しますが、今も状況がほとんど変わっていないことは痛恨の極みです。
 米国にもイランにも全くの中立、というような立場があり得ない以上、仲介の労が劇的に功を奏することはそもそも期待出来ませんが、独自の情報を持っていれば日本の果たせる役割は今後大きくなることでしょう。
 地図情報についても、人的情報についても、自分の責任も含めて考えさせられることの多い一週間でした。

 週末は、15日土曜日が年一回の大規模後援会集会である「どうする日本」で講演(午前10時・倉吉未来中心、午後1時半・とりぎん文化会館)、自民党岩美町支部総会(午後5時半・JA鳥取いなば岩美町支店)、どんどろけの会役員会(午後6時半・鳥取市内)。
 16日日曜日は第26回りぶる・かなざわの集いで講演(午後1時・金沢東急ホテル)、九谷焼創作工房「セラボ・クタニ」見学と関係の皆様との懇談・夕食会(午後4時・小松市内)、という日程です。
 週末の都心は梅雨らしい天候になるようです。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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2019年6月 7日 (金)

解散のあり方など

 石破 茂 です。
 会期延長が取り沙汰される中、今週も永田町界隈では挨拶代わりのように「衆参時選挙はあるのか」という会話が交わされました。
 何度か指摘しているように、本来の解散・総選挙について規定しているのはあくまで憲法第69条の「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任案を否決した時は10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」というのが原則で、第7条に列記されている天皇陛下の国事行為の中の一つである解散に「内閣の助言と承認」を必要とする、というのは、政治的な行為をなさらない天皇陛下による解散を行われるにあたっての形式要件を規定したものと解するのが自然でしょう。
 国会閉会中でも衆議院解散は可能、とするのが政府の見解ですが、会期延長と解散が絡めて論じられるのは「国会開会中に衆議院が示した意思が内閣の意思と異なった場合、国民に判断を仰ぐ必要が生じる」からであるとされています。そうであるとすれば、衆議院において「衆議院の意思と内閣の意思が異なる」ことが明確にならなければなりませんが、与党が安定多数の議席を持っている場合、そのような事態は考えにくい、ということになります。この前提においては、選挙の際の公約を果たすため、与えられた四年の任期を全うするのが国民に対する責任であると考えます。
 自民党の先人である故・保利茂元衆院議長は、第69条に明記されている場合に加えて、「予算案や、国の行方を左右する内閣の重要法案が否決されたり審議未了になったりしたとき」「その直前の総選挙で各党が明らかにした公約や政策とは質の異なる重要な案件が登場し、国民の判断を求める必要が生じたとき」に限り、7条解散が許されるとの見解を示され(1979年・保利衆院議長見解)、故・宮澤喜一元総理は「解散権は好き勝手に振り回してはいけない。あれは存在するが使わないことに意味がある権限で、滅多なことに使ってはいけない。それをやったら自民党はいずれ滅びる」と語っておられたそうですが(出典未確認)、この言葉の持つ重さと恐ろしさを感じます。

 先日BS番組でご一緒した高安健将・成蹊大教授は、「解散して国民の判断を仰ぐ場合には、国民が判断するに必要な十分な情報と時間(解散から投票までは40日以内。公職選挙法第31条第3項)が与えられるべき」と述べておられましたが、これもまさしく然りと思います。
 衆議院において与党が多数を占めている以上、不信任案は淡々と否決すればよいのであって、不信任案が提出されたこと自体が解散の理由となるというのは論理的にはおかしなことですが、一方において立憲民主党幹部からは不信任案提出や解散に肯定的な勇ましい発言も聞かれます。戦う相手が与党ではなく、対立する他の野党であるという思惑があるとすれば、政府・与党を批判する資格はありません。

 いずれにしても、最高裁が統治行為論を用いて7条による解散を否定していない以上(苫米地事件最高裁判決 昭和35年6月8日)、総理がその気になれば誰も解散を阻止することは出来ません。
 今回改選される参院議員の任期は7月28日までであり、投票日にもよりますが、仮に同時選挙となれば国会議員が参議院議員の半数しか居ないという事態がしばらく生じ、危機管理上決して好ましいものではありませんし、国民に信を問う、と言っても「投票してもどうせ何も変わらない」という国民の諦め感の広がりが無関心・低投票率に繋がっている面も否定できません。
 政府・与党と野党の様々な思惑が交錯して、会期末まで緊迫した状況が続きますが、主権者である国民に対する怖れの気持ちを決して失うことなく日々を過ごしたいと思います。

 元農水事務次官による子息の殺害事件を「いかなる理由があるにせよ許されないこと」と断ずる報道もありますし、確かに殺人を肯定することはあってはならないことです。しかし「このままでは川崎市の事件のようなことが起こりかねない。社会に迷惑はかけられない」と元次官が思い詰めるに至った事情もよく考えねばなりません。父親が事務次官や特命全権大使として功成り名遂げ、外からは羨まれる家庭であっても、窺い知れない深い悩みはあるものですね。多少なりとも元次官を知る者として、また容易に答えが見つからないだけに、懊悩は深まるばかりです。

 本日7日金曜日は自民党鳥取県連選挙対策本部(午後1時半・自民党鳥取県連)、日本新聞協会論説責任者懇談会総会で講演(午後5時・ホテルメルパルク広島)に伺います。
 8日土曜日が鳥取県看護連盟通常総会(午前10時・米子コンベンションセンター)、近畿税理士政治連盟会員研修会で講演(午後3時・国民会館・大阪市中央区)。
 9日日曜日は故・島田三郎参院議員合同葬(午後2時・安来市総合文化ホール)という週末の日程です。

 東京も梅雨入り間近との予想です。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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