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2019年7月26日 (金)

参院選を終えて

 石破 茂 です。

 議員となって33年、10回の参院選に関わってきましたが、今回ほど有権者の冷めた視線を感じたことはなく、戦後2番目の低投票率はその象徴であったというべきです。
 民主主義が機能するには「参加する権利を有する者の多くが投票する」「有権者が判断するに際して公正・適切な情報が公平に伝えられる」ことが必要なのですが、このどちらも欠いてしまったことは民主主義が大きな危機に直面していると言わねばなりません。
 私の鳥取選挙区においても、自民党公認の舞立候補が、野党共同候補である無所属の中林佳子氏(共産党公認で衆院旧島根全県区・比例中国ブロックから過去4回当選。今回は共産党推薦、社民党支持、立憲民主党と国民民主党は自主投票)をダブルスコアで破って再選を果たしましたが(鳥取・島根の皆様、ありがとうございました)、鳥取県内の投票率は過去最低の49・98%となってしまいました。
 鳥取県の東端から島根県の西端までは東京・名古屋間より距離があり、隠岐諸島まで含む広大な選挙区となってしまったため、有権者が候補者本人の訴えを直接聴く機会は極端に制約され、個人演説会を開くこともほとんど出来ませんでした。
 島根出身の自民党候補である三浦氏は、今回導入された「特定枠」によって比例名簿上位に搭載されて最初から当選が確実視されたものの、自分の訴えも出来ず、投票用紙に名前も書いてもらえないという摩訶不思議な選挙活動しかできなかったこともあり、島根の投票率も過去最低となりました。
 舞立候補が島根に行っていて鳥取県内に不在の時は、二区の赤澤代議士と手分けしてなるべく鳥取県内の有権者と接するようにしたのですが、「候補者は何処にいるの?本人の訴えをせめて一度聴きたかった」との声が耳朶に残って離れません。私自身、自分の選挙中は選挙区にはほとんど居ないのですが、告示前に数日かけて選挙区内を自民党の広報車で回るように心掛けてきました。次回総選挙においてもこれを更に徹底させなければならないと痛感したことでした。
 参議院における一票の格差の是正が「法の下の平等」の観点から重要であることを否定はしませんが、合区の理不尽さは歴然としています。憲法改正をするしか合区解消の手立てがないとする自民党の立場からは、これこそ時限性のある憲法改正の最優先課題としなくてはなりません。その際は二院制の意義や地方分権も併せて論ぜられるべきことは当然です。

 有権者に一体何が争点なのか、判然としないままに選挙が行われたことが低投票率のもう一つの原因でした。「政治の安定か、混乱か」「憲法の議論が必要か否か」と問われれば多くの人が「安定」「必要」を選択するに決まっているのですが、「安定した政治で何を目指すのか」「憲法のどこをどのように変えるのか」を語らないままに「国民の大きな支持を得た」と評価すれば、国民の意識との間に乖離があるように思えてなりません。

 一方で論じるべき問題は多々あります。
 「消費税は今回上げれば、この先10年間は10%で大丈夫ではないか」という趣旨の総裁のご発言(選挙前の7月3日の党首討論)には大いに驚いたものですが、開票当日の番組でこれを「私の在任中は税率を引き上げないということだ」と仰った際にも、野党からもメディアからも特段の言及はありませんでした。

 トランプ大統領は参議院選挙終了を念頭に「八月には日米にとって良い発表ができる。貿易不均衡を早期に解決したい」と述べましたが、昨年9月には「我々(大統領と首相)はFTA交渉開始で合意した」と明確に述べており、「この交渉はFTAではなく、あくまでサービス分野や投資などを含まないTAGなのだ」とする日本との立場の相違も明確になるのかもしれません。
 貿易や日米安保体制の見直しのみならず、一見良好に見える今後の日米関係そのものも大きな課題となります。選挙中にダンフォード・アメリカ統合参謀本部議長が提唱した有志連合への日本の参加も、護衛の対象が日本人の生命と財産に限定された海上警備行動や、対象を海賊行為に限定した海賊対処法は適用が困難で、特別措置法が必要となるはずですが、テロ特措法やイラク特措法とは異なり、国連決議が存在せず、イランとの従来からの関係を考慮するとこれも極めて難しいものとなりそうです。

 これらが全くと言っていいほどに議論にならなかった国政選挙とは何であったのか。争点として有権者の前に示せなかったことは私たちの責任であると同時に、敢えて言えばメディアにもその一端はあると思います。

 選挙期間中、秋田・宮城・東京・千葉・長野・静岡・滋賀・三重・香川・佐賀の各都県を廻りましたが、6勝4敗というあまり芳しくない結果となってしまいました。お手伝いの仕方が十分でなかった地域の皆様には申し訳のないことでした。

 選挙直後はまだ気持ちが張り詰めていて感じなかった疲れが一昨日あたりからどっと出てきてしまいました。来週は講演が5つあり、今週末はその準備に充てたいと思っております。
 午前中は梅雨が明けたかのような日差しの照りつけた東京都心でしたが、台風6号の接近に伴い週末は荒れた天気となりそうです。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

 

 

 

 

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2019年7月 6日 (土)

参議院議員選挙告示など

 石破 茂 です。
 先週末から今週初めにかけて、福岡、松江、堺、秋田と廻ってまいりました。
 4日から参議院選挙が公示となり、4日は鳥取県内の鳥取・倉吉・米子・境港で出陣式、5日は松江で朝八時半からの出陣式の後、東京に戻り、大田区・新宿区で東京選挙区・武見敬三候補の応援演説をしてまいりました。
 参議院鳥取選挙区は前回からの島根選挙区との合区が続きますため、鳥取県出身の自民党公認である舞立昇治候補の遊説はほとんど、馴染みのない島根県中心とならざるを得ず(鳥取県の東端から島根県の西端まではほぼ東京・名古屋間の距離があり、島根は隠岐諸島まで含みます)、選挙期間中、鳥取県内は候補者が不在となりがちです。
 先日、選挙区のある地方議員さんから「石破さんは総選挙中ほとんど全国を回っていて鳥取に帰らないし、合区となって以来、参議院の候補者もあまり見かけない。国政から見放されたようで寂しい、と言っている住民がいる」と聞かされ、ハッとさせられました。これではあまりに有権者に申し訳がありません。そんな思いをさせてしまっていることを深く反省させられました。
 全国遊説の合間を縫って、舞立候補が不在の日は出来るだけ選挙区を丁寧に回り、地元の課題と共に地方創生や農林水産、憲法、社会保障、外交・安全保障などの在り方を訴えたいと思っております。久し振りに選挙区を廻り、有権者の皆様にお会いできることを心から楽しみにしています。

 衆議院議員として参議院選挙を経験するのは今回で10回目となります(衆参同時選挙となった86年の参院選の時、私は新人候補でした)。鳥取選挙区は今まで8勝2敗とまずまずの成績ですが、参院選挙に限らず、他の選挙の応援に懸命に回るのは本当に勉強になり、自らの力ともなります。時折、候補者より自分の売り込みに熱心な応援弁士もいますが、そもそも自分の選挙は熱心でも、他の選挙は知らぬ顔という人はえてして自分の選挙も決して強くはないというのが私の体験的印象です。

 自民党が野党時代、衆議院においては頻繁に予算委員会が開かれ、政調会長や予算委員会野党筆頭理事として私も幾度となく質問に立ち、民主党政権を徹底的に攻撃したものでした。民主党の総理や閣僚の答弁があまりに稚拙であり、それが短期での政権崩壊に繋がった一因でもあったのですが、それを逆手にとって国会の議論を避けるような態度は決して良いことではありません。政策に自信があるのであればなおさら、積極的に議論に応じ、正面から国民に訴えるべきなのです。
 先般の党首討論で憲法改正について問われた安倍総裁は「私は党内議論に参加していないので答える立場にない」と述べられましたが、「憲法第9条第1項第2項を残したまま、第3項に自衛隊を明記する」と発言され、「大きな一石を投じた」のは総裁ご自身です。「大きな一石」を投じておきながら後は答えないというのはどういうことなのか、との批判を避けるためにも、党内での議論を整理していくべきではないかと思っています。党内議論が明確に整理されていないからこそ、「それによって自衛隊の任務は変わるのか」との野党党首の問いかけに総裁がお答えになれないのであり、このままでは仮に憲法審査会を開くことができても、憲法論議を深めることは出来ないのではないでしょうか。
 記者会見でトランプ発言について問われた防衛相も「日米安保が片務的とは思わない」と答えたと報じられていますが、ここももう少し丁寧な説明が必要だったと思います。大臣のおっしゃるとおり、条約は双務的なものです。ただし、履行する義務は非対称的です。関係者にとっては常識ですが、一般には認識されていないことをきちんと伝えないと、議論がすれ違いになり、国民の深い理解や議論を喚起することができないままとなってしまいます。

 

 電撃的な板門店訪問において、トランプ氏は北朝鮮の短距離ミサイルを問題視しない旨発言しましたが、短距離ミサイルは概ね射程1000キロ以下のものとされており、平壌から1300キロの距離がある東京は射程外であるものの、日本海側の多くや九州・中国地方は言うに及ばず、距離が990キロの大阪も射程内に入ります。トランプ大統領に言わせれば、「だからアメリカ製のミサイル防衛システムをさらに導入すべし」ということなのでしょうが、抑止力の在り方と併せて日米同盟の今後を精緻に論じ、結論を得ることが我が国にとって決定的に重要です。

 

 総裁は参院選の各党討論会において、消費税率は今度10%に上げた後は、10年間くらいは引き上げる必要がない趣旨を述べられたそうですが、それを不安なく実現するためには国民的な議論が必要です。
 人口急減と超高齢化の中にあって、このまま推移すれば2040年に高齢者の人口は3868万人のピークに達し(数のみならず、比率である高齢化もほぼ同様と思われます)、介護にかかる費用は今の2.4倍、医療が1.7倍、マクロ経済スライドがかかっている年金でも1.3倍になると予想されています。一方で人生100年時代、どれだけ元気で現役でいられるか、定年制はどう変化するか、収入と支出のプランはどうなっていくか、健康長寿で社会保障のコストはどのように変化するのか、など、社会のあり方の変革とともに前提が大きく変化するのであり、それを踏まえて、なおかつ子育て世代への福祉をより手厚くするために、現物給付も含めて全体のプランを考えなくてはなりません。
 これらの前提も考慮しないままに「消費税率引き下げ」や「消費税廃止」を唱える野党の姿勢も無責任極まりないものです。
 30年前の消費税導入時と比べて、所得の格差は拡大・固定化し、企業が最高収益を上げる一方で実質賃金と可処分所得(総雇用者所得ではなく)が伸び悩む中にあって、逆進性を持つ消費税の果たす役割は、税全体の在り方の見直しと併せて変わるべきものと考えております。学者・識者によってもこの問題についての見解は大きく異なっており、多様な年代やステークホルダーを大きく巻き込んだ議論が必要です。

 

 故・堺屋太一氏の絶筆となった「三度目の日本」と、藤井聡・京大教授の「令和日本・再生計画」を遊説の帰路の機内や車内で読んでいますが、ともに政権のブレーンである内閣官房参与を長く務めてこられたお二人が述べておられることには、共感するところが多くあります(もちろん意見を異にする点もありますが)。よく精読して咀嚼・理解したいと思っております。

 

 選挙期間中の来週と再来週、本欄の私の投稿は原則的にお休みとさせていただきます。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

 

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