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2019年9月27日 (金)

国際法における「軍」など

 石破 茂 です。
 
 党役員、政務調査会、国会の委員会等の人事も概ね終了し、来週10月4日から臨時国会が始まります。政府・与党も野党も真剣勝負です。まともにきちんと噛み合った議論が交わされ、国民が覚醒するような論戦を望みます。

 野党時代、政調会長や予算委員会の筆頭理事として、かなり多く予算委員会の質問に立ったように思うのですが、質問前には長くて一週間、少なくとも数日をかけて、質問の構成を組み立てたものでした。鳩山・菅・野田総理や民主党の閣僚の発言をすべて精査し、新聞や雑誌の論説を分析し、関係する文献や論文を国会図書館から取り寄せて、いくつもの質問を作り、こう問えばこのように答えるであろう、と相手の答弁を幾通りか想定し、それに対する更問(さらとい)や更々問を作り、全体を時間内に収めるように取捨選択して組み立てる。こういった作業はとても勉強になったことでした。
 これは政府側で答弁する立場である大臣の職にあった時も同様で、質問者の書いた論文や過去の質問を分析し、所属政党の機関紙の論説にも目を通した上で、答弁を予め組み立てる、という努力を至らないながらも懸命に致しておりました。最近は国会論戦に立つ機会もほとんど無くなってしまったのですが、このような気持ちを失いたくないと思っております。

 憲法改正について、巷間「改憲シフト」と言われる新体制も決まりました。
 未だに気になるのは、第9条第2項を削除するとの案を「石破案」と称する方がおられるようであることです。私が従来から申し上げている改正案は「石破案」という個人的私案などではなく、自民党総務会において正式に党議決定された、れっきとした「自民党案」であって、まずは党内の議論としてこれとの整合性が問われるべきである、ということを述べているものです。

「国の独立を守る組織が『軍』である」
「『軍』とは、外国勢力による我が国主権の侵害を排除する任務を行う組織であり、対外的作用を大原則とし、その行動は国際法や確立した国際慣習に従うべきものである」
「『軍』は国内で最も大きな実力組織であるがゆえに、国内でもっとも厳格な規律に服し、かつ国内最高の栄誉が与えられなくてはならない」
「『軍』は本来、三権以前の自然的権利である自衛権を体現する。よって、国内法執行組織である行政と同一ではない。ゆえに「文民統制」と言われる、国民主権に依拠した司法・立法・行政による厳格な統制に服さなければならない」

 これが国際的な常識であり、国際社会においては至極当然のことなのです。我が国の憲法はこの国際的な原則をまったく無視して作られています。「自民党案」が提起しているのは、すでに我が国に定着している「自衛隊」のあり方を、このような国際的な原則に合致できるように改正しよう、ということなのです。
 我々は、少なくともこの基本的な方向性について、広く国会や国民に理解して頂くべく最大限の努力を行うべきであり、そのような誠意ある姿勢こそが国民的な改憲の機運につながるはずだと信じています。「どうせ解るはずがない」と国民を信じないような政治が、国民から信頼されるはずがありません。
 「軍」と言う言葉に忌避感があるのなら、「自衛隊」のままでも構わないのですし、それは本質論ではありません。
 もちろん、理想がそのまま実現することは世の中においてあまりないことでしょう。しかし我々がそれに近づく努力を放棄してはならないのです。
 我々が本質論から説き起こせば、根強くある「憲法改正は戦前回帰への総仕上げ」的なご意見にも正面から向き合い、いかにそんな話と憲法改正が無関係か、を誠心誠意ご説明することにつながるはずです。

 日米貿易交渉に一定の決着がつきました。交渉ですから一方のみが利益を得るようなことは決してなく、そのバランスをとるために担当者、関係各位は多大の苦労をされたことと思います。「ウィン・ウィン」であればこれに越したことはなく、目出度い限りですが、自動車・同部品の関税撤廃など残された課題について、これからの交渉も相当な困難が予想されることでしょう。
 貿易交渉とは直接の関係はない、とされる米国産トウモロコシの輸入についても、別途、倉庫費用などについて整合性のある措置が必要となります。国内のトウモロコシに病害虫が発生している現状、どのくらいの不足が危惧されているか、民間の判断とはいえ政府もきちんとした説明をしなくてはなりません。

 ところで、以前ご紹介した故・小室直樹博士の「韓国の悲劇」(カッパビジネス・昭和60年)はネット通販上の中古価格が上がってきているそうです。ぜひとも解説を付けて復刊して頂きたいと切に願っているのですが、今のところ様々な事情から困難とのことで、とても残念です。

 週末は、本日夕刻に鹿児島市内の2会場で講演に伺います。
 29日土曜日は第30回自民党ひょうご次世代育成塾で講演、自民党兵庫県連学生部「若手議員と語る会」で懇談(午後1時半・神戸市内)、兵庫県地方議員有志との懇親会(午後6時・同)、という日程です。
 早いもので来週からはもう10月です。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2019年9月20日 (金)

「防災省」、宮川典子先生ご逝去など

 石破 茂 です。
 「挑戦と安定」を掲げた内閣改造から一週間が経ちました。色々な論調があるようですが、ただ一人の任命権者である総理大臣が「これが国家国民にとってベストである」として人選したのですから、とやかく言うべきではありません。内閣全体としても、個別の閣僚としても、何に挑戦するのか、それを阻んでいるハードルは何であるのか、それを乗り越えるためにいかなる施策を持って臨むのか、スローガンや総論ではなく、各論と具体策が問われています。
 来月から始まる国会において、国民・有権者が納得する議論が展開されることを期待しています。

 9月9日からの一週間で、千葉県内において熱中症で搬送された方は498人と、全国最多を記録したそうです。今回の台風が強風を伴う異例のコースを辿ったとはいえ、自然災害でこのような被害が発生するのですから、有事においてどうなるのか想像すると極めて恐ろしいと言わざるを得ません。
 世界でも稀な災害大国であり、首都直下型地震、南海トラフ、富士山噴火も時期の如何はともかくとして必ず発生すると言われている我が日本において、何故、復興庁を改組発展させ「防災省」として設置することを議論もせず等閑視するのか、私には理解できません。
 内閣府防災担当部局は最大限に機能しているのでしょうし、災害対応の体制も日々進歩していることは確かですが、人員は決定的に足りませんし、各省からの出向者で構成されていることもあって、長期間にわたる知識や経験の伝承は困難です。被災各自治体に蓄積されている知見も全国的に共有される必要があり、災害が起こる度に自治体ごとの対処体制の違いが問題となりますが、これも出来る限り同じ体制に整えていかなくてはなりません。防災省の長たる国務大臣には災害対策に通暁した学識経験者を充て、内閣改造があっても交代はしない、というような、あるべき理想の姿を描いてみた上で、現行制度との優劣を比較すれば、それでもなお今のままが良いということにはならないのではないでしょうか。

 危機管理体制について、不断の検討を行う、というのは政府の常套句ですが、その進捗状況を常に検証しなくては実効性は担保できません。平時から有事に至る手前までの「グレーゾーン」の対処法制や対処態勢についても、どれほどの検証がなされているのか質していく必要があります。そもそも国家主権そのものである領土(領域)が外国勢力によって侵害された場合、国際法上は自衛権で対応するはずですが、我が国の法制上はまずは警察権で対応するということになっており、その齟齬にも懸念が生じます。
 平時ではないが、「急迫不正の武力攻撃」はいまだ発生していない、という「グレーゾーン」の状況は間違いなく想定されますし、しかも可能性の高いものです。これにいきなり「防衛出動」で対処すれば「先に武力攻撃を仕掛けたのは日本である」という口実を相手国に与えかねず、我が国の国益を大きく損ないます。
 平和安全法制の制定の際、「武力攻撃予測事態」というカテゴリーを創設し、このグレーゾーン対処もある程度含むイメージとなりました。しかし議論全体としては「集団的自衛権行使の限定的容認」に集約されてしまい、その後これが深掘りされることはあまりありませんでした。問題が生起し、事態が拡大してからでは遅いのであり、今後党内でも議論を提起していきたいと思います。

 党人事も「改憲シフト」と報道される向きもありますが、野党がどうのこうのという前にまずは自民党内で徹底した議論が行われなくてはなりませんし、党内から出される疑問に責任を持って答弁できる立場の方がおられなくては、議論はそもそも成立しません。
 政権奪還時に掲げた党議決定たる憲法改正草案と、総裁が「一石を投じ」られた案との相違について、総裁もしくはそのお考えを体した方から党内と国民に説明することが求められますし、いわゆる「叩き台」(「憲法改正に関する議論の状況について」と題する昨年出されたペーパー)の案が、「自衛隊を明記するだけであとは何も変わらない」というものでは全くない以上、この点についての責任ある説明も求められます。
 特に、従来政府が繰り返し答弁している「必要最小限度の実力組織」という表現ではなく、「必要な自衛の措置」となったことにも、相当の理由が必要です。
 「必要最小限の実力しか持たず、必要最小限の権限しか行使しないので、戦力でもなく軍隊でもなく、交戦権でもない」という政府答弁は、論理の当否は別として日本語としては成り立ちますが、「必要な実力しか持たず、必要な権限しか行使しないので、戦力でもなく軍隊でもなく、交戦権でもない」となると、もはや日本語としても意味不明になりかねません。「必要な」の前に「日本の独立を守るために」と言う言葉を挿入しても、本来国際法上の「自衛権」の概念と同様にしなければならないところが乖離してしまうことには変わりありません。
 このような誰にとっても理解の困難な「改正」により、国際法上の常識とかけ離れた憲法を日本人自身の手で固定化してしまうことになれば、後世に必ず禍根を残すものと危惧しております。

 宮川典子衆議院議員が40歳の若さで乳がんのため逝去されました。私が会長を務める「農林水産高校を応援する会」の事務局長として、ご自身が教員であった経験を生かして本当に良い仕事をしていただき、六月に開かれた総会でも見事な働きをしてくださっていただけに残念でなりません。溌溂として明るい中にもどこか憂いを感じられたのがずっと気になっていたのですが、御霊の安らかならんことを切に祈ります。

 週末は、本日金曜日は「プライムニュース」に出演(BSフジ・午後8時)、22日日曜日は鳥取青年会議所創立60周年記念講演会で講演・パネルディスカッション(午後4時・ホテルニューオータニ鳥取)という日程です。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2019年9月14日 (土)

イシバチャンネル第九十八弾


事務局です。イシバチャンネル第九十八弾をアップロードしました。「インド・バラナシに行きました」です。

イシバチャンネル第九十八弾「インド・バラナシに行きましたPart1」

イシバチャンネル第九十八弾「インド・バラナシに行きましたPart2」

是非ご覧ください。

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2019年9月13日 (金)

岩手の選挙など

 石破 茂 です。
 岩手県知事選挙は大敗という結果となり、埼玉県に続いての連敗となりました。内閣や自民党の支持率と必ずしも連動しないことは、今後の国政選挙に臨むにあたってよく分析をしてみなくてはなりません。国政選挙における絶対得票率が三割を切っていることにも注意が必要です。
 岩手県議会議員選挙や陸前高田市議会議員選挙は、応援に行かせて頂いた方すべてが当選され、とても嬉しく思いました。私の秘書を一年間勤めてくれた岩手県議選・盛岡市選挙区の高橋康介氏も初当選し、有り難いことでした。今後の活躍を心より祈ります。

 内閣・党役員の人事がほぼ終わり、新陣容が固まりつつあります。「誰がなるか」よりも「何をやるか」が重要であり、ただ一人の任命権者であられる総理が「これがベストである」と判断されたうえは、国家国民のために最大限の働きをしてくださるものと期待しています。「ポストは国家国民のためにあるのであって、個人の栄達のためにあるのではない」という当たり前のことが大切なのであり、評価はあくまで国民と歴史が行うものでしょう。

 対アジア外交の行方がとても気になっています。
 私は、日韓対等合併(日本政府としてはあくまでその方針でしたし、昭和天皇の詔書の中にもそれは明確に述べられています)は国際法的に合法であったと考えますし、日韓基本条約の締結過程において、所謂「徴用工」に対する日本政府としての補償を拒否し、韓国内で解決するとしたのは韓国政府であったのは事実です。そして、そうでありながら今回見せている韓国政府の対応は国際的に通用しないものだとも考えています。
 一方において、正論は相手を可能な限り理解した上で唱えるべきですし、世界の日本に対する支持獲得のためにも、少なくとも相手を理解しようとする姿勢は必要なことと信じます。
 日韓関係が極度に悪化して、この地域の安全保障環境が肯定的に変化するとは思えません。日韓GSOMIAも、僅かの情報の遅れや齟齬が決定的ともなる安全保障において影響が皆無であるとは考えられません。
 繰り返しになり恐縮ですが、小室直樹博士の「韓国の悲劇」は是非ご一読ください。私はこの本により随分と蒙を啓かれました。

 台風15号による千葉や神奈川などにおける被害には国家として最大限の努力をして対応すべきものであり、昨年の北海道胆振地震と同様の体制で臨むべきだと思います。酷暑の中困難な中におられる方々の状況を、政権としても与党としても、一刻も早く好転できるよう、最大限に努力すべきと思っております。

 週末は、福岡でのテレビ出演、地元の行事、茨城県石岡市への訪問の予定となっております。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2019年9月11日 (水)

UAE・アルアメリ大使、鳥取県ご訪問

事務局です。昨日(9/10)、UAE・アルアメリ大使が鳥取県をご訪問になりまし
た。石破代議士がUAE議連会長としてご一緒させていただいた時の様子です。
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イシバチャンネル第九十七弾

事務局です。イシバチャンネル第九十七弾をアップロードしました。参議院選挙を振り返ります。

是非ご覧ください

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2019年9月 6日 (金)

水月会研修会など

 石破 茂 です。
 9月1日に開催した「水月会」の研修会に関する報道は、いつもながら政局に関するものがすべてでしたが、講師としてお越しいただいた河合雅司・人口減少対策総合研究所理事長、岩田一政・元日銀副総裁の講演からは多くを学ぶことができ、本当に勉強になりました。
 政策集団、所謂「派閥」の存在意義は、自民党内でそれぞれのグループが政策を錬磨して党内における闊達な議論に資すること、国政選挙において同志を全力を挙げて支援し、党勢の維持拡大に資すること、にあると思っており、その本質は小選挙区制になっても変わるものではありません。
 ベストセラーとなった河合講師の著作「未来の年表」(講談社新書)はお読みになった方も多いと思いますが、「日本の少子化百年の迷走-人口をめぐる『静かなる戦争』」(新潮選書 平成29年)は、精緻な検証に基づく名著です。何故、戦後のベビーブームは昭和22年から24年までの3年で終わってしまったのか、優生保護法はいかなる背景で制定され、サンフランシスコ平和条約発効・日本独立直後に改正されたのか、深く得心すると同時に、明治維新後の日本の歩みを「人口」という観点から見ることの重要性を痛感致しました。私がくだくだとご紹介するよりも、お読みになれば衝撃的な事実に圧倒されることと思いますので、是非ともご一読くださいませ。
 岩田講師からは、「欧州中央銀行を見習い、『税としてのマイナス金利政策』を『補助金としてのマイナス金利政策』に改変してはどうか。現在のマイナス金利政策は、民間金融機関が日銀に一定額以上預金すると0.1%課税されるのに等しい。日銀が現在0%で行っている貸出支援基金や市場操作による資金供与にマイナス金利を適用すれば『税から補助金』への転換が可能で、利ざや圧縮に悩む民間金融機関の困難を緩和できる」「抜本的な処方箋はマイナスの実質中立金利をプラスに引き上げることだ。日本の場合、財政部門の投資超過幅をさらに拡大する余地は限定的だ。最善の方法は民間部門の生産的投資、特に人工知能(AI)やビッグデータ、人的資本など無形資産投資を拡大し、民間の貯蓄超過傾向を是正することだ」とのご所論をご教示いただきました。更によく理解し、研究すべきものと感じました。

 今週は、岩手県知事選挙・県議会議員選挙の応援等々、地方での用務が多く、落ち着いて本欄を記す暇(いとま)がありませんでした。ご容赦くださいませ。
 週末は地元での用務をこなします。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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