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2019年12月27日 (金)

地元の教育など

 石破 茂 です。
 統合型リゾート(IR)にカジノを併設する本来の目的は、その収益を国際会議場や展示場の利用料低減のために充てて国際競争力を確保するというものであり、カジノそのものが自己目的ではなかったはずなのですが、そのあたりの議論が不十分であったように感じています。
 逮捕された秋元司議員については論じる知識を持ちませんし、今後の捜査や裁判の進展を注視する他はありませんが、統合型リゾートについての国民の理解を十分に求める努力が更に必要です。

 先週23日土曜日の鳥取市青翔開智中・高等学校での「真の教育改革は地方から」というテーマでの講演は、私にとっても勉強になる有り難い機会でした。内閣府の調査によれば、小・中学校で学年が上がるごとに「地元に愛着を感じる」度合いが低下するのだそうで、高校生となれば尚更のことと思われます。「東京をはじめとする都会で勉強するのは、そこで得た知識を地元で生かすため」という教育の価値観は、昨今あまり見受けられません。
 エネルギーと食料を生産し、出生率の高い地方が衰退し、政治・経済・文化の中心地ではあってもエネルギー・食料はほとんど生産せず、出生率が全国最低の東京だけが残る、というような国家は持続可能性を持たないのであり、地方の潜在力を最大限に伸ばすとともに、東京が抱える災害に対する脆弱性や歴史に例を見ない高齢化などの負荷を低減し、国の在り方を根本的に変えるのが「地方創生」だったはずなのですが、時間と共にその認識が薄れつつあるようです。
 首都一極集中が進み、地方が衰退するという現象は先進成熟国家に共通の現象ではなく、明治以降、そのような国を設計し、ここまでの成功を収めたことが限界に達した今こそ、一度原点に立ち返り「地元を愛し、発展の可能性を見出し、目的意識を持って学ぶ」教育を実現することが必要です。
 ほとんどの都道府県立高校の入試で地元に関する出題はなされておらず、当然それを学ぶ機会もあまりないと思われますが、学習指導要領はあくまで「その範囲を逸脱しなければよい」という性格のものであり、地域によって独自の教育を施すことは十分に可能なはずです。

 地方創生のみならず、歴史を将来の糧とするためにも地方との繋がりは重要です。戦艦武蔵の最後の艦長を務め、レイテ沖海戦で艦と運命を共にした猪口敏平海軍少将、神風特攻隊の命名者で特攻隊の先任参謀であった猪口力平海軍大佐の兄弟(鳥取市賀露町出身)や、ただ一人で戦時国際法を論じて戦犯裁判を戦い、自分が罪をすべて負って部下を守り抜いた東海軍管区司令官の岡田資陸軍中将(鳥取市江崎町出身)の生き様を学ぶことは、太平洋戦争の教訓を得るにあたってとても有益です。
 猪口艦長については吉村昭の「戦艦武蔵」(新潮文庫)、岡田中将については大岡昇平の「ながい旅」(新潮文庫)をお読みいただければと思います。なお藤田まこと主演の映画「明日への遺言」(アスミック・エース配給・2007年)は岡田中将の「法戦」を客観的かつ淡々と抑えた表現でリアルに描いた作品です。

 報道は「来年は政局の年」と煽り、その中には必ず私の名前が登場するのですが、自分の持つ内容の薄さを少しでも克服し、政治に誠実さと真摯さを取り戻すべく、日々精進努力する他はありません。来年も皆様のご教導をお願いする次第です。何卒よろしくお願い申し上げます。
 年末年始は、28日土曜日が鳥取中央農協役職員・青年部・女性部幹部との忘年懇親会「第27回ミッキー会」(午後6時・倉吉市内)。
 31日大晦日は「列島縦断Live景気満開テレビ」生出演(午前7時・フジテレビ系列)、年末恒例の「どんどろけの会」行く年来る年の会(午後11時・東部事務所・鳥取市戎町)。
 元旦は実践倫理宏正会鳥取会場元朝式(午前5時・鳥取卸センター)、自民党国府町支部因幡一の宮宇倍神社参拝(午前8時・同神社)、自民党国府町支部新年会(午前8時半・同神社参集殿)、という日程です。
 「景気満開テレビ」出演も今年で確か10回目となります。忙しい大晦日の朝7時からテレビを観ている人もそう多くはないと思うのですが、伝統の技術を生かして世界でも高く評価されるブランド鋳物メーカーとなった「能作」の能作克治さん(富山県高岡市)、手巻き寿司で二兆円を売り上げる「マイスター工房八千代」の藤原たか子さん(兵庫県多可町)、金沢の金箔加工現場で働く女性の美肌作りの工夫を生かした商品「まかないこすめ」を開発した「ディーフィット」の立川真由美さん(新宿区神楽坂)など、全国の素晴らしい方々とお知り合いになることができ、地方創生について多くの学びを得たことには心より感謝しております。
 当選前年の昭和60年より三十数年来、大晦日から元旦にかけて事務所前で「お茶配り」を行ってきたのですが、鳥取駅前でのカウントダウン行事が無くなったこともあって事務所のある商店街の人通りがほとんどなくなってしまいましたため、今年から「行く年来る年の会」として事務所内で行うこととなりました。どなたでも出入りご自由ですので、もしお通りがかりになることがあれば、是非お立ち寄りください。

 今年の当欄は本日が最後となります。
 皆様ご健勝にてどうかよい年をお迎えくださいませ。

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2019年12月20日 (金)

マックス・ウェーバーなど

 石破 茂 です。 
 16日月曜日、共同通信の「マックス・ウェーバー没後百年記念企画」で姜尚中・東京大学名誉教授と対談する機会を得、大学1年生の時以来、本当に久しぶりに「職業としての政治」を読み返しました。
 1919年、ミュンヘンにおける学生に対する講演録ですが、有名な「自分が世間に対して捧げようとするものに比べて、現実の世の中が自分の立場から見てどんなに愚かで卑俗であっても、断じて挫けない人間。どんな事態に直面しても『それにもかかわらず!』と言い切る自信のある人間。そういう人間だけが政治への『天職』を持つ」という最後の1節は、今になってより一層心に響きます。己が「断じて挫けない」のか、「それにもかかわらず!」と言い切れるのか、改めて自問自答したことでした。
 故・仙谷由人氏が菅内閣の官房長官であった当時、参議院予算委員会で「自衛隊という暴力装置」という表現を使って批判を浴びた際に、野党自民党の政調会長であった私は「この人はマックス・ウエーバーを読んでいるのだな」と思いました(私自身、仙谷氏のこの発言の前に出した清谷信一氏との共著の中で同じ表現を使いました)。本を多く読めばよいというものでもありませんが、自分の知らないことを少しでも減らし、思考の幅を少しでも広く持つ、というのは政治に携わる者にとってやはりとても大切なのに違いありません。

 習近平・中国国家主席を国賓として招くことに賛否両論がありますが、総理が表明された以上、今更これを覆すことには私は反対です。
 中国と対立するアメリカがどう反応するかを心配する向きもあるようですが、いちいちアメリカの顔色を窺っていても仕方ありません。きちんとした礼節を持って迎え(中国側も江沢民主席が訪日した際のような非礼な振る舞いがあっては断じてならないことは知っているはずですが、もう一度釘は刺しておくべきかもしれません)、人権問題や香港問題、領土問題等については首脳会談において我が国の立場を明確に述べればよいのであり、民主主義国として、政府が国民に丁寧にこれを説明すればよいと考えます。
 「天皇陛下が主席と握手される映像が世界に流れる」ことを心配する意見もありますが、畏れ多くも陛下の公的ご行為(国賓とすること自体は憲法に定める国事行為ではありません)にあれこれ言うべきではないでしょう。陛下のお立場を全力でお守りするのもまた政治の責任です。

 年内にも中東海域への護衛艦派遣が閣議決定される運びとなっています。艦繰りも相当に厳しい中で、アメリカの顔を立て、イランも刺激しないという苦しい選択ですが、万一の不測の事態への迅速な対応や、護衛艦の存在による一定の抑止力の確保という意味で肯定的に評価すべきものです。一部の報道によれば、今回活動地域から外した海域で日本船に危険が迫った場合、その防護は他国に依頼するのだそうですが(複数の政府与党関係者が明らかにしたと毎日新聞)、実際に攻撃された場合には直ちに海上警備行動を発令して自国船舶は守るのが当然でしょう。「そのような事態が発生する危険は少ない」(政府高官)のかもしれませんが、それを想定してあらゆる対応を考えておくのが危機管理の基本です。
 このような議論は国会開会中にきちんと行って派遣の正当性を国民に明確にすることが必要だったと思いますし、それは派遣される海上自衛官諸官や留守を預かる家族に対しても大切なことだったはずです。政府の説明責任は、国民の代表者によって構成される国会の場で果たされることが望ましいと考えます。

 週末は、21日土曜日に鶏鳴学園 鳥取青翔開智中・高等学校FTA「あの人に聞く」シリーズ第1回で講演「真の教育改革は地方から」(午前11時・同校・鳥取市国府町)、関係者との昼食懇談会・校内見学(正午・同)という日程です。
 FTAとは耳慣れない言葉ですが、Family Teacher Associationのことだそうで、Free Trade Agreement(自由貿易協定)ではありません。我々の時代はPTAと言っていたのですが、両親(Parent)だけではない、ということなのでしょうね。

 いつもこの時期になると書くことですが、クリスマスが近くなるとO・ヘンリの短編「賢者の贈り物」を読み返したくなります。本当の賢者とはいかなる人なのか、しみじみと考えさせられる佳作です。
 都心は寒暖差の大きな一週間でした。
 今年もあと10日あまり、皆様お元気でお過ごしくださいませ。

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2019年12月13日 (金)

銀輪競争など

 石破 茂 です。
 臨時国会は延長もなく、9日月曜日に閉会となりました。
 日韓問題、中東海域への自衛隊派遣、日米貿易交渉、社会保障改革等々について国民の納得が得られる議論が展開されるべきであったにも拘らず、二閣僚辞任や「桜を見る会」問題に主に焦点が当たってしまったのは痛恨の極みでした。政府の説明が理解困難と受け止められ、野党やマスコミからの質問が延々と続き、これで肝心な国会審議の時間が奪われてしまったことへの責任は、政府やこれを支える与党の我々が負わなくてはなりません。己の非力を申し訳なく思っております。

 紀元前の中国の王朝・秦の丞相(宰相)であった趙高は、部下の重臣たちの自分に対する忠誠心を試すため、二代皇帝・胡亥の前に鹿を連れてきて「これは珍しい馬です」と言いました。皇帝は「馬ではなく鹿だろう」と言ったのですが、趙高は居並ぶ重臣たち一人一人に「馬に見えるか?鹿に見えるか?」と聞き、彼の権勢を怖れて「馬です」と偽りを言った者はそのまま重用され、正直に「鹿です」と答えた者は難癖をつけられて処刑されてしまいました。その後、趙高に逆らう者は誰もいなくなりましたが、やがて人心は離反し、国は乱れ、遂には楚の項羽によって滅ぼされてしまいました。
 司馬遷の「史記」の中にあるこの話は、「馬鹿」の語源として有名ですが、最近これを耳にすることが多いように思います。今の日本の政治と重ねて語られているとすれば由々しきことです。前回、「政治が嘲笑の、官僚が憐憫の対象となってはならない」と記しましたが、我々は与党の構成員なればこそ、真実を見極め、誤りを糾す誠実さを持たなくてはならないと痛切に思います。

 11日水曜日、私が会長を務める「CLTによって地方創生を実現する議員連盟」で「ROOFLAG 賃貸住宅未来展示場」(江東区東雲・現在建築中)「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」(江東区豊洲)「CLT PARK HARUMI」(中央区晴海)を見学したのですが、実際に現場を見て、民間の発想と意欲に大きな感銘を受けました。
 CLT(直交集成板)はコンクリートに近い強度を持ちながら重さは半分以下のため、工場から現場までの資材の運搬が容易、基礎も簡易なもので足り、コンクリートのように乾燥する時間も省けるため工期も短く、騒音も排出ゴミも極小、作業人員も大幅に少なくて済み、材料を国産ですべて賄え、CO2削減にも寄与するという優れもので、今後価格が低下すれば日本を大きく変える可能性があるものと期待しております。
 森林率が先進国第三位である日本の利点を生かし、ヨーロッパで飛躍的に拡大しているこの技術の普及に向けて、今後さらに努力して参ります。皆様にもご関心を持って頂ければとても幸いです。

 9日の自民党憲法改正推進本部は、篠田英朗・東京外大大学院教授の「活力ある日本のための改憲とは」と題する講演でした。
 同教授は以前から、私の憲法に関する提言などを引用してコメントされており、国際法の大家との有意義な論議を期待して臨んだのですが、私の質問に対して正面からのお答えは頂けなかったように感じ、残念な思いが致しました。教授ご自身のご対応云々というよりも、総じて国会内や自民党内の言論空間が歪になってしまっているのではないかという感覚が拭えません。正面から正々堂々と議論が交わされる雰囲気を取り戻さなくてはなりません。

 週末は14日土曜日が自民党岡山県連・鳥取県連学生部交流会で憲法改正について講演(午後1時半・自民党鳥取県連)、盤山会(親族中心の集まり)研修会で講演(午後3時・白兎会館)、「税理士による石破茂後援会」で講演(午後4時半・鳥取ワシントンホテルプラザ)、「どんどろけの会」クリスマスパーティで国政報告(午後7時・ホテルモナーク鳥取)。
 15日日曜日はイシバチャンネル100回記念番組収録(午前9時半~体育イベント、若桜鉄道乗車、父祖の地である八頭町大御門地区にて撮影)という日程です。珍しく土・日の2日間、地元に帰ります。
 イシバチャンネルも100回となるのですね。キャスターの名越涼さん、スタッフの皆様、本当に有り難うございます。
 「体育イベント」なる催しでは、久しぶりに自転車の輪転がし(昭和の運動会では「銀輪競争」と言っていました)に挑戦する予定です。私は小学校の運動会では入賞に全く縁がなかったのですが、あまりに口惜しいので昭和42年、5年生の個人種目である「銀輪競争」の猛練習を行い、2等賞の黄色いリボンを獲得しました。後にも先にも運動会で入賞したのはこの一回きりでしたが、その時の思い出は今も鮮烈に残っています。そんな種目があったな、と思われた方はおそらく同世代ですね。
 今週の都心は金曜日まで師走とは思えない暖かな日が続きました。
 今年もあと半月を残すのみとなりました。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2019年12月 6日 (金)

中曽根康弘先生の思い出など

 石破 茂 です。
 中曽根康弘政権は5年にわたる長期政権であり、最後の一年は私も新人議員として議席を得ておりましたが、政権が終わるまで緊張感に満ちたものであったことを鮮烈に記憶しています。長期政権になれば緩みや弛み、驕りが出るというのは違うと思います。必然的にそうなるのでは決してありません。与党の一員として、今の状況に重い責任を有していることを強く自覚しなければならないと痛感します。

 

 中曽根先生は内務官僚から海軍に志願し、太平洋戦争中は各地を転戦されましたが、戦艦や巡洋艦に乗艦して海戦を戦うのではなく、主計将校として主に輸送部隊に勤務し、物資・燃料の補給に当たられたようです(終戦時の階級は海軍少佐)。補給や兵站を軽視した帝国海軍は輸送船に十分な護衛を付けることがなく、輸送部隊は次々と米潜水艦の標的となって多大な犠牲が生じたことも、敗戦の大きな要因の一つです(「輸送船護衛に就くのは腐れ士官の捨て所」。輸送や補給などの兵站や情報を軽視したのは帝国陸軍も同様で「輜重兵が兵ならば蝶々蜻蛉も鳥のうち」と言われたそうです)。先生の安全保障観や日米同盟観の根底には、間違いなく死線を彷徨われた戦争体験があったものと思われます。
 総理就任後、一番に訪問先として選ばれたのは韓国でした。中曽根総理は先の戦争について「私は、いわゆる太平洋戦争、大東亜戦争とも言っておりますが、これはやるべからざる戦争であり、間違った戦争であると申しております。中国に対しては侵略の事実もあった」と述べておられます(昭和60年10月29日・衆議院予算委員会・東中光雄議員に対する答弁)。その言葉の持つ意味を今一度冷静に分析し、考えてみなくてはなりません。
 中曽根先生と同年であり、一兵卒として日中戦争に従軍された田中角栄先生は生前、「戦争を知っているヤツが世の中の中心にいるうちは日本は安全だが、戦争を知らない世代が中核になると怖い。だからよく勉強して貰わなくてはならない」と語っておられたそうですが、まさしくそのような時代となりました。
 戦争の歴史を学ぶことの重要性が一層増しているにも拘らず、憲法論議においても場当たり的な議論が一部で横行していることに強い危機感を感じています。再発足した、安全保障を考える超党派の議連において、戦史も学び直すことが出来ればとても有意義だと思っています。

 

 今週3日火曜日に「秘密のケンミンSHOW」の収録があったのですが、明治9年に鳥取県が島根県に「併合」され、明治14年に再置された際の詳細な経緯など、自分が鳥取県民でありながら知らなかったことも多くあり、とても勉強になりました。

 

 「桜を見る会」事案については、依然として国民の納得が十分に得られない状況が続いています。政治が嘲笑の、官僚が憐憫の対象となってしまうことは何とも悲しく情けないことで、これを解消することは我々の責務であり、やがて世間は忘れるだろうとタカを括ることがあってはなりません。政治ですからすべてが綺麗ごとで済むとは思いませんが、綺麗ごとが全く失われた政治はその名に値しないということを自重自戒しています。

 

 週末は、7日土曜日が「衆議院議員 赤澤亮正君を励ます会」(午前11時・皆生グランドホテル天水・鳥取県米子市)、自民党鳥取県ちんたい(賃貸)支部との懇談会(午後2時・同)、大学アメリカンフットボール関係者忘年会(午後7時・都内)という日程です。
 週末残余の時間は暮れの挨拶廻りや、溜まりに溜まっている資料整理に充てる心算でおります。

 

 師走の慌ただしさが日に日に増して参りました。皆様お元気でお過ごしくださいませ。

 

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