与党三敗など
石破 茂 です。
さる25日日曜日に投開票された衆議院北海道第2区と参議院長野選挙区の補欠選挙、参議院広島選挙区の再選挙は、与党の三敗という結果となりました。例によって今後の政局に与える影響についての報道が多いようですが、私は投票率の低さに現れた有権者の冷めた思いに強い不安を感じています。
広島県選挙管理委員会が作成した「黙っとれん」という異色の投票呼びかけスローガンは強い訴求力を持っていたように思いますが、あまり県民の心には響かなかったようです。これこそが民主主義の危機の兆候なのではないでしょうか。
広島、福山と二つの政令市から中国山地の過疎地域までを有する広島県は日本の縮図のような県ですし、被爆地として平和に対する強い思いがあり、公務員や大企業の労組の力も強く、必ずしも保守王国とは言えないと思っています。その中での今回の与党候補は善戦したと言える面もありますが、自民党としてこの選挙の分析・総括を徹底的に行い、次期国政選挙に対する取り組みを急がなければなりません。
議員を辞職して裁判に臨む河合克行・元法務大臣は「党から提供された1億5千万円はすべて広報などの党勢拡大に使い、買収資金には1円も使っていない」と主張しているそうですが、そうであるならば印刷費や配布にかかった費用の内訳の概要(証拠書類は手元にないにしても)を示して、自民党に対する党員や国民の不信を払拭する努力をして頂きたい。自民党の資金の多くは国民の税金を原資とする政党助成金や党員・党友の寄付で賄われているのであり、これが買収に使われていないということを明らかにするのは、党にとっても極めて重要なことです。
一方、三選挙区で全勝したとはいえ、野党に対する国民の期待が高まっているようにも全く思えません。秋までには総選挙を控えたこの期に及んで「次の内閣」も組織できていない有り様では、「内閣打倒」などと叫んでも誰も信用しません。与野党ともに深刻な現状は民主主義と国民にとって極めて不幸なことです。
今の政治に必要なのは、「信頼回復」という国民が聞き飽きた台詞を繰り返すことではなく、国民が共感できる政治の姿を示すことだと思っております。それが単なるパフォーマンスや自己満足に終わることのないよう、日々己の研鑽を重ねる他はありません。
バイデン米国大統領の議会における中国を強く意識した初演説について、その内容をよく吟味し、日本の今後取るべき方途を見定めなくてはなりません。その後の報道が全くありませんが、前回指摘した中国国内の独裁と言論統制強化と見える動きも気がかりですし、ロシアのクリミア併合以来の軍事力強化も日本にとっては大きな懸念材料です。ロシアの力による現状変更志向や軍事力信奉は中国と同様か、それ以上であるにもかかわらず、日本国内でロシアに対する関心や警戒心がここ数年急速に薄らいでいるように見えるのは非常に危険なことで、私も不勉強と努力不足を深く反省しています。
変異株に置き替わりつつある新型コロナウイルスの状況が東京や大阪を中心として拡大しつつありますが、相変わらず感染者や死亡者の数だけに焦点が当てられているのには何か意図的なものすら感じます。
昨年2月以来ずっと申し上げていることですが、感染者数だけではなく、発症した人や重篤化した人の数、その年齢や基礎疾患の状況の分析、治療体制の拡充・整備、治療法の共有と普遍化こそが重要なのだと今でも思っています。
人口当たり世界最大のベッド数を有し、医師や看護師、対応する医療機器の数も世界平均水準にあり、重症者や死者数が欧米に比べて格段に低い日本において医療崩壊が現実のものとして危惧されるのは、平時を想定した医療の供給体制が今回のような事態には機能していないからとしか考えられず、責任の押し付け合いばかりしていても仕方がありません。まずは医師や看護師などの医療関係者のワクチン接種を加速化して安全を確保すること、そしてこれを終えた医療機関はたとえ民間であってもコロナ患者の受け入れを行っていただくこと、これを明確にすべきだと考えています。
東京・大手町の合同庁舎内に大規模ワクチン接種会場を設置して、通勤者や都内在住者に1日1万人規模で五月中にも接種を開始するとの報道もありましたが、集団接種か個別接種かという話は市町村に委ねるはずだったのに、これとどう整合性を取るのかが大きな課題になるのではないでしょうか。どのような人が対象となるのか、問診から始まって接種を完了するまでにかかる時間をどう最小化するのか、自衛隊の医官や看護官を活用する態勢をどのように整えるのか、駐車場のない都心会場までのアクセス、移動制限下での大人数の移動の是非、駅や周辺などでの「三密」の発生、梅雨や暑さの中での高齢被接種者の体調管理、等々、私が考えるだけでも懸念があり、政府として早急に信頼性と実現性のある具体案を明らかにして国民の期待に応えて頂きたいと切に思います。
昨年の今頃、1人に2枚のマスクを配布して国民の不安を払拭するというプロジェクトがありましたが、どんなに善意に基づくものであっても、精緻な計画を立てて臨まなければかえって逆効果となってしまいます。
連休の谷間の平日である今日は永田町も閑散としていますが、コロナ禍を口実にして日々を無為に過ごすことなく、朝鮮半島有事や台湾海峡有事、ロシアの近年の動向についての論説などを可能な限り精読したいと思っています。
今晩は19時半より「報道1930」(BS-TBS)に出演の予定です。
皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。