野党質疑の迫力不足など
石破 茂 です。
総理と全閣僚が出席し、テレビ中継も入る予算委員会の基本的質疑が終わり、今後いくつかのテーマで集中審議が行われて討論・採決という流れになるものと思われます。
閣僚退任後、随分と長く予算委員会に籍をおいていますが、質疑が中断する場面がここまで一度も無いのは初めてのような気がしています。緊張感に満ちた質疑が行われないのはすべて野党の気迫の不足と拙劣な質問技術によるものと断じる他はありません。
最近の流行りなのでしょうか、与野党を問わず、質問の冒頭に「本日は質問の機会を与えていただき有り難うございます」と述べるのが決まりのようになっていますが、議会で質問するのは国会議員が国民から与えられた当然の権利なのであって、誰かから機会を与えられたというものではありません。ちなみに、自民党の会議でも、期数の若い議員などが冒頭に「発言の機会を頂き有り難うございます」と述べますが、これは丁寧とか礼節を弁えるとかいうものとは少し違うのではないかと思ってしまうのは私だけなのでしょうか。
それはさておき、野党は国民からの批判を恐れてか「対決よりも解決」「提案型」に拘り、「私の提案を受け入れていただき有り難うございます」などという発言も目立つようになり、まるで与党議員の発言のようで存在意義が全く感じられません。これでは質問に迫力が出るはずもありません。対する閣僚が事務方の用意した答弁をそのまま読み上げても、二の矢、三の矢を放って議論を深めることもせず、「丁寧なご答弁をいただき有り難うございました。時間もないので次の質問に移ります」などとあっさりと引き下がってしまいます。おそらく、ストーリー性のある質問の組み立てが出来ていないのではないでしょうか。
自民党が野党の時代、予算委員会の質問作りには膨大な時間をかけて準備し、このように訊けばこのように答えるだろう、では次にこのように訊き…という具合に、更問、更々問、更々々問まで用意して一歩ずつ政府を追い詰め、最後には「あなた方政府には何もわかっていない!」と決めつける、というのがパターンでした。今の政府は当時の民主党政府よりもはるかに強かで能力のある政府なのですから、攻める側の野党はより一層の努力をしなければならないはずなのに、ほとんどそれが見られないのは何とも情けないことです。
折角、総理が答弁される予算委員会の場で、各委員会での質疑のような細かい内容の質問をすれば、事務方が用意した答弁でお終いとなってしまうことは当然予想すべきことであり、勿体ないことこの上ありません。野党には、委員会終了後に反省会を開いて次の機会に備えるような真摯さが求められると思います。
特に「新しい資本主義」と「敵基地攻撃論」についての議論の深まりがないことには相当な深刻さを感じます。
資本主義の捉え方とその修正の方向性には様々なバリエーションが考えられるはずです。人間の欲望が無限であること、それを叶えるためのフロンティアがあることを前提として発展してきた資本主義は、限りある地球資源、これ以上破壊されると人類の生存に関わる自然環境、あるいは発展途上国と言われる国々の飛躍的発展、などの現状に直面して、どのようにあるべきなのか。デジタル空間は次の資本主義のフロンティアたりうるのか。そう考えるとすれば、デジタル田園都市構想による地方創生との組み合わせでわが国の経済にはどのような発展があり得るのか。
敵基地攻撃の範囲をどう捉えるか。従来の専守防衛といかなる関係に立つものなのか。政府は「日米の役割分担は基本的には変更しない」との立場ですが、「基本的」とは何であり、それ以外の部分で何を為そうとしているのか、それは抑止力の向上にどのように繋がるものなのか。
これら二つの問題を議論するにあたっては、質疑者と答弁者の双方に「資本主義とは何か」「専守防衛とは何か」といった基本的な理解がなければなりません。
地位協定に関する議論もまったく深まりませんでした。今週接した「日米地位協定」(山本章子著、中公新書)は、日本の国際社会における活動の広がりと併せる形で地位協定を少しでも改定しておくべきだった、との論説であり、啓発されるところ大でした。
迫力を欠く野党の質疑の中で十分傾聴に値したのは、国民民主党の前原誠司議員と、有志の会の北神圭朗議員の質問でした。前原議員は新しい資本主義について、北神議員は人口急減を踏まえた国の在り方について、巧みに持論を交えた質疑を行い、与党席からも拍手が起こる内容で、予算委員会質疑とはかくあるべしと強く思ったことでした。
月曜日に開かれた自民党安全保障調査会の勉強会では、礒崎敦仁・慶大教授の北朝鮮論、小泉悠・東大専任講師のロシア論を聞き、質疑応答が交わされました。両先生とも本質論を展開されてとても聞き応えがあり、私の質問にも的確にお答えくださいました。
「北朝鮮はもはや日本に対して期待はしていない。中国とロシアはあくまで北朝鮮の体制を維持する」
「プーチン政権は日本を自分では何も決められない半主権国家としか見ていない」
という両先生の指摘は、まさしく正しいものだと思います。
拉致問題も、北方領土問題も、この10年内に前進を見なかった課題であったことは厳然たる事実であり、何故そうなってしまったのかを直視しない限り、新しい展開はあり得ません。
北朝鮮のミサイル発射の頻度の高まりは異様ですが、これはロシアと中国が容認しない限りあり得ないことです。北朝鮮の体制を維持することはロシアと中国にとっては必要不可欠であり、日本の意向とは関わりなく支援が続けられると認識しておくべきです。
ロシアにとってオホーツク海に戦略ミサイル原潜を潜ませておくことは、アメリカに対する第二撃能力を保持する上から絶対に必要なことであり、領土問題の是非とは切り離して考えているに違いありません。プーチン大統領が「北方領土が返還された場合、日本はそこに米軍基地を置かないと約束できるのか」と発言したことに、問題の核心が表れているのだと思います。
去る23日に行われた鳥取県琴浦町の町長選挙では、二期目を目指した現職が、昨年末に突如として立候補を表明した女性元町議に敗れる、という波乱がありました。県庁職員出身の現職は長い知己でもあり、実務面でも精神的にも応援していたのですが、思わぬ結果となってしまいました。直前まで無投票が予想されていたため、陣営にも我々にも油断があったのかもしれず、選挙の恐ろしさをまざまざと感じたことでした。示された町民の意思を尊重しつつ、今後の対応に誤りのないようにしなければなりません。
新型コロナ新株による感染拡大の影響で、週末も多くの日程が変更となりましたが、特定枠となっている今夏の参議院選挙鳥取選挙区の対応も含め、抱えているいくつかの諸案件に目途をつけなくてはなりません。
皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。