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2022年4月28日 (木)

観光船事故など

 石破 茂 です。
 知床の観光船の遭難事故は何とも痛ましいものです。ご両親への親孝行の気持ちとして北海道旅行をプレゼントした男性の話など、あまりに痛ましく、言葉を失ってしまいます。旅行をプレゼントされたご両親は恐らく幸せ一杯の気持ちで観光船に乗られたのでしょう。ご両親が釧路市の和商市場で購入したカニが男性の神戸市の自宅に届いた時、もうご両親はこの世におられなかったのかもしれません。最後の時、何を思われたのか。佐賀県有田町の男性は、奥さんに「船が沈みそうだ。今まで有り難う。お世話になったね」と電話していたそうで、心を打たれます。
 昭和60年8月12日、墜落していく日航ジャンボ機の中で「本当に今迄は幸せな人生だったと感謝している」との遺書を遺した川口博次さん(当時大阪商船三井船舶神戸支店長)にも心から深い感銘を受けたのですが、人の真価とはこのような時に現れるのかもしれません。そのように行動できるのか、私にはとても自信がありません。己の至らなさを恥じるばかりです。
 未だに行方のわからない方々が一日も早く発見されることを願います。
 海上運送法は船舶航行の安全について定めていますが、これが遵守されていればこのような事故は起こらなかったのでしょう。当選三回の時、衆議院規制緩和に関する特別委員長を務めていた際、経済的規制は可能な限り緩和されるべきだが、人命や身体の安全に関わる社会的規制の緩和には慎重であるべき理由として、消費者(交通機関の場合は乗客が、事業者の安全基準遵守の態様について情報を知り得る立場にいないことが挙げられているのを知って深く得心したものですが、今回それを改めて想起したことでした。

 

 5月9日のロシアの対独戦勝記念日を間近に控えて、ウクライナ情勢は緊迫の度を増しています。
 現在でもロシアは石油やガスで海外から一日で邦貨換算1300億円(年額50兆円弱)もの収入を得ているとの報道もあり、これが事実とすれば経済制裁の実効性もかなり疑問と言わざるを得ません。ロシアの銀行のSWIFTからの排除も、一部で喧伝された「金融の核兵器」的な効果があったとは思われないのですが、このあたりについての正確な情報が不足しているのは極めて残念なことです。
 NATOは武力介入せず、資金や兵器などの提供によってウクライナを支援していますが、戦争は長期化し、無辜の民の犠牲は増えるばかりです。戦争が外交の延長であり、外交には内政が強く反映される以上、早期に終わらせるためにはロシアのプーチン、ウクライナのゼレンスキー両大統領が「ロシアは勝利した」「ウクライナの独立は守られた」という、それぞれの国内を納得させられるだけの交渉を行う他はなく、これについては良い悪いの問題ではありません。プーチン大統領の暴挙に対して正義を行うのは、停戦の後でも十分に可能です。停戦は降伏とは全く意味の異なる事実行為だからです。
 一刻も早く戦闘を停止させ、無辜の民の犠牲を止める、核兵器の使用と、第三次世界大戦に繋がるような事態を阻止する。優先すべきはこの二つです。

 

 ウクライナ戦争の当初から申し上げている通り、ロシアの行為を最も強く非難すべき立場にいるのは、中立条約を破って侵攻され、昭和天皇のポツダム宣言受諾の詔勅が発せられて以降も攻撃を受け、多くの人々が殺害され、シベリアでの強制労働に服せられて五万人もが命を落とし、今なお北方領土が不法占拠されている我が日本国です。
 そして今回のロシアの侵攻を許した背景として、ウクライナがロシアから侵略されても武力をもって支援しないと早々に表明したアメリカをはじめとするNATO諸国の姿勢にも大きな責任があります。ブダペスト覚書でウクライナが核を放棄したにもかかわらず、その安全を保障したはずのアメリカやイギリスも、ロシアの侵攻からウクライナを守ることをしなかったではないか。
 これらをよく認識した上で議論がなされなくてはなりません。

 

 グテーレス国連事務総長がロシアとウクライナを訪れるなど、国連もそれなりの努力はしています。経済制裁には賛成していない中国は今のところ事態の推移を注視しているように見えます。
 1956年のハンガリー動乱の際に、中国は「帝国主義の侵略政策に真っ向から対決してのみ平和を守り得る」と主張して、積極的に仲介の労をとりました(もちろん中国の動機はそのような綺麗事ばかりのはずはなく、様々な打算と思惑があったに違いなく、事実この仲介によって、その後しばらくソ連に対する中国の発言権は高まり、ソ連から核技術を供与されることに繋がったのだと言われています)。
 国連や中国など潜在仲介国の今後の動向が戦争の行方を大きく左右するのであり、日本もただG7の中のポジションだけを確保していればいいのではないことを、政府首脳や外交当局はよく理解しているはずです。

 

 本日、自民党に「ラーメン文化振興議員連盟」が発足し、お世話係を拝命することとなりました。
 ラーメンはまさしくカレーと並ぶ国民食となりましたが、小麦価格の高騰と円安もあって値上げが予想され、コロナ禍で経営が困難になっているお店も多くあります。国民政党である自民党として、この振興に助力するべきことはむしろ当然であり、地方創生にも大きく寄与するものと思います。
 今回初めて知ったのですが、同じ国民食でもラーメンは体育会系、カレーは文化サークル系なのだそうです。ラーメンは食べ歩きやチェーン店が全国展開でその覇を競うなど体育会系の色彩が濃いのに対し、カレーには一部を除いてあまりそのような面がありません。食文化の奥の深さに改めて気付かされる思いです。

 

 明日から連休に入り、何日か地元に帰る他は在京して溜まった用務を少しでも済ませてしまいたいと思っております。
 5月1日日曜日は「日曜報道 THE PRIME」(フジテレビ系・午前7時半~)、5月3日火曜日は「日経ニュース プラス9」(BSテレビ東京・午後8時54分)、5月7日土曜日は「News BAR 橋下」収録(ABEMA TV・5月14日配信予定)に出演する予定です。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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2022年4月26日 (火)

イシバチャンネル第百二十三弾

イシバチャンネル第百二十三弾、「ウクライナ戦争について」をアップロードしました

是非ご覧ください

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2022年4月22日 (金)

自民党提言など

 石破 茂 です。
 ウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」の命中によるとみられるロシアの黒海艦隊旗艦であった巡洋艦「モスクワ」の撃沈は、艦齢40年を超える老朽艦とはいえ、それなりに衝撃的な出来事なのでしょう。ロシアの(特に水上)艦艇はかなり特徴的な形状をしており、一体どのような設計思想なのか不思議に思っていたのですが、その道に詳しい方によれば、ソ連・ロシア海軍は1904年の日本海海戦以降ほとんど実戦経験が無いために、ダメージ・コントロールなどをあまり考慮しない「とにかく強そう」なフネになってしまっているとのことだそうです。これはロシアからの直輸入かコピーが多い中国人民解放軍海軍の艦船にも同じことが言えるのかもしれません。
 当然のことながら、陸海空の防衛装備品の設計思想は戦争の勝敗にも影響します。太平洋戦争中、ダメージ・コントロールを軽視した帝国海軍の空母がほぼ全滅したのに対し、これを徹底的に重視した米海軍の空母は損傷を受けてもその多くが戦列に復帰しましたが、外観上からもその違いがよく分かります。開戦初頭において圧倒的な強さを誇った零戦が、やがて米軍のグラマンに敗れ去るに至ったのも同様です。
 いかに「ネプチューン」が高性能とはいえ、二発が命中しただけで大型艦が沈んでしまうという信じがたい光景に、1982年のフォークランド(マルビナス)紛争の際、イギリス駆逐艦「シェフィールド」がアルゼンチン海軍の放ったフランス製ミサイル「エグゾセ」によって撃沈されたことを想起しました。
 映画「亡国のイージス」(2005年・日本ヘラルド映画・松竹配給)では、海上自衛隊の護衛艦「うらかぜ」(架空)が、北朝鮮のテロリストに乗っ取られたミニ・イージス艦「いそかぜ」(架空)の発射した対艦ミサイル「ハープーン」によって撃沈されるシーンが出てきます。この時、中井貴一さん扮する「いそかぜ」幹部に化けた北朝鮮工作員が「良く見ろ、日本人。これが戦争だ」という極めて印象的なセリフを言うのですが、これも鮮明に思い出しました。ご関心のある方は、是非原作(福井晴敏著・講談社・1999年)と併せてご覧ください。原作には、日本の防衛法制や防衛力整備の問題点が極めてリアルに描かれており、四半世紀近く経った今も本質はあまり変わってはいないように思われます。

 「この戦争でロシアは日本円にして1日2兆円もの戦費を使っており、やがて財政的に行きづまり、それが戦争の終わる時期の目途となる」との報道がありますが、これは計算の根拠も不明な、随分といい加減な話だと思います。ロシアが喪失した車両・艦船・航空機などを全部新品に更新したと仮定し、兵士の給料や燃料費・食糧費などを全部合算すればこうなるのかもしれませんが、あまりに現実と乖離しており、このような説を報道する見識を疑います。「巡洋艦モスクワ沈没で950億円の損失」との報道も同様で、艦齢39年の老朽艦にそのような価値があったとはとても思えません。
 東部の要衝マウリポリの攻防でその存在がクローズアップされている「アゾフ大隊」の実態も日本国内ではあまり報道されません。いったいこれはどのような組織なのか。その部隊章がナチスの記章を模したものであるように、組織された当初は反ユダヤ的極右思想を有していたと思われます。2014年のクリミア侵攻以降、ウクライナ正規軍の下に組み込まれたとされていますが、いまだに独立した指揮系統を有しているとの説もあります。プーチン大統領の「この戦争はネオナチの迫害からロシア系住民を守る特別軍事行動である」との主張を正当化させないためにも、アゾフ大隊の今の組織的立ち位置は報道されてしかるべきではないでしょうか。
 このように、今回も国内報道では軍事的な情報の不正確さや不明確さが目立ちます。民主主義国においては国民世論が大きな力を持つのであり、だからこそ情報収集能力の強化は極めて重要なのです。

 昨日、自民党安全保障調査会がとりまとめた「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」の中に、「政府全体として防衛駐在官の更なる活用を含めた情報収集能力の強化」「国家情報局の設置」が書き込まれました。
 報道では防衛費の対GDP比2%と、今後保有すべき反撃能力が大きく取り上げられています。しかし安全保障環境が平穏なら1%でも多いのでしょうし、厳しければ2%でも足りないのは当然で、対GDP比の数字それ自体に積極的な意味があるとは思いません。
 陸・海・空三自衛隊の運用はさらに統合されるべきであり、防衛力整備も単に陸・海・空の要求を足したものではなく、想定されるオペレーションに応じて統合的になされなくてはならず、その体制を整備する必要性も明記しました。個別最適の総和が全体最適なのではありません。
 「司令官の新設を含めた常設統合司令部」の設置も、実現すれば大きな前進になります。統合幕僚長は自衛官の最高位ではあっても、あくまでスタッフ=「幕僚」であって「司令官」ではありません。日米同盟においても統合幕僚長のカウンターパートは米軍統合参謀本部議長であり、実際に米軍の作戦を指揮する太平洋軍司令官ではありません。つまり太平洋軍司令官のカウンターパートは不在だったわけです。このような摩訶不思議なことが今まで罷り通ってきたのは、実際に戦争が起こることを想定していなかったからであり、これでは抑止力にはなりません。これも我々政治の重大な怠慢であったと、心より申し訳なく思っています。

 従来、「策源地攻撃能力」「敵基地攻撃能力」「敵地攻撃能力」などと言われてきたものを、今回「反撃能力」として整理し、その能力整備が提言の中に明記されました。専守防衛との関係を論理整合的に説明することは極めて重要で、どのような抑止力として位置付けるのかと併せて、かなりの議論を積み重ねなければなりません。

 今回の議論では「防衛費はNATO並みの対GDP比2%を目指すべきだ」「左翼政権のドイツですら2%を実現すると言っている」という趣旨の発言も多かったのですが、NATOの性格や財源論に言及したものはあまり見かけられませんでした。予算規模云々よりも、集団的自衛権の行使、シェルター整備などの国民保護、シビルディフェンス・民間防衛体制についてこそ、NATO並みを目指すべきでしょう。
 ちなみに対比2%を達成するためには約5兆円が必要となりますが、健全財政を厳しく課されているEU各国とは異なり、財源は増税か国債発行に依らざるを得ません。我々はこの点もきちんと国民に説明する責任を果たさねばなりません。

 昨日、一昨年コロナで急逝された外交評論家の岡本行夫氏を偲ぶ会が開催されました。森喜朗元総理、小泉純一郎元総理など、どなたのスピーチも心の籠った内容の深いもので、とても素晴らしい会でした。
 岡本氏にはイラクへの自衛隊派遣をはじめとして、お亡くなりになる直前まで本当にお世話になりました。希代の戦略家であり、人情家であり、熱血漢であった岡本さんの御霊の安らかならんことを心よりお祈り申し上げます。遺稿となった「危機の外交」(新潮社刊)を連休中に読んでみたいと思っています。

 来週28日に「ラーメン文化振興議員連盟」が発足し、会長に私が就く予定、との報道に、一部で随分と反響があり、いささか当惑もしています。
 全国各地で講演する時には、あらかじめそのまちの人気ラーメン店やメニュー・お値段・特長などを調べていくのですが、他のどのようなソウルフードよりもお客様の反応が多く、やはりラーメンは本当の国民食なのだな、とつくづく思います。
 コロナ禍で客足が鈍っているのに加えて、ロシア情勢や円安で材料費が値上がりし、全国で厳しい経営状況にあるラーメン業界に、少しでもお役に立てることがあれば、そして各地の「ご当地ラーメン」をてこにした地域振興に寄与できれば、望外の幸せです。

 週末は、23日土曜日に大阪府私立病院協会青年部会の第300回総会・勉強会で講演の予定です(午後7時・大阪市内)。
 「人口減少社会における日本医療・介護・福祉の今後の在り方」という演題を頂いており、自分の勉強にもなりますので、とても有り難く思っております。
 医療改革関連で最近読んだ(読み直し含む)中では「医学は科学ではない」(米山公啓著・ちくま新書・2005年)、「医学の勝利が国家を滅ぼす」(里見清一著・新潮新書・2016年)、「日本の医療の不都合な真実」(森田洋之著・幻冬舎新書・2020年)、「養老先生、病院へ行く」(養老孟司・中川恵一著・エクスナレッジ・2021年)から大きな示唆を受けました。
 24日日曜日は「Mr.サンデー」(フジテレビ系列・午後10時~)に出演する予定です。

 連休も間近となりました。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2022年4月15日 (金)

対独戦勝記念日など

 石破 茂 です。
 旧ソ連時代より国家最大の祝日とされるロシアの「対独戦勝記念日」である5月9日が間近となりました。私はどうにもこの日が気になって仕方がありません。
 欧米では対独戦勝記念日が5月8日なのにロシアでは5月9日となっているのは、フランスのランスで行われた降伏文書の調印にスターリンが「ドイツ総兵力の6割と戦い、ソ連人口の12%にあたる2700万人の多大の犠牲者を出してナチスと戦い、ヨーロッパを解放に導いたのは我がソ連であり、降伏文書の調印はベルリンのソ連軍司令部で行われるべき」と強硬に主張し、再度降伏文書の調印が行われたことによるのだそうです。
 歴史教育の徹底により、このような意識はロシア人に共通した強烈なものとなっているようで、ブレジネフも、ゴルバチョフも、エリツィンも5月9日の軍事パレードにおいて大演説を行っています。ですから「ウクライナの非ナチ化」を戦争目的に掲げるプーチン大統領も、この日を強く意識しているであろうことは想像に難くありませんが、戦況が芳しくないままでこの日を迎えることは避けたいであろうところ、彼がどのような決断をするのか、注視すべきです。
 まずは停戦を実現させて犠牲者がこれ以上増えることを食い止めるとともに、恐らく核兵器の使用を念頭に置いた「もし西側が邪魔をするなら歴史上見たことの無いような結果となる」「ロシアのない世界に何の意味があるのか」とのプーチン大統領の言葉が実現されることのないように、唯一の被爆国であればこそ日本はあらゆる知恵を結集する責任があります。
 1956年、安保理常任理事国である英仏とエジプトの間に勃発したスエズ動乱(第二次中東戦争)の際、安保理ではなく国連緊急総会において国連緊急軍の編成が決議され、英仏を除く各国でUNEFが編成されて、停戦・撤兵が実現されたことがありました。ここに何かのヒントは無いのでしょうか。NATOのさらなる支援の可能性と併せ、懸命に考えております。
 今回万が一にも核兵器が使用されるような事態となれば、第二次大戦後の核抑止力を基礎とする世界秩序は根底から覆ります。核政策を考える際、夢想的・空想的な議論をしてはならないことを改めて痛感させられます。

 私も含めて多くの日本人にはよくわからないことではありますが、この戦争が宗教戦争の一面を持っていることにも認識が必要です。
 2020年のロシア憲法の改正の際に「ロシアは1000年の神への信仰に基づく国家である」と明記されたのは、ロシア正教の国教化を意味するのだそうですが、これはプーチン大統領が共産主義に代わる国家の統一理念をロシア正教に求めた、ということでしょう(ちなみに中国は共産主義に代わる理念を「中華民族の偉大な復興」と言う民族主義に求めたのだと考えます)。この背景には、2018年にウクライナ正教会がロシア正教会の管轄から離脱して独立したことがあります。良し悪しや好き嫌いを離れて、このような経緯もよく認識しておかなければ、国際社会における議論と齟齬をきたすことになり、「国際社会との協調」も難しくなります。

 ロシアのルーブルはウクライナ侵攻前の水準を回復したと言われており、ナブウリナ総裁率いるロシア連銀のルーブル防衛策は当面、成功しているようです。この理由とともに、財政基盤と戦費の関係という観点を、わが国の防衛費の対GDP比を2%以上にするべきとの議論の際にも失わないように考えていきたいと思います。

 感情論を極力排した真っ当な核政策の議論につき、「核のボタン」(ウィリアム・ペリー元米国国防長官、トム・コリーナ著・朝日新聞出版・2020年)は示唆に富む一冊です。4月20日に発売される「いまさら聞けないキリスト教のおバカ質問」(橋爪大三郎著・文春新書)も、とても面白い内容です。故・小室直樹博士の直弟子である橋爪教授の著作からもいつも大きな示唆を受けています。宗教について最低限の知識を持っておくことの大切さを、今回のウクライナの件で再認識したところです。

 週末は16日土曜日に地元へ戻り、かねてより依頼されていた用務をこなします。
 17日日曜日は来週に予定されている講演の準備と、オフィスの執務机に山と積まれて雪崩発生直前状態となっている書籍や資料の整理に充てたいと思っております。
 18日月曜日は「ニッポンおかみさん会 第29回全国フォーラムin草加・越谷」で基調講演の予定です(午後1時・草加市松江)。

 桜も散った都心は、肌寒い小雨模様の週末となりました。
 台風も近づいております。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2022年4月 8日 (金)

ジュネーブ条約など

 石破 茂 です。
 ウクライナを侵略しているロシア軍がキーウ(キエフ)近郊のブチャなどで多数の民間人を虐殺したとされる行為が、厳しい国際的な非難を浴びるのは当然です。ロシアが憲法でその法的継承国としているソ連は、同様の残虐行為を昭和20年に、千島・樺太・満州において日本の民間人に対して働いたのであり、日本こそこの今回のロシアの行為を国際社会の先頭に立って糾弾しなければなりません。
 日ソ中立条約を一方的に破棄し、日本がポツダム宣言受諾表明した後も武力行使を続け、民間人を虐殺し、シベリアで強制労働に服させて多くの人を死に至らしめ、今なお領土を不法占拠している様(さま)は、彼らが今行っている行為と全く同じです。日本人はウクライナ国民と共にある、と言う時には、これを決して忘れてはなりません。

 それにしても、ロシア軍の軍紀や指揮命令系統は一体どうなっているのでしょう。ジュネーブ条約(および付属議定書)に細かく示された文民保護や捕虜に対する取り扱いの規定など、全く弁えていないとしか考えられません。
 武力紛争中の非人道的な行為は、まずは停戦を達成したのちに戦争犯罪として厳正に裁かれるべきものですが、今回はロシア側にもウクライナ側にも正規国軍ではない傭兵・義勇兵・民兵などが多く参加しており、通常の国家間紛争よりも裁判はさらに複雑になると考えられます。
 ロシアに多大の借りがあるシリアからは、主に金銭目当ての傭兵が多くロシア軍の戦闘に参加していると言われていますし、一方でウクライナのゼレンスキー大統領も、「ウクライナ人は銃を持って戦え」などと国民を鼓舞し、世界中から「義勇兵」を募っています。
 ジュネーブ条約(および付属議定書)によれば、「戦闘員」には①部隊指揮官の命令による行動を取っていること、②遠方からでも認識できるような標章を付けていること(軍服など)、③公然と武器を携行していること、④その行動が国際法規を順守していること、などが求められます。戦闘員が民間人と明確に区別できる状況をできる限り作り、捕虜としての扱いや戦時国際法の適用を促すこともまた、責任ある政府の義務です。

 国際社会として、いま直ちになすべきことは「一刻も早く戦闘を停めさせ、これ以上の犠牲を出さないこと」に尽きます。情報や武器を提供し、相手を非難して憎悪を煽り、厳しい経済制裁を科しても、それで戦闘行為が終わるわけではなく、犠牲は日々増えるばかりですし、窮地に陥ったプーチン大統領が大量破壊兵器の使用を決断すれば、本当に第三次世界大戦となりかねません。
 国連総会の場は、まさしくこのために使われるべきであり、「安保理が無力だ」ということと「国連が無力だ」ということは異なるはずです。
 ウクライナの、文字通り存立を賭けた祖国防衛の戦いに心を寄せることは大切ですが、国際社会はまず犠牲者をこれ以上出さないために何ができるかを真剣に考え、努力すべきです。ロシアの行為は厳しく非難されるべきですが、まずは停戦を実現させることが先決です。日本もそのために何ができるのか、渾身の努力をしなければなりません。

 安全保障戦略の見直しに向けた自民党内の議論が進んでいます。敵地攻撃能力の保持や非核三原則の見直しの議論と共に、防衛費の対GDP比を2%と明記することの是非が今後の大きな論点となります。
 防衛庁長官や防衛大臣当時から訴えていることですが、自衛隊は今後さらに統合運用を目指すべきですし、それに合わせて防衛力整備も統合でなされるのが当然です。部分最適の総和は決して全体最適にはならず、陸・海・空の要求を足したものが防衛費の総額となるべきではありません。ドイツのシュルツ政権が防衛費の対GDP比を2%に引き上げたことは立派な判断ですが、これを可能とする財政の健全性が保たれていることもまた忘れてはなりません。想定されるオペレーション(運用)に相応しい防衛費の総額が結果として2%を超えることになったなら、それを納税者にきちんと説明する誠実さを政治は持つべきですし、その努力なくしてあたかも2%越えを自己目的化するようなことがあってはならないと考えています。

 今週新しく読んだ本の中では「日本の国益」(小原雅博著・講談社現代新書・2018年)、外交官・防衛官僚・自衛官トップクラスOBによる座談会「核兵器について、本音で話そう」(新潮新書・最新刊)からいくつかの示唆を受けました。
 OBになったので本音が話せるようになった、あるいは現役の時には所掌が違うので話せなかったことが話せるようになった、ということはままあります。しかし責任ある立場の多くの人が、その任にありながらも言うべきことを言う、という雰囲気を作るのもまた政治の責任ですし、自分自身の責任も痛感しています。

 昨7日、漫画家の藤子不二雄A(安孫子素雄)氏の逝去が報ぜられました。週刊少年サンデーに連載された「オバケのQ太郎」(1964年~)は大好きで、赤塚不二夫氏の「おそ松くん」「もーれつア太郎」、横山光輝氏の「伊賀の影丸」「仮面の忍者赤影」、小沢さとる氏の「サブマリン707」「青の6号」などと共に、小学生時代に夢中で読んだものでした。あまりヒットはしませんでしたが、「21エモン」(1968年~)も、夢があってとても好きでした。同世代の方で共感してくださる方もおられることかと思います。御霊の安らかならんことをお祈り致します。

 週末は9日土曜日に春名哲夫兵庫県議会議員の「兵庫・西播磨地域創生県政報告会」で時局講演を致します(午後1時半・山崎文化会館・兵庫県宍粟市山崎町)。
 今月は久しぶりに講演が多く入っており、医療・福祉などをテーマとするものもあり、日頃の勉強不足を少しでも補うべく、10日日曜日はその準備に充てたいと思っています。

 安全保障や憲法の話は難しくて一般の人にはわからない、などという国会議員の方がたまにおられるようですが、それは世論を喚起すべき立場として自己否定にも等しく、主権者である国民を愚弄した発言だととられかねません。平素、「日本人は素晴らしい、ニッポンはすごい」などと口にしている方々の中にそういった傾向が強く見られるのはどういうわけなのか、私にはよくわかりません。
 今回のロシアのウクライナ侵略で、日本国民も安全保障に大きな関心を持つと共に、言いようのない不安を抱くに至っていますが、この機に便乗するような感情論を振り撒いたり、本質論を避けたいい加減な説明をしたりすることがあってはなりません。

 今週の都心は桜が満開となり、まさしく桜花爛漫の趣でした。今年もお花見を楽しむことは出来ませんでしたが、この季節、多少なりとも気分を味わいたくて桜を主題とする小説を読んだり、音楽を聴いたりすることが習わしとなっています。
 渡辺淳一の「桜の樹の下で」(新潮文庫)は華やかで哀しい佳作ですし、坂口安吾の代表作の一つ「桜の森の満開の下」(講談社文芸文庫)は曰く言い難い不気味さに満ちた短編です。
 キャンディーズの「春一番」、柏原芳恵の「春なのに」、松任谷由実の「春よ、来い」などとは違ってあまりメジャーな曲ではないのですが、荒井(松任谷)由実の「花紀行」(1975〔昭和50〕年・「コバルトアワー」収録)、「花びらの舞う坂道」(1985〔昭和60年〕・麗美の「PANSY」収録)の2曲はとても好きでした。今これらを聴いていると、時空を超えて一気に半世紀前(!)に戻るようで、とても不思議な気分が致します。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2022年4月 1日 (金)

国際連合と联合国など

 石破 茂 です。 
 昨31日の自民党の外交部会・外交調査会合同会議は国連改革がテーマとなりました。
 United Nationsを「国際連合」と訳したことが日本人の国連幻想の原点であり、相当にユニーク(特異)な外交感覚を作ってしまった一因だと思います。
 国連憲章は日本がまだ戦っていた1945年6月26日に調印されたものであり(沖縄戦の終結は同年6月23日)、大戦中に連合国の敵国が起こした「侵略行為」に対しては、国連加盟国は安保理の決議がなくても軍事制裁を科すことが出来る、という敵国条項が入っているのはむしろ当然でした。「敵国」とは、日本政府の見解では日本・ドイツ・イタリア・ブルガリア・ハンガリー・ルーマニア・フィンランドの枢軸国を指すのだそうですが、その後これらの国々が加盟した段階で、国連憲章第2条第1項の「加盟国主権平等の原則」に明確に違背するこの条文を残すこと自体、極めて不当です。既に死文化しているからもはや意味はない、とする見方もありますが、死文化しているのなら何故いまだに憲章の改正が行われないのか。そこにはそれなりの理由が存在しているはずで、今なおロシアは北方領土を占拠している根拠にこの条文を持ち出しますし、台湾有事の際に日本が自衛権の行使として武力を用いた場合に中国がこの条項を使ってくることも予め想定に入れておくべきでしょう。「日本有事は台湾有事」と唱える際には、この点にも留意が必要です。
 ともあれ、国連の本質は今もなお創設時の「第二次世界大戦戦勝国連合機構」のままであり、日本外交の基本方針である国連中心主義とは即ち「第二次世界大戦戦勝国連合機構中心主義」ということになりますが、これは随分と奇妙なことではないでしょうか。中国はUnited Nationsをそのまま「联合国」と訳していますが(中国語は英語、フランス語、ロシア語、スペイン語とともに国連憲章が定める国連の公用語)、この彼我の認識の差は決定的に重要です。国連改革を論じる際には、国連の本質をよく見極めたうえで、これをどのように利用するかという知恵(狡知)を持たねばなりません。

 

 永田町界隈はウクライナ支援・ロシア非難一色で、あたかも「暴露膺懲(ぼうろようちょう)」的な様相を呈しつつありますが、プーチン大統領もロシアも突然変わったわけではありません。北方領土を巡ってロシアに対する経済協力がさかんに語られていた数年前から、こういった危険性を予測すべきであったと、自省することしきりです。
 今のところ軍事的選択肢がない以上、経済制裁を進めるより他はありませんが、その効果については、過去の経済制裁の検証を踏まえる必要があります。「ABCD包囲陣」と呼ばれた米英中蘭の日本に対する経済制裁は、結果として当時の日本に太平洋戦争開戦を決断させました。中国、リビア、イラン、北朝鮮に対する制裁も、軍事活動の停止には至りませんでした。
 今やらねばならないことは、無辜の民が日々命を落としていく戦争を早期に終結させることと、この戦争が核ミサイルが飛び交う第三次世界大戦に移行してしまうことを何としても阻止することに決まっていますが、早期終結への行程は相当に難しいものになりそうです。ウクライナの安全を保障せよ、とのゼレンスキー大統領の主張に、ブダペスト覚書が破綻したことへの教訓を踏まえつつ、実効性を与えるための真摯な努力が今一番求められていると考えています。
 プーチン大統領に対して「殺人者」「戦争犯罪人」「権力の座に留まるべきではない」等との言葉を浴びせかけるバイデン米国大統領の一連の発言は、真意はともあれ、憎悪をかき立てることにしかならないように思われます。

 

 ロシアとは何か、今更ながら勉強しているのですが、「北方の原形 ロシアについて」(司馬遼太郎著・文春文庫・1989年)はとても参考になりました。同じく相当に古い本ですが、「日本人はなぜソ連が嫌いか」(清水速雄著・山手書房・1979年)は、「ソ連」を「ロシア」に置き換えてもそのまま通用する好著で、ネット通販にはまだ少し在庫があるようです。昭和54年、大学を卒業して就職する前に一度読んだだけの本ですが、今読み返してみるととても示唆に富んでいることに驚かされます。
 苦学して学問を修めて内務官僚になった亡父は、貧困を憎み、社会主義に強い思いを抱いていたようですが、鳥取県知事在任中にソ連を二度訪問して、人間が営む社会主義国家に強い失望を感じたそうです。昭和30年代から40年代にかけて、鳥取県の青年の海外視察先には必ずソ連を選び、「君たちは保守を批判し、ソビエトの社会主義を礼賛しているが、人間が作る社会主義国家がどんなものなのか、その実態をよく見てくるように」と言っていたと聞いています。

 

 週末は4月2日土曜日が自民党鳥取県連東部地区支部長・幹事長会議(午前10時・鳥取市内)、参議院議員青木一彦氏鳥取後援会設立役員会(午前11時・同)、自民党鳥取県連中部地区支部長・幹事長・各種団体長拡大会議(午後1時半・倉吉市内)。
 4月3日日曜日は自民党河原支部国政報告会(午前11時半・鳥取市河原町)、どんどろけの会・春の懇親会(午後1時半・鳥取市内)、という日程です。
 来週6日水曜日には「岩瀬恵子のスマートニュース」に出演予定(午前7時17分・ラジオ日本)、7日木曜日には「日経ニュースプラス9」に「脱ロシアで変わるニッポン 防衛・安保はどう変わる」というテーマで出演予定です(午後8時54分・BSテレ東)。

 

 現在発売中の「サンデー毎日」に、京都大学・鎌田浩毅名誉教授との対談「南海トラフ・富士山噴火・首都直下 迫りくる3大天災に政治はどう向き合うか」、「FLASH」に太田光氏との対談「ロシア・ウクライナ問題」が掲載されています。
 鎌田名誉教授は京都大学で講義人気ナンバーワンの先生です。太田さんとはかつて日本テレビの番組「私が総理大臣になったら…秘書田中」で随分とやり合ったものでした。違う世界の逸材との対談からは、いつも新鮮な刺激を受けています。

 

 東京の桜は、今週満開となりました。永田町の近隣では、国会周辺、英国大使館付近、千鳥ヶ淵、靖国神社などが特に綺麗です。心底からお花見を楽しむことが出来た過ぎし遠い日々のことを懐かしく、少し切なく思い出します。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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