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2023年1月27日 (金)

労働運動の本旨など

 石破 茂 です。
 護衛艦「いなづま」の座礁事故から二週間余りが経過しましたが、事故原因について「人為的な事故の可能性が高い」旨を海上幕僚長が会見で述べた後は、何らの発表もありません。これは海上保安庁巡視船「えちご」についても同様です。
 2008年にイージス艦「あたご」と漁船との衝突事故が起こった時、以後艦橋にはレコーダー(画像記録装置)を装着するようにしたはずなのですが、この映像は誰がどのように確認したのでしょう。そもそも装着されていなかったとすれば、「あたご」の事故の際の決定は一体何だったのでしょう。この映像を見れば、事故の状況はかなり明確に判明するように思われます。
 「あたご」の事故の際に防衛大臣を務めていた私は、情報の隠蔽だの歪曲だのと野党やマスコミから散々批判されましたが、国家の独立を守るという任務を与えられている艦が、守るべき国民の乗った漁船に衝突するという、あってはならない事故を起こした以上、捜査機関である海上保安庁を所管する国土交通省の冬柴大臣(当時)にお断りしたうえで、捜査に支障のない範囲において、判明した情報はその日のうちに速やかに公表するという方針で臨みました。軍艦(護衛艦)は国家を体現する艦であり、国民の期待と信頼を一身に集めるべき艦である以上、規律は最も厳正でなくてはならず、僅かなミスもあってはなりません(なお、本事案は刑事裁判では事故発生時の当直士官と、事故直前の当直士官2名に無罪判決、海難審判では事故主因を「あたご」側とする採決が確定しています)。精神論や根性論に堕すことなく、そのための施策に万全を期すのが政治の役割だと私は信じています。

 

 政府は「少子化こそ我が国最大の課題」とし、「子ども予算を倍増する異次元の政策」を打ち出すことを表明しました。方向性は正しいのですが、この問題においては抽象的な「国」というものに意味は少なく、婚姻率や初婚年齢、合計特殊出生数が47都道府県、1718市町村によって大きな開きがあることにもっと着目すべきだと考えています。どの地域にも同じ国策が適用されているのに、このような開きが生じる原因をよく精査した上で、最も効果の高い政策を打ち出さなければ、議論がまた財源論に終始してしまうことになりかねません。
 フランスのように婚外子が社会に定着していない以上、結婚しなければ子どもが生まれない日本の現実において、1970年に男性1.70%、女性3.33%であった生涯未婚率が、2020年には男性28.3%、女性17.8%とそれぞれ16.6倍、5.34倍になったことにも、男性の未婚率の増加が女性のそれより3倍も高いことにも、改めて驚愕させられます。1985年からのこのように急激で大きな変化には必ず社会的な要因があるのであって、結婚したくてもできない低所得層の増加がその最大の要因であることは間違いないでしょう。この方々の雇用を安定させ、所得を増大させることこそが喫緊の課題であり、政策はこれに集中させるべきものと考えます。

 

 最近の若い方々に「以前はストライキで交通機関が止まっていた」という話をすると一様に驚かれますが、実際昭和40年代から50年代にかけて、交通機関に限らず賃金の引き上げを求めてストライキはしばしば行われていました。
 労使協調路線でストが無くなったこと自体は歓迎すべきなのでしょうが、労働組合が労働者の待遇改善を求めて闘わなくなったという面もあるのではないかと思います。政治目的で行うストは迷惑千万ですが、待遇改善を求めて経営者と闘う際には、世論はストライキを通じて、いずれの主張に理があるのかを判断していたようにも思います。労働者のためにも非正規の被雇用者のためにも闘わず、賃金の引き上げ分は減税によって賄うなどという主張があるとすれば、それは労働運動の本旨からは外れているのではないでしょうか。保守的な環境に育ったものの、高校生の頃、石川達三の社会派の作品を愛読していたせいなのか、そのような思いがしてなりません。政治、言論、労働運動などの緊張関係が急速に薄れつつあることに危機感を覚えるのは私だけではないと思います。

 

 今日の日経新聞朝刊によれば、政府は2024年度にもシェルター整備に取り組むとのことです。内容も規模も明らかではありませんが、拒否的抑止力の強化のみならず、大規模災害に対応するためにも、早急に進捗させなければなりません。ここまで来るのに20年近くかかったのかという思いも致しますし、私の主張が受け入れられるまでには相当の時間がかかるのはいつものことですが、遅きに失しないことをひたすら願います。

 

 明日から来週末にかけて、様々な講演やテレビ番組収録などで慌ただしい日々が続きそうです。中には本業とほとんど関係のないものもありますが、政治に無関心な方が興味を持ってくださることに少しでも役立てばよいなと思っております。

 

 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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2023年1月21日 (土)

イシバチャンネル第百三十弾

イシバチャンネル第百三十弾、「防衛関連について」をアップしました。

是非ご覧ください

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2023年1月20日 (金)

異次元の少子化対策など

 石破 茂 です。
 来週月曜日より通常国会が開会されます。質問する側も答弁する側も万全の体制で臨み、有権者に日本国の問題点を提示し、解決に向けての方向性を明らかにしなくてはなりません。我々のように当選期数を重ねた者にはなかなか質問の機会が回ってこないのですが、常に自分が質問し、答弁する立場に立ったつもりで本会議や委員会質疑に臨みたいと思います。

 先日の護衛艦の事故に続き、一昨日は新潟県柏崎沖で海上保安庁巡視船が座礁事故を起こすという、にわかには信じられないことが起こっています。我が国はどこか根幹でおかしくなりつつあるように思われてなりません。一般の事故とは異なり、国家の独立と平和、国民の生命・財産と公の秩序を守る任にあたる艦や船が事故を起こした重大性を強く認識すべきであるところ、組織にその危機感が薄いように思われるのは私だけなのでしょうか。ただ防衛費や海上保安庁の予算を増やしさえすればよいというものでは勿論ありません。

 昨朝は三か月ぶりに自民党のウクライナ関係合同会議が開催されました。ロシアによるウクライナ侵攻が開始された頃は、参加する議員も多く、白熱した議論が展開されたものですが、一年も経つと議員数も少なく、論議も低調なものとなりました。このようなことに流行り廃りがあってはなりませんし、事態は今の方がより深刻というべきでしょう。NATOは今までウクライナに主に防御的武器を供与してきていますが、ロシアに対してこれ以上のウクライナ侵攻を思いとどまらせるような支援のあり方を考える必要があり、この戦争の出口を見出す努力をしなければならないのではないでしょうか。
 国連安保理の非常任理事国となり、今夏のサミットの議長国も務める我が国は、たとえアメリカの意に全面的に沿わなくても、停戦に向けた積極的な提案をすべきです。ウクライナの独立を保つための方策を議論することこそが重要です。

 少子化対策は「異次元」を謳って臨むのですから、従来の政策の量的な拡大に終わるものであってはなりません。この問題に対して精神論が何の意味も持たないことはすでにわかりきっています。望む人が「結婚して家庭を持ち、子供を産み育てるほうが、経済的に余裕ができる」ような仕組みを構築することが必要です。

 知らなかったのですが、浜松市(秘書官であった中野祐介氏が目指す市長への政治活動の応援に行きました)は、太平洋戦争において最も多い34回という空襲を受けた都市であり、かつ米英艦船による艦砲射撃も受けた数少ない都市の一つだったそうです(他には室蘭市、釜石市、日立市、清水市)。B-29爆撃機は陸軍機であり(米空軍の創設は1947年)、陸軍のマッカーサー元帥と海軍のニミッツ提督との主導権争いもあって、海軍の存在感を示す目的もあったとのこと。各軍の対立は古今東西変わらないもののようです。

 統一地方選も近づき、選挙区の鳥取県のみならず、全国いくつかの地域から応援のご要請を頂いております。自民党は地方組織あってのものであり、国会議員だけのためのものではないのですから、できるだけ、ご要望にお応えしたいと思っております。

 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2023年1月13日 (金)

「いなづま」事故など

 石破 茂 です。
 瀬戸内海周防大島沖において発生した海上自衛隊呉基地を母港とする護衛艦「いなづま」の事故はどうにも不可解です。天候も良好で海面も静穏な状況で、瀬戸内海という、いわば「自分の庭」のような海域で、低練度艦でも老朽艦でもない「いなづま」が何故このような事故を起こしたのか。今後の防衛力強化の議論に支障をきたさないためにも、早急な実態の解明が急がれます。
 因島のドックでの定期検査を終えて呉基地に戻る中途の公試中に発生した事故だということで、造船所との関係はどうなっているのか、「ドックマスター」(船渠長)は乗艦していたのか、誰がいかなる権限を持って操艦していたのか等々、単に自衛隊の管理下にあった場合よりは複雑なようですが、事実の確認そのものはそれほど困難なことではないようにも思います。
 防衛大臣在任中、イージス艦「あたご」が漁船との衝突事故を起こした時は、明らかになった情報は出来る限り速やかに開示するという対応を致しました。不確かな情報をお伝えして後で訂正するなどということもあり、様々なご批判もいただきましたが、国の独立と平和を守る自衛隊として、情報を隠蔽したり、操作したりなどということが絶対にないように、という考えに基づくものでした。
 「ことに臨んでは危険を顧みず、身をもって職務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる」との服務の宣誓をして職務に精励する自衛官に対して、最大限の敬意をもって接することは当然ですが、敬意を持つことと阿ることは全く違います。「あたご」の事故から相当の年月が経過し、あの教訓が風化しつつあるのではないかとの危惧を最近強く抱いておりましたが、それが現実のものとなっていないことを願うばかりです。
 週末から寒さが戻りそうです。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2023年1月 7日 (土)

人日の節句など

 石破 茂 です。  新年あけましておめでとうございます。本年も引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。

 地方創生担当大臣在任中、2年間にわたり秘書官として支えてくれた中野祐介さん(元北海道副知事・前総務省都道府県税課長)が、この度3月26日告示・4月9日投票の浜松市長選挙をめざすこととなりました。4期務めた鈴木康友現市長は今期で勇退され、中野さんは自民党の推薦を受けて今回の選挙に臨みます。

 地方創生担当大臣は平成27年に、当時の安倍総理の強い意向によって新設されたポストで、私が初代大臣を拝命したのですが、初めてのプロジェクトとして試行錯誤の連続の中、事務秘書官には総務省(旧自治省)からは中野さん、内閣府(旧経企庁)からは中澤信吾さん、財務省からは坂口和家男さんという優秀な人材が派遣され、政務秘書官には農水相時代に事務秘書官を務めてくれた得田啓史さんをお願いし、本当に助けてもらいました。  防衛庁長官、防衛大臣、農水大臣在任中も人物・識見共に優れた秘書官に恵まれ、大臣職は本当に秘書官あってのものだと思います。中央官僚にはとかく尊大、冷徹、出世志向などという否定的な評価が付きまといますが、そうではない立派な人たちも多くいるというのが私の実感です。  中野さんはその後、北海道総務部長、副知事を務め、179市町村もある北海道の首長さんたちからの評価は頗る高く、心から嬉しく思ったものでした。明後日9日は浜松市で開かれる自民党浜松市浜松中央支部の新年会で講演する予定ですが、一人でも多くのご支持を頂いて、立派なスタートが切れますよう微力ながら応援したいと思っております。  年末年始にはそれなりに本や論説を読んだのですが、年末の片付け中に見つけた戸蒔仁司・北九州大学准教授の論説「敵基地攻撃論のキメラ-いわゆる『敵基地攻撃』に関する政府解釈の変遷について」(北九州市立大学法政論集第40巻第4号・2013年3月)を再読して、改めて大きな示唆を受けました。昭和31年2月の衆議院内閣委員会における鳩山一郎総理大臣答弁(船田中防衛庁長官代読)から始まる議論を丹念に検証し、その変遷を論じたものですが、読みながらいささかの興奮を覚えるとともに、浅薄な議論に堕しがちな自分を恥じたことでした。故・吉原恒雄先生が広島女子大学教授時代に書かれた「『集団的自衛権行使違憲論』批判-有権解釈の矛盾と変更の必要性」(広島女子大学国際文化学部紀要・1996年)もそうでしたが、世の中にはさほど知られていなくても、時流に左右されない極めて優れた価値を持つ論説があるものだとつくづく思わされます。戸蒔准教授の論説はネットでも見られますので、ご関心がおありの方は是非ともご一読くださいませ。  「新しい資本主義」はどうあるべきかにつき、今更ながらに「資本論」の入門書も読んではいるのですが、そもそも基礎的な知識が無いのでどうにも理解が進みません。学生時代に生意気にも『なんだ、マル経か』などと軽視していたことを深く後悔しています。自分に残された時間がそう長くはないことを思うと、焦燥感ばかりが募ります。  岸田総理大臣が「異次元の少子化対策」を大胆に検討する旨を述べられました。金融緩和以来、流行りとなった「異次元」という言葉にはどうにも違和感を禁じ得ないのですが、少子化・人口減少対策が日本にとって最大かつ喫緊の課題であることは論を俟たず、これからの議論にも積極的に参加したいと思っています。  少子化は婚姻率や初婚年齢、いわゆる「適齢期」の所得、労働時間等、極めて多岐にわたる要因に基づくものであり、その様相は全国47都道府県、1718市町村(北方4島の6村を除く)によって全く異なるのであり、国が方針を定めるだけで事足りるわけではありません。出生率の上位10県のほとんどが九州・沖縄・山陰地方であることも、婚姻率と人口減少率が正の相関にあることも、決して故なしとしませんし、少子化対策に成功している鹿児島県伊仙町や岡山県奈義町、島根県大田市大森町などの取り組みも、謙虚に学ぶべきです。この議論が防衛費増額の時のように「まず規模と金額ありき」「財源は増税か国債か」などというような、結果的に中身の議論を十分に詰めないままのものにならないように努めなくてはなりません。  年末には一部の大臣と政務官の交代がありました。閣内人事のみならず、衆議院議員の純粋ブロック比例候補の選び方や順位付けには再考の余地が多分にあると思います。「有権者は政党の名簿を見て投票しているのだから問題はない」というのは単なる形式論であり、衆議院の解散当日に自民党本部がほぼ一方的に決め、有権者は候補者の人となりを知りえない実態は、民主主義の本旨からは離れているものではないかと考えます。比例名簿登載の順位付けには、派閥の利害なども複雑に絡まっており、事はそう簡単ではありませんが、せめて当該ブロックの都道府県連の了解を取るなど、有権者と議員の意識の乖離を少しでも解消するための真摯な努力をしなければ、政治不信が高まり、いつの日か爆発することにもなりかねないと強く危惧しております。  今ではこの風習もあまり見られなくなってしまいましたが、今日1月7日は「人日(じんじつ)の節句」、七草粥をいただく日で、子供の頃、とても楽しみだったことを懐かしく思い出します。  三連休の方も、お休みなく働かれる方も、どうかご健勝にてお過ごしくださいませ。本年が皆様にとって良い一年でありますように。

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