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2023年5月26日 (金)

イシバチャンネル第百三十四弾

イシバチャンネル第百三十四弾、「サミットについて」をアップしました。

是非ご覧ください

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北村誠吾先生ご逝去など

 石破 茂 です。
 長崎4区選出、衆議院議員、元国務大臣地方創生担当、元防衛副大臣 北村誠吾先生が去る5月20日逝去されました。享年76。深い悲しみにたえません。私は同代議士をとても敬愛いたしておりました。選挙区に海上自衛隊の佐世保総監部が所在していることもあり、何度か選挙のお手伝いにも伺い、誠意と熱意溢れる演説に感銘を受けたものです。地方創生担当大臣在任中、47都道府県すべてを廻られたのも、地方に対する限りない愛情を持たれた北村代議士ならではのお仕事であったと思います。在りし日のお姿を偲びますとともに、常に弱い人々の立場に立ち、飾ることなく、媚びることなく、真実一路を貫かれたカトリック信者らしいご生涯に心よりの敬意を表し、御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。

 

 広島サミットが無事に終了しました。各国首脳が平和記念資料館を訪問し、ある程度時間をかけて展示を見たことには大きな意義があったものと思います。あの悲惨極まりない展示を見て心が震えない人はいないはずです。
 「核兵器なき世界」と「核戦争なき世界」は全く異なる、似て非なる概念であり、この二つは(前提条件を現状に固定するならば)論理的には整合が困難なものと思います。「核兵器なき世界」は理想だが、当面目指すべきは「核戦争のない世界」であり、そのために核抑止を機能させる、ということなのですが、「核兵器なき世界」をつくるための手段(核兵器に代わる抑止力)が難問です。核兵器はあまりに強力な破壊力を持ち、甚大な災禍を後世に至るまでもたらすものであるが故に、「使ってはならない兵器」「使えない兵器」となり、抑止力たりえているわけです。
 単純に「核兵器のない世界」を現出させることも困難ですが、それを平和な世界たらしめるのはさらに至難です。「核の廃絶を!」という呼びかけは唯一の被爆国としての義務でもあり、今後ずっと続けていくべきものですが、それと同時に具体的にそこに至る道も研究しなければなりません。当面の方向性としては、核によらない抑止力、すなわちミサイル防衛システムの技術向上や核シェルターの整備をはじめとする国民保護体制の構築などを強化することによって「核を使っても所期の成果は得られない」という拒否的抑止力を高めていくことでしょう。「それも更なる軍拡に繋がる」との批判もありますが、だからこそ「安全保障のジレンマ」と言われるのでしょうし、わが国として、あるいは国際的にも、一層の思考の深化が必要です。

 

 ところで、「国際社会は一致して…」という文言が散見されますが、こういう場合の「国際社会」とは一体何を指しているのか。国連決議の場合は「国連加盟国」に近いのでしょうが、G7などの場合は「同盟国並びに同志国」、すなわち「アメリカと軍事同盟を結んでいる国々」ということなのでしょう。これを文字通り「世界中の国がみんな」という意味だと考えてしまうと、かえって物事の本質を見誤るように思われ、注意が必要です。

 

 定数増となる東京での衆議院の候補者擁立を巡って、自民党と公明党の対立の尖鋭化が報じられています。自民党東京都連内には「公明党と一緒にやれば岩盤保守層が離れていく。公明党と決別することにより新たな支持層が期待できる」との強硬意見もあるのだそうで、私はその論には与しませんが、それならそれで一つの考え方かもしれません。連立によって政権の安定を図ることはあくまで手段であって、権力の獲得や維持が自己目的なのではありません。安定した政権によって何を目指すのかが今一つ国民に見えにくくなっている現状に、少しでも変化が生まれるのであればむしろ望ましい面もあるのではないでしょうか。
 政治は優れて妥協の営みであり、一致点を求める努力を怠ってはなりません。自民党には時に理念に走り、本当の弱い立場の人々に目が行き届かない面があることは事実であり、公明党がこれを是正してきた連立政権の妙味は大きいと思います。選挙で当選できるだけの得票を自分で開拓せねばならないのは当たり前で、その上で公明党の協力が得られるのは有り難いことであり、自分で努力を十分にしないままに、他党の票を当てにしてはなりません。鳥取県の国政選挙においては衆参ともにその都度政策協議を行い、政策協定を文書にして取り交わしてきましたが、「何のために協力するのか」を明確にすることも重要なことだと思っています。

 

 昨日の衆議院本会議で、本会議における投票の際「与党も野党も茶番」と記したプラカードを掲げたれいわ新選組の櫛淵万里議員を懲罰委員会へ付託する動議が可決されました。議会における秩序を乱し品位を傷つけたとのことで、該当しないわけでもなく、再度にわたる行為なので動議には賛成しましたが、かつて委員会においてこのような行為を行った政党や議員は多くいたように記憶します。同じ行為でも、集団でやれば許されて、個人でやれば許されないというのであれば均衡を失しているようにも思われます。予算委員会での同議員の質問を聞いていて、その主張には全く賛同できないものが多くあり、政治的な立場は全く異に致しますが、「与党にも野党にも緊張感が足りない」とする本会議の弁明の中には、我々が反省せねばならない点も含まれていたように思います。

 

 24日の読売新聞朝刊には、陸上自衛隊のヘリコプター事故について、ボイスレコーダー解析の結果、エンジンの出力低下が原因との見方を掲載しました。機微な情報がメディアに漏れること自体、極めて深刻かつ重大な問題です。情報の機微性と、ご遺族や整備担当者の気持ちに思いを致さずに話してしまう「関係者」の神経が私には理解出来ません。一方でこの件に関する防衛省からの正式な発表はまだなく、説明の際には報道の背景についても調査してほしいと思います。

 

 来週は5月も最終週となります。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2023年5月19日 (金)

LGBT理解増進法案など

 石破 茂 です。
 いわゆる「LGBT理解増進法案」が16日の自民党政調審議会と総務会で了承され、党議決定となった件につき、多くのご意見が寄せられております。
 私は総務会において、①「本法案により、女性の人権が決して侵害されないとする法的な担保が必要。公衆浴場の女性用浴場に、外形は男性だが心は女性であるとする『トランスジェンダー女性』が入ることを拒んでも、浴場運営者が当該トランスジェンダー女性から訴訟を提起されるリスクを負わないことを明確にすべきである」②「本法案の党議決定はG7広島サミット開催とは何の関係もないことを、主権独立国家として当然の在り方として明確にすべきである」との二点を申し上げました。
 これに対する提案者からの回答は①「公衆浴場法第3条は『(公衆浴場の)営業者は、公衆浴場において、換気、採光、照明、保温及び清潔その他入浴者の衛生及び風紀に必要な措置を講じなければならない』と定め、トランスジェンダー女性の女性用浴場に入る行為を制止することはこの条文の『風紀に必要な措置』に該当するので、訴訟リスクは発生しない」②「本法案の党議決定並びにこれに続く国会提出は広島サミットとは何ら関係がない」というものでした。
 公衆浴場法第3条にいう営業者の風紀に必要な措置を講じる義務とは、主として男女の混浴を禁止するためのものとの趣旨であり(昭和23年8月厚生事務次官通知)、施設設備面の整備が主眼と思われ、これがストレートに適用されてトランスジェンダー女性の女性用浴場への立ち入りを制止する法的な根拠となり得るのか。建造物侵入罪との関係も整理が必要でしょう。自分は女性であると心から認識している場合と「なりすまし」の場合では、構成要件該当性は同じでも、違法性の意識の点では決定的に異なるようにも思われます。法案審議の過程でこれらを明らかにしていかなければなりません。
 この法案を審議する総務会が甲論乙駁の大荒れとなることを予想して身構えていた執行部は、強硬に反対する議員のオブザーバー出席も、発言もほとんど無かったことに、いささか拍子抜けの体でした。総務会長が認めれば所属議員はオブザーバーとして参加し発言も許される、というのが自民党総務会運営のルールであり、平成4年の政治改革法案審議の際、我々当選1、2回の政治改革法案に賛成の立場の若手議員は大挙して総務会に出席して発言しました。当時の総務会のメンバーはほとんどが大臣経験者のベテラン揃い、総務会長は佐藤孝行先生、幹事長は梶山静六先生という、我々若手議員からすれば足が震えるような威圧感の中で、それでも必死に発言したものでした。
 今は平場の部会で発言するだけ発言して、反対している人々に己の存在を示せば後は執行部の意向に従うという考えなのか、「雉も鳴かずば撃たれまい」ということなのか、いずれにせよ随分と様変わりしたものです。自民党から自由な議論の気概が失われつつあるようで、強い危惧を抱きます。

 

 16日の自民党安全保障調査会・国防部会で、1月に発生した護衛艦「いなづま」の事故についての報告が防衛装備庁と海上幕僚監部からなされましたが、にわかには信じられないようなヒューマンエラーの数々により事故が発生したこと、補修部品の調達に時間を要するため修理に4年はかかるとの報告に、出席議員の多くが愕然とし、このようなヒューマンエラーが連鎖的に起こるのは「いなづま」だけの問題ではなく、海上自衛隊全体に構造的な原因があるのではないか、部品の調達に長大な時間を要するようなことで果たして継戦能力は維持されるのか等々、様々な意見や懸念が出されましたが、これを報道したメディアはありませんでした。
 「いなづま」が座礁して動けないままになっている映像は何度も放映されましたが、このような本質的な問題が報道されないのは「絵にならないので視聴率が取れない」からなのか、そもそも問題意識が欠如しているからなのか。これは軍事専門誌も同様で、これは報道すれば自衛隊との関係が悪くなって情報がもらえなくなることを恐れてのことなのか。
 いざ有事となり、様々な問題点が露呈して初めて、国民はこの恐ろしさに気付くのでしょうが、その時にはもう既に多くの犠牲が生じて国家が危機に瀕していることでしょう。改善は焦眉の急です。
 ドックでの定期点検終了後、直ちにテスト航海に出航する予定となっていたため、年末のドック入りの前に「事前研究会」という出航前の打ち合わせが義務付けられていたのですが、乗組員の年末年始の休暇取得を優先してこれを行わなかったとのことです。士気や体力の維持のために十分な休養を取ることは必要ですが、休暇の取得が本来の業務、ましてや安全確認作業に優先するなどということなど決してあって良いはずがありません。艦艇乗組員の勤務環境の実態を早急に調査し、必要に応じて見直さねばなりません。自衛官も国家の行政組織の一員たる(特別職)国家公務員であるから処遇も規律も公務員に準ずるという体制は是か非か、という根本問題から政治が目を背けてきたことのツケは、いつか必ず国民に返ってくるのです。
 そして、都合の良い情報を優先し、そうでない情報を等閑視すれば、国も組織も滅びます。昭和16年12月の日米開戦前夜、この戦争は絶対にしてはならない旨の至急電を30通も打電したにもかかわらず政府にこれを黙殺された駐スウェーデン日本国武官・小野寺信の映像(「日米開戦不可ナリ 小野寺大佐発至急電」NHK特集・1985年)を見返して、改めて強くそう思いました。

 

 広島サミットが開催され、岸田総理とバイデン大統領の会談も行われました。核についてNPT体制を強化するのであれば、ウクライナがNPT体制の維持のために核兵器を放棄する際に合意された「ブダペスト覚書」が何故履行されなかったのかも検証されなければならないのは論理として必然でしょう。なぜなら、ブダペスト覚書の不履行が結果として核拡散を助長することになっているからです。
 次にわが国が考えなければならない問題は、北東アジア地域における軍事力のリバランスのためのミサイル配備についてです。米軍の日本配備か、日本独自のミサイル配備か、あるいは両方か。韓国の核保有の可能性も視野に入れた議論が必要です。

 

 広島の平和記念資料館を視て、核保有国首脳、とりわけ原爆投下の当事国であるアメリカのバイデン大統領はどのような感慨を抱くのでしょう。原爆投下には直接関与しなかったものの、東京をはじめとする日本の主要都市に対する無差別爆撃を立案・実行して多くの無辜の民を虐殺したカーチス・ルメイ爆撃集団司令官は、その後1964年に日本政府から、航空自衛隊の創設に多大の功績があったとの理由で勲一等旭日大綬章を授与されていますが、昭和天皇はこの時、親授をなさらなかったとのことです。昭和天皇の大御心は知る由もありませんが、それを推測するとき、恐懼にたえません。

 

 私が会長を務める自民党水産総合調査会が今般、スマート水産業の推進についての報告書を取りまとめ、一昨日総理や財務大臣に申し入れました。約40年前、昭和の終わりごろの水産業ピーク時と比較して、漁獲量が3分の1、生産額が2分の1、就業者が4割の13万人となった現状は、産業としての持続可能性すら危ぶまれる事態です。「格好よく」「稼げて」「革新的な」水産業(新3Kと称しています)を確立し、資源管理と漁業者の所得向上を両立させる切り札が、AI・ロボ・ドローン・各種センサーなどを活用するスマート化である、と考えております。

 

 今日は雨模様ですが、今週の都心は夏日の多い一週間でした。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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2023年5月12日 (金)

「いなづま」事故など

 さる1月10日に発生した護衛艦「いなづま」の瀬戸内海伊予灘における浅瀬乗り上げ事故に関する報告書が海上幕僚監部より9日に公表されましたが、その概要を読む限り、海上自衛隊内、特に艦艇部門において一体何が起こっているのか、強い危惧を抱かざるを得ません。
 艦長(2等海佐41歳)が狭くて混雑する(輻輳している)海域において最大速力を出すよう指示した/出航に際して安全確認を怠った/運航を担当する幹部は海図も十分に確認していなかった/安全面を検討しないままに進路を変更した/レーダーを見ている戦闘指揮所から危険を知らせる情報が艦橋伝令(1等海士19歳)によって伝えられたがこれを復唱せず伝令も確認しなかった/…このような基本的なことが全く行われていないなど本当にあり得るのか、信じられない思いです。
 防衛費増額も当然行われなければなりませんが、いくら防衛費を増額し、新兵器を導入してみても、現場がこの状況で本当に戦(いくさ)になるのか。カネさえ積めば防衛力が強化されるものでは決してありません。
 この艦の修理には数年を要するとのことですが、実際に有事となれば艦の損傷は当然にあり得ることであって、多くの艦が損傷し修理に数年を要していて、継戦能力はどれほど維持されるのか。
 メディアも、事故後数日はこの事故を大きく扱っていましたが、恐るべき原因が明らかになったことを報道するメディアは事故自体の報道の数分の一、中には全く報道しないメディアさえありました。

 その国における最高の実力組織である軍隊には最高の規律が要求され、ゆえに最高の栄誉が与えられます。しかし「軍隊」ではない自衛隊、あくまで公務員である自衛官には、このような国際常識は適用されていません。以前、最高裁判所を終審とする「自衛隊審判所」を設けなければ規律も維持されず、自衛官の人権も護ることは出来ないのではないか、と主張した時には、「軍法会議の復活を目論んでいる」と散々非難されましたが、このような現実から目を背ける短絡的な思考こそが一番恐ろしいと今も思っています。
 かつて福田内閣で防衛大臣を拝命していた時に発生したイージス艦「あたご」の事故の時、昼夜を分かたぬ侃々諤々の大議論の末に改善案を取り纏めましたが、それが完全に風化してしまった現実をまざまざと見せつけられて、言いようのない無力感を覚えています。
 以前も本欄に描きましたが、森内閣で防衛庁総括政務次官(今の副大臣)を拝命した時、尊敬する吉原恒雄・拓大教授(故人)を次官室にお招きしてお話を聞いたことがありました。そのとき吉原先生が「あなたは自衛隊を好きですか?」とお訊ねになり、私が「もちろん好きです」と答えたところ、先生は少し悲しそうな顔をされて、「総括政務次官をやめるとき、あなたはきっと自衛隊を嫌いになっているでしょう。良かれと思って指摘をすればするほど疎まれるようになる。残念ながらここはそういう組織なのです」と仰ったことを強烈に覚えています。これは自衛隊に限らず、日本の組織の多くに通底するものなのかもしれませんが、この国の明るい未来のためには、こういった同一性の強い組織の過剰な自己防衛、異論の排除といった体質は、どんなに抵抗があったとしても改めなければならないと思います。独善に陥ることなく、これを貫くことの難しさを改めて痛感させられます。

 前回の本欄で、陸上自衛隊第八師団長他の幹部を乗せたヘリコプターの墜落事故について記した際、「何故熊本から奄美経由で宮古島まで移動するのに、高遊原分屯基地にある固定翼連絡偵察機を使わなかったのか」との疑問を提起しましたが、師団長と幕僚長は時間と負担軽減のために民航機で移動していたのだそうです。訂正してお詫び致します。

 広島サミットを間近に控えて、関心はバイデン米国大統領参加と、サミット後の解散・総選挙の有無に移りつつあるようですが、一体総選挙で何を問うのか、今のところ判然とはしません。故・安倍総理は「危機突破解散」と銘打って解散を断行し、勝利を得て政権基盤を強化しましたが、あの顰に倣うとすれば、どのような論点で国民に信を問うのが国家国民のためになるのか、よく考えるべきだと思います。
 「核兵器のない世界」は理想ですが、当面目指すべきは「核戦争のない世界」であり、両者は似て非なるものです。核兵器を放棄したウクライナに対し、米・露・英・仏・中の核保有国がその安全を保障するとしたブダペスト合意が全く履行されず、ウクライナの国土が蹂躙されることとなったのは何故なのか、この検証も責任の追及も曖昧なままです。INF条約なき後の北東アジア地域における核戦力のバランスも議論の核心でしょう。画期的な広島サミットにおいて、このような核心的議論が話し合われることを期待しております。
 
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2023年5月 2日 (火)

イシバチャンネル第百三十三弾

イシバチャンネル第百三十三弾、「統一地方選を振り返って」をアップしました。

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