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2023年6月30日 (金)

ハイブリッドHC85系車両など

 石破 茂 です。
 2022年度の国の一般会計の税収は2021年度より約4兆円増えて71兆円強となり、3年連続で過去最高を更新することが明らかになりました。
 基幹三税と言われる所得税、消費税、法人税のうち、所得税は企業の賃金引き上げで名目賃金が上がったことに加えて株主への配当増加などで前年同期の21兆円から22兆円台に、消費税は40年ぶりの物価上昇と個人消費の増加で前年同期の14.8兆円から15.9兆円に、法人税はコロナ後の経済回復と円安によって好業績を上げている大企業を中心に前年同期の7.2兆円から8.9兆円に、それぞれ増収となっているのだそうです。

 空前の税収だからと手放しで礼賛していればいいはずはなく、きちんと検証が必要なことは多々あります。たとえば、賃金の上昇の恩恵に浴しなかった労働者はどれだけいるのか。莫大なコロナ給付金の税収への影響はどれほどなのか。名目賃金が上がって税収が増えても実質賃金が下がったためにかえって生活は苦しくなったのではないか。円安によって企業の売り上げが上がったように見えるが、これをドルベースで計算するとマイナスになってはいないか、等々。
 税収が絶好調であることは、そのまま経済が好調であることや国民の暮らしがよくなっていることを意味するものではないでしょう。中小零細企業や低所得者の犠牲の上に大企業や富裕層が栄えるというようなことになってしまえば、そんな国のあり方はどう考えても真っ当なものとは思われません。
 富裕層をどれほど優遇しても、一定以上の額になればそれは貯蓄や投資に回るため、理論的にもトリクルダウンは起こりにくいとされています。「日本を世界でいちばん企業が活動しやすい国にする」との目標を達成しようとするあまり、「世界でいちばん労働者が報われない国」になってしまっては本末転倒というものです。組合に代表されることのない、中小零細企業の労働者や、非正規労働者の生活や権利を守り、より賃金の高い仕事に移行できるようにするため、政治の役割が求められます。そもそも「正規雇用」「非正規雇用」の別があるべきなのかも問い直すべきです。

 ケインズも、経済学に疎い私などには理解が困難なのですが、財政出動と低金利政策が基本であったように思います。「大きな穴を掘って、またこれを埋めても立派な公共事業である」というのは有名ですが、そんな政府支出をいつまでも続けることは本来の資本主義には反するものでしょう。国会でも以前、公共事業の乗数効果をどのように見積もるのかとの議論がありましたが、この議論ももう一度突き詰めて考えてみる必要があります。
 ケインズは低金利政策を提唱すると同時に、「ジョン・ブル(英国人)は大概のことは我慢できるが、2%の利子率には我慢できない」とも述べています。これを「流動性の罠」と呼ぶのだそうですが、超低金利が長く続くと健全な投資資金を阻害するということも考えなければなりません。
 このように、岸田内閣の提起する「新しい資本主義」には多くの論点が含まれており、私もできる限りの学びをして参りたいと思っております。

 さる19日月曜日に、日本車輛製造㈱豊川製作所を訪問し、JR東海が昨年夏より名古屋・富山間で「特急ひだ」として運行を開始したハイブリッドのHC85系車両を見てまいりました。架線から電気を集電することなく、ディーゼルエンジンで発電し、蓄電池の電力で走行する車両で、最高速度は120㎞、燃費は35%向上、Co2排出量30%減、NOx排出量40%減という優れもので、深い感銘を受けたことでした。多大なご配慮を頂いた日本車輛製造とJR東海、国土交通省鉄道局の皆様に厚くお礼申し上げます。
 京都・大阪方面から、非電化区間の鳥取県東部・中部とを結ぶ「スーパーはくと」のHOT7000系車両も、導入後30年が経過し、後継車両の検討が始まっていますが、このHC85系は有力な選択肢となるように思います。フル規格の山陰新幹線の実現は我々の悲願ですが、多額の費用と長大な時間を必要とするものであり、並行在来線の存続の在り方という難問にも解を出さなければなりません。あらゆる角度から徹底的に議論した上で、結論を出すことが必要な時期に来ています。

 今週末から来週にかけて、秋田市と高松市でのスピーチや講演、韓国ソウルでの日韓政治リーダー対話等の日程が入っており、よく準備して臨みたいと思います。
 6月も今日で終わり、1年も半分が過ぎてしまいました。時の経つのが加速度的に早くなっていることに驚きと共に焦りを強く感じています。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2023年6月23日 (金)

青木幹雄先生ご逝去など

 石破 茂 です。 
 解散のないまま、通常国会は閉幕し、永田町にはつかの間の静寂が漂っています。
 不信任案が淡々と否決され、国民に問うべき具体的なテーマもないということであれば、総選挙で国民に審判を仰ぐことに私は賛成しません。
 政権の維持だけを考えれば、先週の金曜日6月16日に解散し、野党(特に維新)の選挙準備が整わないうちに総選挙を断行した方がよかったのではないかとの見方もありました。たしかに維新は政策的にも党の体質も自民党と近似した政党で、この党の候補者が早朝から駅頭で朝立ちし、朝から晩まで1日数百軒のあいさつ回りや数人規模の小集会開催を徹底するという、かつての中選挙区制下での自民党の選挙手法を展開すれば、2012年の政権奪還以来、追い風の選挙しか経験したことのない多くの自民党の候補者は厳しい状況となるのではないでしょうか。
 いかなる選挙制度であれ、選挙の基本はかつて田中角榮先生が仰っておられたように「歩いた家の数しか、握った手の数しか票は出ない」ということに尽きるのであり、どのような逆風下であっても勝てる体制を整えておくことが政党の基本であるべきです。
 また、37年間の議員生活の中で、細川護熙政権、鳩山由紀夫政権という二度の政権交代を経験しましたが、いずれも小沢一郎氏が仕掛けたものであり、その手腕と手法を決して侮ってはなりません。小沢一郎氏の凄さは、田中角榮先生流の選挙を知り尽くしていることに加えて、かつて「総理は軽くてパーがいい」と言い放ったと伝えられるように、総理に据える人物に決して多くを望んでいないことなのだと思っています。「総理は誰でもいい」と割り切れるのは実に恐るべきことです。今後、小沢氏は立憲民主党や維新の会などという政党の枠組みに拘らず、自民党から共産党に至るまで、幅広く政界再編を視野に入れて仕掛けてくることでしょう。これに対抗するためには、自民党は党運営も政策立案もこれ以上ない緊張感をもって臨まねばなりません。政権奪還から10年余、有権者の意識が大きく変化し、日本政治が重大な転換点にあることをひしひしと実感しています。

 24日土曜日は、自民党鳥取県連大会が開催されます(12時45分・倉吉未来中心)。
 2010年5月、下野した深い反省に基づき、自民党は新たに定めた綱領にこのように記しました。
 「勇気を持って自由闊達に真実を語り、協議し、決断する」
 「多様な組織と対話・調整し、国会を公正に運営し、政府を謙虚に機能させる」
 「全ての人に公正な政策や条件づくりに努める」
 今、自民党はこれらを忘れかけているのではないでしょうか。もう一度この原点に立ち返り、鳥取県から自民党が本来あるべき姿を発信する大会となるよう、心掛けてまいります。 

 防衛産業の今後について議論するにあたっては、今までの在り方を総括・検証する作業が必要不可欠です。国産に拘った航空自衛隊のC-2輸送機も、海上自衛隊のP-1哨戒機も、開発者の努力には敬意を払うべきですし、機体の性能についても一定の評価は出来るものの、それが本当にベストの選択であったかどうかは客観的に、感情を交えず検証されなくてはなりません。
 輸送機は出来るだけ遠くまで飛べて、多くの物資が運べるのが理想ですが、C-2は陸上自衛隊の10式戦車が積めず、不整地離着陸能力に難のある高額の機体を敢えて国産で開発・保有し、世界中で活躍するC-17輸送機の導入は見送りました。
 哨戒機は米海軍のP-8を見送り、国産のジェットエンジンを採用した4発機となりました。
 陸上自衛隊のNBC(核・生物・化学)偵察車にしても、ドイツ製のフォックス偵察車を早期に導入しておけば、東日本大震災に伴う福島原発事故の対処は随分と違ったものになったはずです。
 防衛庁長官在任中、単発エンジンの小型機体で拡張性に難があったF-2戦闘機の調達中止を決定した際、ある防衛庁長官経験者から「国産兵器に対する愛情がない!」と批判されたことがありましたが、そういう感情論めいたものが今でもあるように感じます。すべてを国産で賄えるに越したことがないのは当然ですが、安全保障環境が予断を許さないものとなり、時間的にも財政的にも余裕がなくなった現下の情勢では、常にどの装備が最も合理的か、を素早く判断し、できれば月単位で導入ができるような体制を整備することも必要だと考えます。

 元内閣官房長官・元参議院自民党会長の青木幹雄先生が逝去されました。竹下登元総理の流れを正統に受け継ぐ、真に田舎(「地方」ではなく「田舎」という表現を常に使っておられました)を愛する、人心の機微を心得た立派な方でした。あの出雲弁が聞けなくなってしまったことに、強い寂しさを感じております。ご生前に賜った幾多のご厚情に深謝し、御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。

 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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イシバチャンネル第百三十五弾

イシバチャンネル第百三十五弾、「衆議院の解散って何?」をアップしました。

ぜひご覧ください

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2023年6月16日 (金)

不信任案否決など

 石破 茂 です。
 岸田総理大臣が今国会中の解散・総選挙を行わない旨を表明し、永田町には拍子抜けしたような静寂が漂っています。
 報道を見る限り、広島サミットの余勢をかって今国会中に解散・総選挙を断行したかったところ、秘書官であるご子息の一件や公明党との関係、支持率の低下等々があって、思いとどまったようだとのこと。自民党本部が行う選挙区ごとの世論調査はサンプルを多く採り、極めて精密に分析がなされるもので、その結果は間違いなく総理・総裁に報告されているはずです。報道各社の調査を見ると、無党派層が増大しているのが直近の特徴で、現状においてこの層が自民党に投票する比率はかなり低いと思わざるを得ず、これが接戦区においては大きく効いてくると考えられ、加えて公明党からの支援が全面的に得られない選挙区がある程度存在するとすれば、あくまで推測ですが、調査結果はかなり厳しいものだったのではないでしょうか。
 大義、などという大仰なものではなくても、衆議院において不信任案を否決するのに十分な多数を持ちながら国民に審判を仰ぐからには、有権者に問うべきテーマが必要なのは当然であり、防衛費増額および少子化(本質は「少母化」)対策の内容と予算・財源こそがそれであるべきでしょう。「徹底した歳出削減」についても、何をどれだけ削減するのかを明確にしなければ、単なるスローガンや決意との批判を免れません。2019年に話題となった落合陽一氏と古市憲寿氏の尊厳死と財政論を巡る議論もありましたが、医療費の在り方についても冷静かつ真摯な議論が必要だと思っております。
 ということで、解散のないまま、今国会も来週21日には閉幕します。多少物事を落ち着いて考える時間が出来るようであれば、安全保障についてはこの際、核抑止論について自分なりの考え方をまとめておきたいと思います。

 

 前回の当欄で、「国事行為の臨時代行による法律」に「天皇は、精神若しくは身体の疾患又は事故がある時は内閣の助言と承認により、国事に関する行為を摂政となる順位にあたる皇族に委任して臨時に代行させることができる」と定めているところ、外国ご訪問が該当するとは思われず、よって陛下のご不在時には国事行為となる解散も不可能なのではないかとの疑問を述べました。これについて、宮内庁より、「外国ご訪問は当条文の『事故』に含まれる」との説明がありました。一般の語感からは相当な違和感を覚えますが、法制定当時の国会答弁もあり、法律用語とは難しいものだと改めて思います。

 

 陸上自衛隊日野基本射撃場における殺傷事件には言葉もありません。亡くなられた二人の隊員の御霊の安らかならんことと、負傷された隊員の回復を祈ります。
 この事件の解明は厳正かつ早急に行われねばなりませんが、同時に「『軍』における規律の在り方」についても正面から議論が必要です。「自衛隊は軍ではないのだから軍法会議は必要ない」などという情緒的で皮相的な考えは断固として排さねばなりません。
 『軍』はその国における最強の実力集団なのですから、最高の栄誉とともに最高の規律が要求されるのは極めて当然のことであり、それに相応しい法体系と審判組織がなければ、民主主義も、市民社会や国民の安全も、『軍人』(自衛官)の人権も護ることは出来ません。以前この議論を提起した際には「戦前の軍法会議を復活しようとしている」「軍靴の音が響く暗黒社会に逆戻りだ」などと強く批判されましたが、このような思考法こそが本質的な議論を妨げていることに気付いて頂きたいと切に願います。こういった意味で、今回の事案が重大な犯罪であることは論をまちませんが、反社会組織の構成員が街中で銃を乱射するのとは問題の性質が根本的に異なります。

 

 昨日、自民党の清和政策研究会(安倍派)が憲法第9条第2項の削除を提案したのにはいささかの驚きを感じました。自民党の平成24年憲法改正草案に戻ったということであれば大変に喜ばしいと思います。安倍総理が「加憲案」を提示されて以来、第2項削除案はときに「石破案」と呼ばれたり異端扱いされたりしていましたが、この清和会の案が、正面から党の憲法改正本部で議論されるようになることを切に願います。

 

 今朝8時より、私が会長を務めます自民党水産総合調査会の海業(うみぎょう)振興勉強会(小泉進次郎座長)の初会合が開かれました。
 「海業」とは聞き慣れない言葉ですが、漁港を活用した新たな観光振興策のような概念で、1980年代半ばに神奈川県三浦市の市長さんが初めて提唱されたものだそうです。グリーン・ツーリズム法の改正やバカンス法の制定と併せて、検討を重ね、来年には提言の形でまとめたいと思っております。資源管理と漁業・漁村の雇用・所得増大を両立させる切り札となることを期待しています。

 

 明日17日土曜日は、三年振りにコロナ前と同様の規模で、年に一度の大きな国政報告会を開催します(午前10時・JA鳥取中央、午後1時半・とりぎん文化会館)。本日衆議院が解散になっていれば、解散後すぐの大きな集会となったのですが、そううまくはいかないものですね。大勢のお客様のご来場を心よりお待ちしております。

 

 不順な天候が続く折、皆様どうかご自愛くださいませ。

 

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2023年6月 9日 (金)

少子化対策など

 石破 茂 です。
 会期末の衆議院解散の有無を巡って、今週の国会の周辺は浮足立ったような落ち着かない雰囲気が漂っています。
 本来解散は内閣不信任案の可決、信任案の否決、予算案・法律案等政府提出議案の否決等々、衆議院の意思と内閣の意思が異なった場合、主権者である国民の判断を仰ぐために行われるものであり(憲法69条)、政権の延命や「野党の準備が整っていない今なら勝てる」というような党利党略目的で行われるべきものではないと私は考えていますが、現行憲法下での解散のほとんどはいわゆる69条解散で行われているのが実情です。
 英国においては、首相の解散権を制限する議員任期固定法(2011年成立)がジョンソン政権で昨年廃止されましたが、公選ではない上院を第二院として持つ英国と、ほとんど衆議院と同じような選挙制度で議員が選出される参議院を持つ我が国とでは事情が相当に異なります。昨年7月に参議院選挙が行われ、国民の意思が示されてまだ1年も経たず、衆議院議員の任期を2年半も残し、さしたる争点もないままに解散することの意義が私にはよく理解出来ませんが、防衛費の大幅増額や少子化対策の内容と、それに必要な経費はどのように算出され、受益者負担と応能負担をどのようなバランスをとって捻出するかの根拠を明示して国民に信を問うのなら、それは意義のあることです。抽象的な方針だけを示して、後は選挙が終わってから議論する、というようなことがあってはなりません。

 少子化対策は、もっとそれぞれの地域に住む国民が「我がこと」として実感できるようなものにしていくべきです。所得の高い東京の婚姻率は全国一ですが、出生率は全国最低。所得が必ずしも高くはない九州・沖縄・山陰の出生率は常に高く、出生率ベスト10はすべてこの地域です。47都道府県間でも出生率は最高の沖縄が1.80、最低の東京が1.08。これに密接に関連する数値である女性の初婚年齢は最も低い和歌山と山口が28.7歳、最も高い東京が30.5歳。女性の平均帰宅時間は最も早い愛媛が午後4時52分(!)、最も遅い東京が午後6時41分。…等々、いくつかの指標を精緻に見ていくと、その数値が大きく異なることに驚かされると同時に、それらの関連性について多くの気づきが見出されます。これを全国の1937市区町村ごとに見ていくとその差は更に明確となり、同一都道府県内でもその数値は大きく異なります。
 こう考えると、全国一律の施策には、かえって不公平を助長させる面があることは否定できません。重要なのはそれぞれの地域に住む一人一人が少子化を我がこととして考え、講ぜられる施策の効果を実感することです。地方創生交付金の趣旨に類似した、少子化対策に限った使途自由な交付金という発想もありうべきだと思います。
 仮にあらゆる政策を講じて出生率が上昇したとしても、出生数は出産する女性の数が減り続ける限り、増えることは決してありません。少子化の本質は「少母化」であり、これは見通しうる将来、改善されることは見込めません。2022年時点でいわゆる出産適齢期とされる25~39歳の女性の数は約929万人、25年後にこの年齢に達する現在0~14歳の女性の数は25%減の約696万人であり、国立社会保障・人口問題研究所も約100年後の2120年までは出生数は減り続けるとしています。
 数年前にも指摘したことですが、1974(昭和49)年に当時の厚生省や外務省の後援で開催された第1回日本人口会議では、「人口がこのまま増加すれば資源が不足するので、子どもは2人までという国民的合意が必要」とする「少子化政策推進宣言」がなされ、メディアもこれを大いに煽り、その後急激に少子化が進むこととなりました。その政策効果が、悪い意味で半世紀後の今日、はっきりと表れているのです。過去の政策の誤りを認識し、反省しないままに、いかなる方策を講じても効果は乏しいでしょう。第三次ベビーブームが起きなかったことについても、これを「戦後GHQが仕掛けた人口戦に日本が敗北したもの」と捉える向きもあり(河合雅司「日本の少子化 百年の迷走」新潮選書、2015年)、深く頷かされる点が多くあります。
 国民に信を問うならば、「未曽有の国難も全力で対応すれば必ず乗り越えられる」というような精神論を語るのではなく、少子化時代に対応する社会のあり方を示すことが必要であり、そのためには濃密な議論が必要です。

 「自公連立の維持か、自民・維新による新連立か」「自民支持層の57%が自公連立に否定的」「公明党より維新の方が政策的に親和性が高い」などという報道が見受けられるようになりましたが、私自身は懐疑的です。維新の政策に見るべき点が多くあり、立派な議員も多くいることは事実ですが、重視する政策が異なるからこそ連立の妙味があるのですし、高齢化が進んでいるとはいえ、公明党の組織力を侮るべきではありません。「公明党とは憲法観が異なる」「公明党と連立する限り憲法改正は出来ない」などと言う方もおられますが、真正面から真剣に議論もしないままにそのように決めつけるのは、国民に対して不誠実です。自公が政権を失った時も公明党が自民党を見限ることなく共闘を続け、ついに政権を奪還したことを知らない議員が増えたからなのでしょうが、過去を忘れた者はいつか必ずその報いを受けることを肝に銘ずるべきだと思っています。もとより選挙は自分の努力によるべきものであり、その上で公明党や維新の協力が得られるのならばありがたいこと、その基本を忘れてはなりません。

 天皇・皇后両陛下は今月17日から23日までインドネシアをご訪問になりますが、天皇陛下ご不在中に国事行為となる衆議院解散が行われたらどうなるのでしょう。という問いに対して、官房長官は「摂政が代行する行為に制限はなく、解散に問題はない」と述べられましたが、根拠法である「国事行為の臨時代行に関する法律」第2条には「天皇は、精神若しくは身体の疾患又は事故があるときは、摂政を置くべき場合を除き、内閣の助言と承認により、国事に関する行為を…皇族に委任して臨時に代行させることができる」とあり、外国ご訪問はこれには全く該当しないのではないでしょうか。官房長官は「いままでそのような例はない」とも述べられましたが、これは今後もないと言っているわけではありません。天皇陛下の国事行為について、このような議論がなされること自体、畏れ多いことだと思います。

 中央公論7月号の特集「安倍晋三のいない保守」に私へのインタビュー記事が掲載されております。YouTubeの「横田由美子チャンネル」では皇室論と安全保障論を語りました。ご関心のおありの方はご覧くださいませ。

 会期末が近くなったためなのか、国会周辺が大音量のシュプレヒコールや歌声でにわかに騒がしくなってきました。言論や表現の自由が最大限に尊重されねばならないのは当然のことですが、大音量の絶叫だけではそれほどの効果が見込めないのではないでしょうか。高校生の頃に読んだフルブライト米国上院外交委員長の言葉に「憤激の念の強い過激な表現より、静かな表現の方がより効果的であり、それはすなわち保守的なものなのである」というものがあったことを思い出します。

 都心も梅雨入りし、不順な天候が続いています。先般や今次の台風、それに伴う豪雨などで被害に遭われた方に心よりお見舞い申し上げます。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2023年6月 2日 (金)

北朝鮮による衛星打ち上げなど

 石破 茂 です。
 先月31日の北朝鮮の一連の行動については、偵察衛星の打ち上げに失敗したと見るべきであり、当初の「衛星と称する弾道ミサイル」との表現にはいささか違和感を覚えました。北朝鮮の弾道ミサイル技術は既に相当の水準に達しており、「何時でも、どこからでも、何発でも撃てる」状態になっているものと思われます。であれば、今更大々的に予告して弾道ミサイルを発射する必然性は乏しく、在日米軍や米第七艦隊空母打撃群の動向を把握する偵察衛星実用化の初歩的段階に入ったと見るのが妥当と思います。その後、メディアの表現ぶりは「弾道ミサイルの技術を用いた衛星」と修正されたようですが、ミサイルと偵察衛星とは全く異なる脅威なのですから、混同させるような表現は慎むべきです。防衛大臣から破壊命令が発出されたため、弾道ミサイルが落下するように感じた方も多かったようですが、それは実態とは異なるものだったと思います。国民がこのような事態に慣れてしまい、危機感が希薄になることを危惧しています。

 ミサイルとロケットの原理は基本的に同じものですが、ミサイルとは異なり、重量のある衛星を地球の周回軌道に乗せるには第一宇宙速度(時速約28800㎞)に到達させることが必要で、そのためには地球の自転速度(時速約1500㎞)を最大限に利用できる真東に打ち上げるのが常套ですが、今回は何故南方向に打ったのでしょう。よくわからない点が多くあります。
 今から25年以上も前、日本が独自の偵察衛星の打ち上げを計画した際、アメリカから「わざわざ日本が初歩的な三輪車のような技術から始めなくても、自動車ほどの技術のあるアメリカの衛星の情報を使えばよい、日本が偵察衛星を持つ必要はない」と言われたことをよく覚えています。我々はアメリカからの情報にすべてを依存するべきではないと考え、当時の政権の判断と技術者たちの大変な努力によって情報収集衛星を保有するに至りました。それでも今日なお、ミサイル防衛システムに不可欠な静止軌道上の早期警戒衛星は保有しておらず、アメリカ頼みの状況が続いています。法的にも技術的にも問題はないはずで、保有に向けて本格的な検討を開始すべきものと思います。同盟国であるアメリカを信頼することは重要ですが、情報の収集・分析や防衛システムの自己完結性は可能な限り追求すべきものです。

 広島サミットは概ね成功裏に終わりました。他方、広島・長崎への原子爆弾の投下、東京をはじめとする諸都市に対する無差別爆撃・大量殺戮を国際法上どのように考えるかという課題は依然として残されたままです。1907年のハーグ陸戦法規第23条には禁止事項が列挙してありますが、無差別爆撃や大量殺戮がこれに該当するのかどうかについて大きな議論がありました。その後、こういった行為を禁止する条約ができましたが、我が国としての研究の必要があるものと思います。

 自民党と公明党の協力関係の変化について、連立政権とは、単に権力の獲得・維持が目的ではありません。政策や政治姿勢、支持層が異なるからこそ違う政党なのであり、その一致点がどこにあり、何を目指して連立するのかを常に明確にせねばならず、そうでなければ単なる野合との批判を浴びることになります。
 私の地元において、公明党の主な支持団体である創価学会の会員さんが、政治を評するにあたり、「政教分離は当然の前提だが、自分の信仰の理念や信条を判断の基礎として正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると考えるのだ」と述べておられたことをよく覚えています。政党にとって支持層の意向は重要であり、今回の問題を単なる打算や利害得失のみによるものと捉えると、大きな誤りを犯してしまうのではないでしょうか。与党間のみならず、政党間にあって、互いがリスペクトの念を持つことは重要です。憎悪と分断をあえて煽るような政治があってはなりません。報道にもそのような傾向が散見されますが、皮相的で安直な見方は慎むべきです。

 昨日、超党派の議員による「石橋湛山研究会」が発足し、湛山の経済論評の英訳を進めておられるアメリカ人実業家・リチャード・ダイク氏の記念講演を拝聴しました。同氏は毎朝5時から8時までを湛山の論評を読むことに費やすと言っておられ、全集を揃えながらほとんど読んでいない自分を大いに恥じたことでした。石橋内閣はわずか65日の短命政権でしたが、保坂正康氏は石橋政権を「最短の在任、最大の業績」と評しておられます(「石橋湛山の65日」東洋経済新報社刊・2021年)。日米・日露・日中関係が新たな局面を迎え、政党政治や民主主義が問い直されている今、「保守主義の本質は思想ではなく寛容である」と説き、「小日本主義」を唱えた気骨のリベラリスト、石橋湛山に学ぶべきことは多いと思います。

 総理大臣公邸における「身内の忘年会」について批判がありますが、この上ない激務に追われる総理が公邸で気のおけないご家族と少しでも団らんできる時間をつくること自体はむしろ必要なことです。セキュリティの確保を前提として、総理大臣が心身ともに良好なコンディションで活動できる環境を整えることは国益に資するものと考えます。
 議員宿舎に住まう我々も含め、留意しなければならないのは、納税者の税金で運営されている場所に居住する以上、納税者に疑念や不快な思いを抱かせることがないようにすることです。
 むしろ問題は、このような身内のみのはずの画像が外部に流出した事実にこそあります。誰がどのようにしてこれを週刊誌に流したのかは知る由もありませんが、その経緯は危機管理の意識の観点からよく検証されなくてはなりません。

 101年の歴史を持つ「週刊朝日」が6月9日号をもって休刊(事実上の廃刊?)となりました。私が育った鳥取の家では何故か週刊朝日を定期購読しており、同じく定期購読していた月刊誌「文藝春秋」「諸君!」「正論」などと併読しながら、世の中には様々な見方があると思ったものでした。週刊読売、サンデー毎日、週刊サンケイと、かつて新聞社はすべて週刊誌を発行していたのですが、残るはサンデー毎日だけになってしまいました。数々の思い出のある週刊朝日の休刊を惜しむとともに、活字文化がこれ以上衰退しないことを切に願います。

 都心は台風の接近で、荒れ模様の週末となりました。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2023年6月 1日 (木)

東京都議会議員補欠選挙(大田区)鈴木あきひろ候補応援

 事務局です。

 昨日、東京都議会議員補欠選挙(大田区)に立候補されている鈴木あきひろ候補の応援に、東蒲中学校と池上第二小学校にお伺いいたしました。Img_1628

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