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2024年8月31日 (土)

戦略爆撃報告書など

 石破 茂 です。
 台風10号の進路がとても気がかりです。被害が大きくないことを切に願います。
 これだけ災害が多発していながら、その都度都度に雑魚寝状態の避難所が開設され、復旧に常に補正予算と予備費が投入される状況は、何としても改善されなければなりません。自然災害の発生をすべて防ぐことは困難でも、発災後に起こる被害はすべて人災であるとの覚悟と決意を持って、災害関連死は限りなくゼロにすることを目標とすべきであり、皆が懸命に全力を尽くした、という美談にすり替え、我慢を強いてはならないのです。
 防衛庁長官在任中、有事法制と国民保護法制を手掛けたことで、アメリカの「戦略爆撃報告書」の存在を知りました。その中に、「日本政府には国民を守ろうという意思が全く無かった」と書かれているのを読んだ時の衝撃を今も忘れることはありません。
 昭和20年3月10日の東京大空襲(無辜の民を殺戮の対象とした無差別爆撃であり、国際法違反であったことはここでは措くとして)で一夜にして10万人もの生命が失われたことをはじめ、なぜ空襲の数がドイツよりも少なかった日本でこれほどの死者が出たのか、アメリカは戦後徹底的に調査を行い、その結果をまとめたのが「戦略爆撃報告書」でした。そしてその中で、米当局は死者数が多かった最大の要因として、空襲を受けた市民に対して逃げることを禁じ、ほぼ不可能な消火活動を強いた「防空法」の存在を挙げています。
 今回の台風でも、国民は大きな不安に駆られています。気象庁は予算も人員も権限も乏しいため、防災省への編入を見据えてリソースを強化するべきですし、国、都道府県、市町村とばらばらに分かれている河川管理の一元化は、西日本豪雨の教訓としても必要な措置です。急いでやらなくてはならないことだけでも山積しているのです。

 

 このように考えると、戦後の日本は戦前と訣別したことになってはいても、どこかで負の面の連続を抱えているように思われてなりません。
私も今まで、総裁選において防災省の設置を強く訴えてきましたが、未だに実現を見ておりません。もはや総理大臣として設置を決定する以外に、その実現の方策はないのではないか。これは、私が今回立候補するに至った大きな理由の一つです。
 そして防災に限らず、目の前の票やカネにはつながらないけれども、政治が本来果たさねばならない役割というものがあるはずですし、それらについても最大限に主張したいと思います。

 

 今回の総裁選挙では、投票権のある自民党員にとどまらず、広い国民のご支持が絶対に必要です。
 私自身は決して若くもありませんし、イケメンでも華やかでもありませんが、己の足らざる点を反省し、改善に努めて参ります。どうかよろしくお願い申し上げます。

 

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2024年8月23日 (金)

自民党総裁選挙など

 石破 茂 です。
 自民党総裁選挙について、明日土曜日に本籍地である鳥取県八頭郡郡家殿の神社前で立候補への思いを表明する予定です。
 今回は、最初に地元でふるさとの皆様に気持ちを伝えたいと何度か申し上げておりました。昭和59年に最初に衆議院に立候補した時の原点に返る、といったような気持ちでもあります。
 政策の発表など、いわゆる記者会見は、別途後日に行う予定です。

 今回もし同志の推薦をいただいて出馬することになれば、5回目の挑戦となります。おそらく最多記録となりますが、それ自体とてもありがたく、幸せなことだと思っております。ご支援ご支持下さる皆様、本当に有り難うございます。お気持ちを決して無にしないよう、全身全霊で臨みます。何卒よろしくお願い申し上げます。

 8月12日から14日まで、超党派の安全保障関係議員で台湾を訪問して参りました。短期間ながら、頼清徳総統をはじめとする政権首脳陣、安全保障会議メンバー、野党代表、シンクタンクの研究者などと、極めて濃密かつ真摯な議論が出来たと思っています。事柄が事柄だけに詳細は記せませんが、ウクライナ侵攻から我々は何を学ぶべきか、台湾有事とは具体的にどのような危機を想定すべきか、それについて日本としてどのような備えをするべきか、こういった実質的な議論の積み重ねから、日米台それぞれの役割や、地域の安定のために必要な法整備、予算、装備、訓練などを導き出す必要性について改めて認識しました。
 また、台湾の国民保護・災害避難民支援の態勢についても、聞くほどに日本の体制を抜本的に見直す必要性を痛感しました。本年4月の花蓮における震災対応の見事さは、台湾政府の市民の安全に対する強固なコミットメントを反映したものであり、多くの方にこの事実を知って頂きたいと思います。ネットで「台湾の避難所」と検索いただければ、いろいろ知っていただけるかと思います。

 岸田総理の総裁選不出馬は、考えに考えられた熟慮の末の孤高のご判断だったのだと拝察いたします。三年間、常人には考えられない激務をこなされたことに対して深甚なる敬意を表し、果たされた幾多のご功績について感謝の念を捧げます。この件については、また回を改めて書かせていただきたいと思います。

 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2024年8月 9日 (金)

南海トラフ地震臨時情報など

 石破 茂 です。
 株価が乱高下していますが、株価が上がって投資家の方々が利益を得た時には「素晴らしい」「嬉しい」といった反応は報じられなかったのに、下がった時は「投資家から悲鳴が上がっている」「金利を上げて株価を下げるのはデフレ脱却に冷や水をかける逆噴射政策」などとネガティブな報道がされていることには少なからず違和感を覚えます。
 金融緩和政策の基調は変わらなくとも、多少なりとも金利が上がって円高傾向になれば、食料品やエネルギーなどそのほとんどを輸入で賄っている物資の価格は下落し、物価高に苦しむ多くの人々に対してはプラスの作用となるはずですし、預金に金利がつくことになれば、投資に躊躇する人にも金利収入というプラス面もあるはずです。金利とは「おカネの値段」なのですから、それがほとんどゼロということは、お金の世界で市場原理が機能しないことになり、必要なところに資金がいきわたらず、必要でないところに資金が滞留することになります。
 金利や為替相場は反応が早い株式とは異なり、多少の時間差があるのは当然ですが、物事にはすべてプラスとマイナスの面があるのであって、両面のバランスを見極めながら、慎重に政策を遂行していかなければなりません。

 我が国が長く低成長に喘いできたのには様々な原因がありますが、その大きな要因の一つとして、企業が儲かってもそれを溜め込み、賃金の引上げや人的な投資を怠ってきたことにあるのではないでしょうか。
 同時に、社会保障制度の改革も不可欠です。労働者の4割を占める非正規労働者には、多少賃金が上がっても不況時に解雇されることを懸念して消費を控える傾向があり、これが個人消費の伸びを抑える原因の一つとなっています。自ら望まない形の非正規雇用を可能な限り減らすことと、非正規雇用であっても雇用主が社会保険料を負担する保険制度の導入に向けて、真剣に制度設計を進めるべきです。医療制度の根幹である国民皆保険もその持続可能性が危ぶまれる事態となっており、世界に冠たるこの制度を何としても存続させるために、生活習慣病、ガン、認知症などそれぞれの疾病の形態に応じた医療の見直しを進めなくてはなりません。

 7日水曜日に自民党憲法改正実現本部の総会が岸田総裁も出席して開催され、緊急事態条項と自衛隊明記についてワーキングチームを発足させ、8月中を目途として条文化の作業に入ることで一致致しました。
 名称は「自衛隊」でも「国防軍」でも敢えて拘りませんが、この「防衛省・自衛隊」は現行の法体系では国家行政組織法に規定されている行政組織そのもので、給与体系を定めた俸給表も国家公務員と同一のものとなっています。「最高の規律と最高の栄誉と待遇」という概念はここからは全く出てきません。
 警察と軍隊との相違を認識している人は多くはないのですが、両者は明らかに異なるものです。国民の生命・財産と公共の秩序を国内法に則って守り、犯人を逮捕して検察に引き渡すのが警察で、国家の独立を外国勢力による侵害から守り、対外的に国際法に則って行動するのが軍隊です。現行法上はこの相違が不分明で、「自衛隊は見た目は軍隊でも実態は警察」と言いたくなるほど、自衛隊法などの法律は警察法を下敷きに定められています。「国民の生命と財産を守る自衛隊」という言い方をする人がありますが、生命と財産を守るのは警察の仕事であって、その本質が理解されていないことはとても残念です。
 第9条後段の「国の交戦権はこれを認めない」についても、「戦争を放棄した日本が戦いを交える権利を持たないのは当然だ」的な理解をされておられる方が多いのですが、交戦権はそのようなものではなく、その内容の主要な部分は「交戦国に認められている権利」であり、その権利に伴う義務も当然に生じます。これはジュネーブ条約などに定められた、捕虜の虐待などを禁じた「戦争のルール」であり、国際社会共通のもので、日本だけが認めないなどと言ったとしてもそこには意味はありません。「国の交戦権はこれを認めない」とは「戦争のルールはこれを認めない」と言っているに等しく、国際社会の常識を大きく外れているとしか言いようがありません。
 日本政府は「交戦権(戦時法規)の主要な部分である、戦争犠牲者保護のルールを除くものである」との説明をしていますが、交戦権は国際的に共通のものであり、わが国だけが勝手に分割して解釈できるものではありません。これがいかに恐ろしいことか、立法府にいる我々はこのことを強く認識しておかねばなりません。
 私も、憲法第9条第2項の改正が大きな困難を伴うことは十分に承知しており、だからこそ平成24年の自民党憲法改正草案を起草するにあたっては、安全保障基本法案の概要を示して党議決定したのです。
 憲法改正には衆参それぞれの総議員の三分の二の賛成で発議し、国民投票の二分の一の賛成が必要ですが、基本法であれば定足数を満たした各議院の過半数の賛成で足りるのであり、実現へのハードルは比較的低いというべきでしょう。
 この基本法に対しては、日弁連をはじめとする各界から強い批判が寄せられており、丁寧に検証する必要があるのは当然です。しかし、それなくして「公明党や野党の多くが賛成しない憲法第9条第2項の削除などは不可能なのだから、当面自衛隊明記だけでも実現すべきだ」とするのはむしろ本末転倒になりかねません。

 昨日、南海トラフ地震の「臨時情報」が初めて発表され、住民に対してすぐに避難できる準備を求めることとなりました。お盆休みを控えて、国民生活には少なからぬ支障が生ずることになりますが、「情報」を出して後はそのまま、ということにならないよう、政府は細心の注意をもって臨んでもらいたいものです。
 改めて国民の保護を主眼とした組織(防災省・国民保護省)の立ち上げの必要性を強く感じております。「国民一人一人が安心と安全を実感できる国」を目指していかなくてはなりません。日本の人口10万人当たりの自殺率は世界ワースト第6位(G7ではワースト1位)、女性はワースト3位、というのは極めて深刻な事態であり、国民の幸せの実現とはなにか、をもっと真剣に追求すべきなのではないでしょうか。

 自民党総裁選挙を来月に控え、選挙のあり方についての議論が党の選挙管理委員会において行われると聞いております。この総裁選のあり方は、可能な限り党員の意見を反映させるべきであり、公職選挙法の適用に近いものとしたほうが国民全体の理解は得られやすいように思います。自民党員は公称約100万人おられるのですから、例えば候補者のリーフレットを全党員に郵送するとすれば、それだけで億単位のカネがかかることになります。この辺に留意して、どれだけ「カネのかからない選挙」に近づけるか。それが「政治とカネ」の問題の解決にも資するはずです。

 来週12日から14日まで、「超党派 安全保障を考える議員の会」で台湾を訪問し、頼清徳総統はじめ政権幹部、立法委員などの皆様とそれぞれ個別に会談して参ります。「今日のウクライナは明日の北東アジアかもしれない」「台湾有事は日本有事」とのフレーズについて、それぞれ具体的にどのような事態を想定すべきか、何を準備すべきか、認識の相違もあるように思われます。決して戦争の惨禍が繰り返されることの無いよう、十分な議論を尽くしたいと思っております。
 酷暑の日々、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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2024年8月 2日 (金)

スナク首相メッセージなど

 石破 茂 です。
 日本ではあまり報道されませんでしたが、先日の英国議会において、総選挙で大敗北を喫して政権を去るスナク首相が最後の演説でスターマー次期首相に対して送ったメッセージは感銘深いものでした。議席を失った多くの保守党議員に謝罪しながらも、それが国民の意思であることを謙虚に受け止めるべきと述べたうえで、スターナー氏との意見の違いを認めつつも同氏を心より尊敬しているとし、新政権が有権者の意思で誕生したことに敬意を表し、良い働きが出来ることを祈ると語ったそうです(立川福音自由教会・高橋秀典牧師のブログによる)。有権者に対する畏れの気持ちを持ち、争った相手を敬う謙虚さは、すべての政治家が持つべき姿勢だと強く思います。

 

 前回の当欄で、1944年8月5日にオーストラリアで起こった日本人捕虜集団脱走事件である「カウラ事件」について書いたところ、「オーストラリア兵も残虐だった」とのコメントをいくつか頂きました。オーストラリア兵だけではなく、米兵などによる日本兵に対する残虐行為があったことも指摘されており、研究もされています。それも含めて、戦場とは「平時の人間の常識を遥かに超えた狂気の世界」であることは間違いのない事実であり、それは今後も変わることがないのだと思われます。綺麗事を言うつもりも、安易な「パシフィズム」に与するつもりもありません。こういった「戦争の狂気」をよく認識した上で、冷静かつ徹底的に抑止論を追及し、政策として具体化するべきものだと痛感しています。
 オーストラリア関連では「カウラ事件」の他に、1942年2月、シンガポールとインドネシア間の海峡にあるバンカ島で発生した「バンカ島事件」(日本軍によってオーストラリア兵や陸軍従軍看護婦らが殺害されたとされる事件)も、最近知りました(インドネシア領であるバンカ島は今、リゾート地として賑わっているそうです)。
 日豪関係はいま、「理想的な二国間関係」と言われるまでに発展していますが、ここに至るまでには大変な先人たちの尽力があったことを決して忘れてはならないと思っております。私は個人的には、防衛庁長官在任中から、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド三国からなる「UNZUS(アンザス)条約」に日米安保を加えた集団安全保障体制(仮に「JUNZUS(ジャンザス)と呼んでいました)が構築できないかと考えています。もちろんこれには、我が国の集団的自衛権についての考えの再考が必須です。

 

 昨8月1日、自民党青年局の役員が岸田総裁に対して、総裁選挙の期間は長くとること、自民党が行なっている「全国車座対話」の総括を党本部の政治刷新本部において行うこと、等について申し入れたとのことです。彼らの主張は誠にもっともだと思いますし、前回当欄で述べたことと共通するところ大ですが、これを執行部がどのように取り扱うのか、自民党の地方組織はこれを注視しているものと思います。
 33年前、当時当選二回であった我々も、青年局のメンバーとして何度か当時の海部俊樹総理・総裁に申し入れをしたものでした。政治改革本部長であった伊東正義先生から「キミ達若い者こそが国民の一番近いところに居るのだ。キミたちが行動しないで国民の声が政治に届くことはない」と叱咤されたことを思い出しました。

 

 今週は「縮んで勝つ 人口減少日本の活路」(河合雅司著・小学館新書・最新刊)を大変面白く読みました。同氏の一連の著作における主張をコンパクトにまとめたもので、極めて示唆に富むものです。
 今月7日に、倉重篤郎氏が私との対談をまとめた「保守政治家」が講談社より発売になります。ご高覧頂ければ幸いです。
 酷暑の折、皆様ご自愛のうえ、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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